弁護士によって組織されている日本弁護士連合会は、1990年の司法制度改革宣言以来、市民の司法の実現を目指し活動をしてきました。その結果、2000年には、全国で約1万7,000人しかいなかった弁護士が、2014年では、約3万5,000人にまで増加しました。今後も増加が予想されます。
これだけ弁護士が増加すると、その中から誰に相談をするのがよいのかわからなくなります。そこで、最終回である今回は、失敗しないための弁護士の選び方を考えてみましょう。
良い弁護士の条件
誰であれ、なるべく良い弁護士を探したいと思うものです。そこでまず、どんな弁護士が良い弁護士といえるか考えてみましょう。
弁護士の仕事は、基本的にはオーダーメイドであり、定型的な処理には向きません。そのため、高度な法的知識の他に、最低限依頼者としっかりとコミュニケーションが取れ、迅速・的確なアドバイスをしてくれることが必要です。
このようなことをいうと、意外と思われるかもしれません。しかし、2014年版弁護士白書によると、依頼者からの弁護士に対する苦情申立ての内容で最も多いのが、対応・態度等(約32%)であり、その次に多いのが事件処理の仕方(約25%)となっています。このように現実に紛争となっている以上、コミュニケーション能力やアドバイスの内容については、依頼者側でも吟味をする必要があるでしょう。
コミュニケーションがとれるかどうかは、弁護士が依頼者の言い分を丁寧に聞いてくれるか、弁護士が依頼者にわかるように説明しようとしてくれているかなどで判断することができます。依頼者の話を聞かない弁護士は要注意です。思い込みで事件処理を進められ、あとからそんな話は聞いていないなどとトラブルになりかねないからです。また、ごくまれに依頼者とほとんど面談をしない弁護士もいるようですが、そのような場合にも要注意でしょう。
迅速・的確なアドバイスがなされているかどうかは、対応までの時間、自分に不利な点も指摘されているかどうか、契約書などの証拠の有無、内容にも関心をもっているかどうか、とりうる方針や料金の説明がしっかりとしているかで、最低限大丈夫かどうかが判断できます。
また、たとえば「Aという事業をしたい」という相談に対し、「法律では~となっている。」という回答だけではなく、「その結果、Aという事業ができる(できない)」という具体的なアドバイスまでするか否かもポイントです。その後「Aができない場合には、Bという方法を使って同じ目的を達成できる」という違う観点からのアドバイスができる弁護士や、法律相談後に何をすべきかが明確にわかる弁護士は、より良い弁護士といえるでしょう。
良い弁護士を選ぶ基準
では、そのような良い弁護士をどのようにして、探せばよいでしょうか。知り合いがいないような場合、まず考えられるのが、インターネットや広告などによる情報収集でしょう。
しかし、残念ながら、これだけでは、良い弁護士かどうかを判断することはできません。よく聞かれる判断基準をいくつか検討してみましょう。
【1】ベテランがよいか、若手がよいか?…
弁護士には、登録番号や修習期というものがあり、これによって経験年数を知ることができます。一般的には、経験年数の多い弁護士のほうが良いと思われるかもしれません。しかし、経験年数が長くても自分が依頼をしたい分野について充分な経験や知識があるかどうかはわかりません。忙しくて迅速に対応をしてくれないかもしれません。逆に、若手であっても、勉強熱心であれば充分に知識があるということもあるでしょう。そのため、経験年数だけでは、良い弁護士かどうかの判断はできません。
【2】広告・ホームページがあったほうが安心か?
弁護士の業界には、未だに一見さんお断りの弁護士が多数います。つまり、ホームページや広告を出さなくても充分に経営が成り立っている(信頼されている)という場合が多くあります。経営的に不安であるため、広告に頼っている弁護士もいます。そのため、これらの存在からも良い弁護士かどうかは判断できません。
もっとも、消費者の誤解を招くような広告をしているなど、広告内容を見ることによって、コンプライアンスには疎い弁護士であるなどと推測ができることはあります。
【3】専門分野があるかどうか?
