3人に1人が60歳以上となる高齢化社会を迎えました。労働力として高齢者を取り入れなければいけない企業も少なくないでしょう。
ところで、高齢の労働者について規定されている「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下、「高年法」)」という法律をご存知でしょうか。その名の通り、高齢者の雇用をサポートするための法律で、企業は65歳までの安定した雇用を確保するための措置が求められています。また、定年制度を定める場合、60歳を下回ることはできません(同法8条)。
さらに、定年が65歳未満で定められている企業には、(1)定年の引き上げ、(2)定年制度の廃止、(3)継続雇用制度(定年後も引き続いて雇用する制度)の導入、という3つのうち1つの措置を取ることが求められています(高年法9条1項)。これが「高年齢者雇用確保措置」と呼ばれるものです。
今回は「高齢者雇用」をテーマに、高年齢者雇用確保措置を取る際に忘れてはいけないポイントを見ていきます。なお高年法では、45歳以上55歳未満を「中高年齢者」、55歳以上を「高年齢者」と定義していますが、本記事では主に高年齢者雇用確保措置を中心について取り上げるため、60歳~65歳の労働者を「高齢者」として呼ぶことにします。
高年齢労働者雇用のメリット・デメリット
企業にとって、高齢者を雇用するメリットは少なくありません。長年の経験に基づくノウハウ、知識の集積があります。これらのノウハウは、マニュアルや書籍などでは得難いものです。そのため、このような労働者が企業で後輩の指導に当たることは、非常に大きなメリットとなるでしょう。また、年齢的、経験的にもリーダーシップ能力を発揮しやすいこと、責任感が強いことなどもメリットといえるでしょう。
しかしその反面、年齢が裏目に出ることもあります。プライドが高く扱いにくい、時代の流れについていけない、加齢による生産性の低下があるにもかかわらず高賃金となってしまう、役職ポストが埋まり若手の成長が阻害される、などなど。思い当たるフシがある人も多いでしょう。
冒頭で挙げた高年齢者雇用確保措置を講じる場合、メリットの多い高齢の社員であれば、喜んで継続雇用したいところですが、問題はデメリットの多い高齢の社員です。本来なら60歳の定年で会社を去るはずが、さらに5年間も居ることになります。
とはいえ、「高年齢者雇用確保措置を導入しない」という選択は現実的ではありません。同措置を無視した結果、労働者から「65歳まで働きたくても働けなかった」として不法行為等を理由に損害賠償を請求されたり、行政による指導、勧告だけではなく、企業名が公表されることもあります。関連する助成金や年齢者雇用アドバイザー制度なども活用し、前向きに導入するほうが現実的です。
(1)定年の延長を考える
それでは高年齢者雇用確保措置の導入はどのように検討すればよいでしょうか。先に述べた3つの措置について、順番に見てみましょう。
定年制を導入している企業の場合、一番はじめに考えやすいのが「(1)定年の引き上げ」、つまり定年を65歳まで引き上げるという方法です。…
言ってしまえば60歳の定年を5年間延長するだけのため、もっとも簡単なやり方と言えるでしょう。従来の定年の年齢を超えても、通常は職務内容、役職に変更はありません。これまでの給与体系などを移行しやすく、導入も容易にきるでしょう。また、従業員のモチベーションが高まり、企業への忠誠心が増すことも期待できるかもしれません。
しかしこの方法の最大のポイントは、全員の継続雇用が前提となることです。そのため、労働力の供給過多な状態になりやすいといえます。さらに、労働条件も従来の定年時期を過ぎても原則として維持されてしまうため、年功序列的な給与体系であれば、生産性の低下とは無関係に高賃金となります。勤続期間が長期化することで、退職金が増加する企業も多いでしょう。職務内容もそのまま継続するため、役職手当も支払われ続けます。企業の費用負担は増える一方です。また、企業には、労働者の健康に対する管理義務、配慮義務もありますが、加齢によって健康に対する配慮を余儀なくされる場面も増えることが予想されます。
