今や企業を支える重要な労働力になりつつある「派遣労働者(派遣社員)」。企業側としては、必要な人材が必要な時に確保できたり、派遣企業が労務管理を行うことで手間が省けるなどのメリットがあります。企業によっては、正社員以上に活躍しているところもあるかもしれません。
しかし、注意をしなければいけないのが、派遣労働者には「労働者派遣法」という、正社員にはない法律が背後にあることです。これを見逃して正社員と同じように扱おうとすると、思わぬ落とし穴に落ちてしまうことがあります。しかもこの労働者派遣法は、このところ改正が検討されており、その動向が注目されています。
まずは、派遣労働者の基本的な仕組みを確認してみましょう。派遣労働者は、派遣元(派遣労働者を派遣する企業)と労働契約を締結し、派遣元から賃金をもらいます。しかし、派遣元が派遣契約を締結した派遣先(派遣労働者が派遣される企業)で仕事を行い、派遣先から業務の指示を受けます。
正社員など通常の労働形態の場合、労働契約の相手と業務の指示を受ける相手は同じです。しかし派遣の場合には、労働契約と指示を受ける相手方が異なります。これが派遣の最大の特徴です。
業務内容についても、派遣労働者は派遣元との契約において定められている就業条件等の範囲内でのみ、派遣先の指示に従う義務を負います。そのため派遣先は、派遣労働者に対し、前記就業条件等を無視し、自社の社員と同じように指示をすることはできません。
有給休暇の場合も、派遣先ではなく、派遣元の事業の運営に支障がでるかどうかで判断されます。そのため、派遣先の業務が多忙というだけで、派遣労働者の有給休暇を拒否できません。
派遣労働者は労働者派遣法によってこのように規定されているため、派遣労働者の管理には派遣元と派遣先との緊密な連携が求められます。派遣労働者の採用を検討する際には、まずこのような違いについて意識することが必要でしょう。
派遣対象となる業務はこれまで拡大されてきましたが、現在でも港湾運送業務、建設業務など一定の業務は禁止されています。
そのため、派遣労働者の採用を検討する際、そもそも派遣が許されている業務なのか確認が必要です。派遣法施行令4条等では、派遣労働者が働くことができる28の業務(専門的な知識・技術・経験等を必要とする情報処理システム開発関係、機械設計関係、駐車場管理関係など)を指定しています。
労働者の派遣が可能な業務であっても、業務の種類によって、派遣可能期間(派遣労働者を派遣できる期間)に制限がある場合と、派遣可能期間に制限のない場合があります(法改正により、今後制限される可能性があります)。
先ほど挙げた28の業務と、産休・育児休業の代替の業務などには、派遣可能期間に制限はありません。そのため、これらの業務であれば、いつまでも派遣労働者として働いてもらうことができます。
しかし、これら以外の業務で派遣労働者が必要な場合、派遣労働者は原則として1年、最長でも3年(1年を超える場合には、労働者の過半数代表などの意見聴取が必要)しか働いてもらうことはできません。
つまり、派遣労働者に継続的に働いてもらえる期間は限定されているのです。
このように考えると、とりあえず派遣期間を最長の3年間として派遣労働者を採用すればよいと考える方がいるかもしれません。しかし、後述するように、派遣労働者を派遣期間内に解雇するハードルは非常に高いものです。そのため、派遣労働者を採用するとき、派遣労働者がどの程度の期間必要かにつき、慎重に検討しなければいけません。
なお、派遣労働者の派遣可能期間については、下限も設定されており、雇用期間が30日以内の日雇派遣も、原則として禁止されています。この点から見ても、計画的な派遣労働者の採用が重要です。
派遣労働者が、気が付いたら自社の社員になる?
次に、派遣先と派遣労働者との労働契約についてみてみましょう。
先に説明したように、派遣労働者は派遣元と労働契約を締結しており、派遣先と派遣労働者の間には、直接の労働契約はありません。しかし、以下のような場合には、労働者派遣法の規定により、派遣先と派遣労働者との間で直接の労働契約が締結されることがあります。
1.派遣労働者を継続して1年以上同一業務に従事させ、期間満了後も新たに労働者を雇い入れようとするとき、その派遣労働者を雇い入れる努力義務があります。
2.派遣可能期間がない業務の場合、派遣労働者を継続して3年を超えて同一業務に従事させ、その後も新たに労働者を雇用しようとするとき、その派遣労働者に対し、雇用契約を申し込む義務があります。
3.派遣可能期間がある業務の場合、派遣元から、派遣可能期間を超えた後は派遣ができない旨の通知を受けたにもかかわらず、その後もその派遣労働者を使用しようとするときは、その派遣労働者に対し、雇用契約を申し込む義務があります。
このように、派遣可能期間を超える場合等、別の派遣社員を使い、派遣を継続させることはできません(別の派遣企業を使うこともできません)。派遣可能期間等を超え、なお労働力が必要な場合、派遣先は、派遣労働者に対し雇用契約を申し込む義務があり、派遣労働者の承諾があれば、派遣労働者を直接雇用しなければならないのです。
特に上記2、3の義務違反に対しては、労働局からの指導等がなされるだけでなく、勧告や企業名の公表が予定されているため、これらの義務は軽視できないでしょう。もっとも、申し込むべき雇用契約の内容としては、派遣先との直接の雇用契約であれば契約社員でもアルバイトでもよく、正社員である必要はありません。
また、平成27年10月1日以降、派遣可能期間を超える派遣や後述の偽装請負などの場合には、派遣先がその派遣労働者に対し、労働契約の申込みをおこなったものとみなすことになっており、派遣労働者からの一方的な承諾によって労働契約が成立する可能性があります。そのため、派遣可能期間や偽装請負等にも注意が必要です。
請負契約で労働者派遣法の規制を回避できるか?