弁護士をしているとよく聞かれるのが「専門分野」です。この専門については誤解をされている人が多いように思います。
確かに東京や大阪のような大都市においては、一定の分野しか行っていない弁護士も存在します。しかし、多くの弁護士は分野を限定せずに業務をしています。また、インターネットなどで専門性をアピールしていたとしても、現時点では、それらはあくまで自己申告にすぎません。
そのため、専門性をうたっていても、力を入れたい分野程度にとらえておくほうが無難でしょう。
【4】料金の相場はあるのか?
現在、弁護士の費用は、個々の弁護士が自由に設定できることになっています。また、料金の形態もさまざまです(着手金と報酬金と2回に分けてもらうもの、時間制、完全成功報酬制など)。実費としてコピー代を請求する弁護士もいれば、特に郵便、交通費などの費用などを請求しない弁護士もいます。そのため、相場はないといったほうがよいかもしれません。
もっとも、日本弁護士連合会作成による「2009年度アンケート結果版 アンケート結果にもとづく中小企業のための弁護士報酬の目安(PDF)」というものもあります。あくまで目安ではありますが、一応の参考になるでしょう。
弁護士費用は、通常、手間、難易度などをふまえて算定することになります。しかし、たとえば報酬を基準よりも安くする理由の一つをとってみても、将来的に得意分野にしたいので勉強のために安くてもやる、事務所経営のために依頼してほしいので安くする、定型的な処理を予定しているため安くする、正義のために安くするなどの理由が考えられます。そのため、報酬が高いからちゃんとした弁護士であるとか、悪い弁護士であるとはいえません。
ただし、報酬の説明すら充分にしてくれない弁護士には注意が必要です。
ちなみに、弁護士は、他の士業(行政書士や司法書士など)よりも報酬が高いように思われているように思います。しかし、料金設定はそれぞれですから、そのようなイメージは改める必要があると思います。まずは、しっかりと見積もりをとることが重要でしょう。
良い弁護士の選び方
上記のように、ダメな弁護士を選ばないようにする方法はあるのですが、良い弁護士を選ぶ基準というのはあってないようなものです。それでは、どうやって良い弁護士を選べばよいのでしょうか。
これに対しては、「必ず複数回の法律相談を受けてみる。その結果、前述のようにコミュニケーションがしっかりと取れる弁護士に依頼をする」ということに尽きます。
弁護士の仕事はオーダーメイドです。そのため、相談をする弁護士が異なれば方針、報酬などが異なることは多々あります。個性も異なるため、話しやすさなども異なるでしょう。そのため、まずは複数の弁護士に相談をすべきです。
では、どのようにして法律相談に行くのがよいでしょうか。
お手軽なものとして、弁護士会主体で中小企業支援のために行っている「ひまわりほっとダイヤル」というものがあります。これを利用すると弁護士会から弁護士を紹介してもらえるうえ、面会しての相談を30分受けることができます。ほとんどの地域で実施されており、利用料は東京であれば無料です。
また、弁護士会が主催する法律相談センターというところでも、原則として有料(30分5,000円・税別)ですが、弁護士と面会して相談をすることができます。
これらの相談では、相談を受ける弁護士にも一定の要件が求められているため、質の高い弁護士に担当してもらえる可能性が高いところが魅力です。また、料金についても、法外な金額を要求されることはまずありません。まずはこれらを利用して弁護士の一般的な回答水準を確認するのがよいでしょう。
またこれと平行して、他の一般事務所などにおいても法律相談を受けるとよいでしょう。
広告のない弁護士のデーターベースとして、日本弁護士連合会が提供している「ひまわりサーチ」という弁護士情報提供サービスがあります。すべての弁護士が登録をしているわけではありませんが、住所や取り扱い分野等から絞り込み検索をすることもできるため、このサービスを利用して、会社周辺の法律事務所を調べてみるということもおすすめです。
本連載を通じて、弁護士の仕事、法律的な考え方を少しは紹介できたと思います。弁護士は決して敷居の高い存在ではなく、むしろ日常的な経済活動には必須の存在です。そのため、今後の経済活動を円滑にするためにも、「My弁護士」を探してみてはいかがでしょうか。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2015年3月24日)のものです。