ビジネスの世界では、代金未払い、商品のクレームといったお金や心理面に関わる紛争は、残念ながら起ってしまうものです。ですがその解決の方法として、長い時間や高いコストがかかる裁判を用いることはできるだけ避けたいものです。裁判では紛争解決までに1年近く要することはよくあります。また、裁判自体が専門的であるため、弁護士に依頼せざるをえず、その場合には、争いとなる金額が大きいほど、弁護士費用も高額になるのが一般的です。
スムーズにビジネスを行い、無駄な時間とコストを使わないためにも、紛争は予め防いでおくのが非常に重要となります。今回は紛争予防の手段として、弁護士を活用した例を紹介します。
弁護士は、裁判のプロです。裁判では、「証拠」に基づき、事実が認定され、勝ち負けが決まります。そのため、「証拠」が非常に重要です。どんなにやり手の弁護士に依頼をしたとしても、「証拠」がなければ裁判に勝つことはできません。逆に「証拠」さえ揃っていれば、多くの弁護士が有利な結論を導くことができます。
弁護士は、裁判の場で常に「証拠」を扱っています。契約書に限らずどのような「証拠」があれば、裁判になったときに勝てるのか、どのような「証拠」がなければ負けるのかということに敏感です。
そのため、弁護士に事前に相談をすれば、紛争になりそうなところを予想し、効率的に「証拠」を作ることができます。「証拠」があれば、交渉などを有利に進めることができます。その結果、紛争を予防することができるのです。
インターネット等の普及により、一般的な契約書の書式は容易に入手できるようになりましたが、実際に利用するビジネスの特徴を反映していないことも多く、契約書(つまり証拠)としては不十分なことがあります。…
そのため、実際に行うビジネスにも対応できるものかどうか、弁護士がチェックをする必要があるのです。たとえば相手方の信用状況に応じて債権回収の条項を工夫したり、担保の内容を考えたりということもします。
契約書だけでなく、発注書や請求書の書式をチェックすることもあります。契約書を取り交わさない取引でも、発注書、請求書の記載内容を工夫することによって、紛争を予防する必要性があることに変わりはありません。
企業合併のときには、弁護士は契約書の作成だけではなく、合併にともなうさまざまなリスクの調査もします。また、クレーマー対策やインターネット上の風評被害に早期に関わり、裁判に必要な証拠を収集・保全しながら交渉し、これらから生じる紛争リスクを最小限に防ぐこともできます。
最近では、行政調査などに弁護士が立ち会いをすることによって、不当な権利侵害を受けないようにすることも弁護士の活動として注目されています。これは、行政が不当な方法により「証拠」を得ることを予防し、無用の紛争を避けることを目的としています。
ほかにも、違法とならないようなセールストークや広告方法を考えたり、交渉術をアドバイスしたり、新しい事業が何らかの法規にふれていないかどうかのチェックなども行っています。
弁護士を起用し、企業の対外的な活動全体をチェックすることで、紛争を予防することができるのです。
企業内部での紛争も予防する
企業が予防したい紛争は、必ずしも対外的な関係から発生するとは限りません。企業内部の紛争も予防したいものです。
弁護士による内部紛争の予防としては、株主総会の指導などがよく挙げられていますが、活躍の場はこれ以外にもあります。
多くの会社で意外と見落とされているのが就業規則です。就業規則は、裁判において非常に重要な証拠となります。しかし、変更の手続きが煩雑なことなどから、設立当時のままという企業も多いのではないでしょうか。このような就業規則を現在の法令、判例等をふまえ改正することによって、内部的な紛争リスクを下げることができます。
最近話題となっているセクハラやパワハラ、情報管理についての紛争も、内部ルールという証拠を作ることや研修の実施という証拠を作ることによって、「~では禁止されている」「~で学んだ内容によれば許されないはず」などと具体的に指示することが可能となり、予防が可能です。このような内部ルール作りや社内研修にも積極的に弁護士を活用するとよいでしょう。
相談のタイミングと相談の仕方
前述のような内容を弁護士に依頼するとして、どのようなタイミングで相談をするとよいのでしょうか。答えは「できるだけ早く」です。弁護士に依頼するべき内容かどうかを含めて、まずは一度相談してみるということが重要です。
早すぎて困ることはありません。早期に相談をすれば、弁護士はなるべく紛争になりにくい段取りをアドバイスすることができます。この場合に掛かる費用は法律相談料だけなので、金銭的にも負担にならないでしょう。
“すでに顧問税理士に確認をしているので大丈夫”と考える方もいるかもしれません。しかし、税理士は税務の専門であっても、法律の専門家、「証拠」の専門家ではありません。そのため、法的リスクについての判断は弁護士に相談をするべきでしょう。
法律相談を受ける場合はコツがあります。事前に事実関係を整理してメモなどに明記しておくことです。事実関係を整理するときは、実際にあったこととその結果感じたこと、思ったことを書き分けることが重要です。たとえば、「だまされた」というのではなく、「~から、~と言われた」といったように、あくまで事実ベースで情報を揃えましょう。
法律相談では、相談者の方が話す事実を前提に一定のアドバイスをします。そのため、事実関係を正確に伝えることは非常に重要です。前提となる事実関係が不正確であると、せっかくのアドバイスが無意味となるかもしれません。
また、このようなメモを作っておくと、複数の弁護士に相談をするときにも同じ事実関係を説明したうえでアドバイスを受けられるため、より正確なセカンドオピニオンを得ることができ、その意味でも役立ちます。
顧問契約のすすめ
弁護士は、企業の税務を支える税理士と同様に、法務を支える経営者のパートナーです。経営者がビジネスに専念しながら、法的リスクを軽減するため、顧問契約を結んでおくことが大事です。
なぜなら、パートナーとしての役割を充分に果たすためには、弁護士が経営理念や経営実態、取引内容などを理解していることが大前提です。単発の法律相談や依頼で当初からこれらを把握することは困難ですし、経営者自身も気軽に法律相談ができる必要があります。顧問契約を結んでいる場合、一般の相談予約よりも優先して対応したり、紛争が発生した場合には一定の割り引きをしたりすることもあるようです。
顧問契約の内容や費用はそれぞれの弁護士にゆだねられていますが、法律にしたがって企業活動をしていく以上、このような関係の弁護士がいることは、ビジネスを行う上で必須ではないでしょうか。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2015年3月11日)のものです。