ここまで派遣労働者に関する制限などをお伝えしてきましたが、企業がこの制限を避けて労働者不足を解決する方法のひとつに、「業務処理請負」というものがあります。
業務処理請負とは、外部の独立した企業(個人)に対し業務の処理を依頼することをいいます。業務処理請負の場合は、発注者は受注者に対し仕様、納期等を指定することはできますが、業務の完遂までの具体的な方法、内容等については、直接指示を出せません。一方で派遣の場合は、派遣先が派遣労働者に対し直接指示を出すことができます。これが派遣と業務処理請負の主な違いです。
業務処理請負の方法をとれば、派遣に関する規制を受けることなく派遣と同じように外部の労働者を利用することもできますが、この派遣と請負との違いをよく理解し、「偽装請負」とならないように注意が必要です。
「偽装請負」とは、簡単にいうと見せかけは請負でも、実態はそうではない状態をいいます。契約書において「請負」と記載があれば、大丈夫だと考えている方もいるかもしれません。しかし、派遣か請負かの判断は、上述したような働き方の実態から判断されます。請負だと思っていても、実態が派遣であると判断された場合、派遣法の規制(前記規制のほか、派遣元指針[平成11年厚生労働省告示137号等]、派遣先指針[平成11年厚生労働省告示138号等]などがある)を順守していないとして、労働者派遣法等の違反になる可能性があります。また、損害賠償責任を負う等のリスクもあります。そのため、業務処理請負を依頼する場合、実質的な派遣とならないように注意が必要です。
たとえば、業務処理請負の方法により依頼をしているのに、自社(発注者)が業務の指示・管理、労働時間や休日などの管理、業務の処理に必要な費用・設備の負担を行っていませんか。行っている場合には、偽装請負、すなわち実態は派遣であると評価される可能性があります(昭和61年4月17日労働省告示第37号参照)。
もし企業が請負であると考えているのであれば、事前に業務内容や仕様を詳細に定め、仕事中に具体的な指示を出さないように注意をし、自社の社員と区別をすることが重要になります。
派遣社員は簡単に解雇できるのか?
期間に定めのある労働契約(有期労働契約)が多い派遣契約ですが、期間途中に派遣元と派遣先の派遣契約が解約され、それにともない派遣元が派遣労働者を解雇することがあります。しかし、派遣における有期労働契約の場合も他の有期労働契約同様、解雇には「やむをえない事由」(労働契約法17条)が必要であり、非常に厳格に考えられています。そのため、派遣だからという理由だけで解雇がしやすいということにはなりません。
むしろ、解雇をすることになる派遣元は、派遣労働者の勤務態度等の資料をもっていないことがあるため、派遣先と連携を密にしなければ、資料が整わず、解雇自体が困難になることもありえます。解雇を行う際には、事前に派遣先・派遣元が密に情報交換を行い、慎重に手続きを進める必要があるでしょう。このため先にも述べたように、派遣労働者を採用する段階で派遣労働者がどの程度の期間必要なのかを、予め慎重に検討しておくことが大切なのです。
以上のように、派遣労働者の特徴について述べてきました。これまでの内容をまとめると、派遣労働者を雇う際には大きく以下の5つの点に気を付ける必要があると言えます。
1.派遣労働者は派遣元の社員であり、労務管理などは派遣元が行う
2.業務の種類によっては、派遣可能期間に制限がある
3.派遣可能期間を超えて派遣労働者を雇いたい場合、状況によって直接の雇用契約が必要となる
4.派遣以外の方法で労働力を確保するときは、偽装請負にならないよう、注意が必要
5.派遣労働者だからといって、簡単には解雇できない
派遣労働者というと、正社員に比べ雇いやすいと考えがちですが、派遣労働者を雇うには上記のようなさまざまなルールがあります。派遣労働者で失敗しないためには、派遣労働者の特徴をふまえ、“使い捨ての人材”として考えないことが重要ではないでしょうか。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2014年9月8日)のものです。