定年制を延長するのであれば、早期退職制度を活用した労働力の調整が最低限必要になります。また、生産性と無関係な賃金を支出することがないように、たとえば60歳以降の賃金体系は成果を中心にしたり、退職金の算定において60歳以降の勤続期間は考慮しない との規定を整備するなどが必要でしょう。
(2)定年制度自体を廃止する
2つ目の方法として「(2)定年制度の廃止」、という選択肢もあります。この方法も、定年制の延長同様、通常は従来の定年の年齢を超えても職務内容、役職に変更はありません。また、基本的には定年制を廃止にするということだけなので、導入も容易に思えます。さらにいつまででも働くことが可能になるため、従業員のモチベーション上昇に役立つかもしれません。
しかし、この方法も定年制の延長と同様の問題を抱えてしまいます。すなわち、賃金、退職金等の増加による企業負担です。むしろ、従業員が退職する時期が予測できないため、労働力の供給過多となりやすく、新人を雇うことが困難となり、企業の成長が阻害される可能性もあります。
定年制を廃止するのであれば、成果中心の賃金体系に変更をしたり、職務内容を数値で評価するなどを行い、また、退職勧奨制度を適切に活用し、労働力の調整ができるようにする必要があります。
(3)「継続雇用制度」を考える
最後に「(3)継続雇用制度」を導入したらどうでしょうか。この制度では、従来の定年の年齢になった後、労働者を再雇用する方法または継続して勤務してもらう方法により、雇用を継続することになります。
継続雇用制度は、継続雇用を希望しない労働者が、従来の定年の年齢で退職できるというところが最大のポイントになります。また、継続雇用の際には、就業規則等で定める解雇事由に該当する労働者を継続雇用しないとすることもできます。これを機に、やる気のない労働者や問題のある労働者を雇用しておく必要はなくなります。また、親子関係にある法人等で継続的に雇用することも継続雇用制度として認めてられいるため、労働者をこれまで働いていた企業で必ずしも採用しなくてもよいという点も魅力の一つでしょう。
もっとも、継続雇用制度のうち、継続して勤務してもらう方法により雇用を継続すると、これまでの雇用契約が引き継がれることになります。この場合も、定年制の延長と同様の問題が生じることになります。
しかし、再雇用の方式を採用すれば、それらの問題が生じません。つまり、再雇用の場合には、これまでの雇用契約がいったん解消され、個々の労働者と今後の労働条件を協議して決めることができるため、たとえば契約期間を1年と定め、毎年パートタイマーとして契約を更新したり、嘱託社員として契約をすることも可能です。就業時間なども希望者のニーズに応じてフレックスタイムを導入するなど柔軟に対応できます。賃金についても生産性の低下や在職老齢年金を踏まえて決定することもでき、職務内容も調整できます。
そのため、この方法の利用が、最も容易に企業のニーズと高年齢者のニーズいずれにも柔軟に対応でき、高年齢労働者雇用のメリットを最大限に、デメリットを最低限にしやすいように思います。
とはいえ、継続雇用制度は65歳までの雇用を前提としているため、65歳までは原則として更新されうるという考点には注意が必要です。理由なき契約更新拒否は、基本的にはできないものと考えるべきです。また、有期契約として契約を更新する場合、契約期間が通算5年を超え、労働者からの請求があると、労働契約法により「無期雇用契約」、つまり正社員への転換が認められるため、この点にも注意が必要です。
このように、高齢者雇用確保措置といっても複数の方法があります。いかなる方法によるかは、その企業の理念や規模、業種などによって異なることになるでしょう。いずれにしてもそれぞれにメリット・デメリットが必ずあります。ここは腹をくくって、企業の賃金体系等を見直す良い機会と捉えてみてはいかがでしょうか。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2014年12月17日)のものです。