当たり前の話ですが、ビジネスではお金のやり取りが発生します。例えば、ある会社・個人が提供するモノやサービスを受け取った会社・個人には、提供されたモノやサービスの対価を支払う義務があります。
ただ時に、対価が支払われないトラブルが起こります。すでに引き渡したモノの代金が振り込まれない、毎月支払われるべきサービスの利用料が入金されない……。モノやサービスの提供者側は、こうした未払いのお金を相手方に要求する権利を有します。この権利を、法律で「債権」といいます。
多額の債権を回収するには、弁護士など専門職に依頼したほうがスムーズに進む可能性が高くなります。ただ、債権の金額がさほど高額ではない場合などは、自分で取り組んだほうがいいケースもあります。少額債権の回収を、実際に事情を知らない専門職に依頼しても、説明に時間が取られたり、回収額の割に費用が掛かりすぎたりなどのデメリットがあるからです。
今回は、誰にでもできる、簡単な債権回収の方法を紹介します。「債権回収」というと、“弁護士を立てて裁判を起こす”というイメージを持つ人もいるかもしれません。ですが、まずは裁判や弁護士に頼らずに、簡単な方法から試してはどうでしょうか。
回収の第一歩は「支払いの督促」です。相手方(債務者)から支払いがない場合、まずは約束や義務を果たすように促す「督促」で、債権者への支払いの意思があるかないかを確認しましょう。
督促の内容や方法に決まりはありません。多くの場合、最初は口頭で督促し、支払いを忘れていないかどうかを確認します。もちろん、口頭での催告は証拠が残りませんし、債務者に対し返済を求める真剣さが伝わりません。そのため、口頭での督促後、債務者から支払いがなされなければ、書面で督促をすべきです。書面には請求する債権を日付などで特定し、請求金額、弁済期、支払いが遅れていること、改めて支払いを求めていることなどを記載します。
このとき債務者に対し、支払いの期限(別の手続きに移行する期限)を定めないケースが見られますが、これは「不適切な督促」です。なぜなら、債務者に「あと少し待ってください」という言い訳を与えることになり、いつまでも「あと少し待って」「あと少し……」と無駄に時間ばかり過ぎてしまうからです。たとえ「あと少し」を待つとしても、最低でも債務者から具体的な資金繰りの資料を提出させ、合理的な返済計画を立てさせた上で待つべきです。
可能であれば、改めて弁済期(債務者が債権者にお金を払う期日)を設定します。支払いができなかったときには“強制執行”をされてもかまわない旨の文言を入れた公正証書を作成し、いざというときに強制執行できるように準備しましょう。なおここでの強制執行とは、債務者から強制的に財産を取り上げる行為のこと、つまり「差し押さえ」です。
また、最後通告ならば、支払わなかった場合には法的措置を講じることも付記しておくとよいでしょう。これにより“ゴネ得”(ごねて有利にことを運ぶこと)を期待した、債務者の不払いを予防できます。
一般的に督促には、契約書で定められた期限の利益を喪失させる意味や消滅時効間際の時効を食い止めるという意味があります。そのため、書面での催告は、配達証明付内容証明郵便で行いましょう。この方法であれば、いつ、いかなる文書を送付したかが資料として残ります。後々裁判に至った場合に役立ちます。
オンラインで督促してみよう
書面で催告をしたけれども、相手方が支払ってくれない場合、どうすればよいでしょうか。相手方に明確な言い分があるわけではなく、のらりくらりとその場をのり切ろうとする債務者。これに対して有効な手段に、「支払督促」という制度があります。
支払督促とは、簡易裁判所で利用できる手続きで、金銭等の請求について、相手方から異議が出されなければ、強制執行が可能となる制度です。証拠の提出が不要であり、債務者の具体的な反論を聞きません。早ければ1カ月程度で強制執行が可能となります。しかも、裁判所に出頭する必要はありません。
一定の種類の請求は、オンラインでの申請も可能です。裁判所のホームページに申立書の書式があり、記載例にしたがって記載すれば申し立てをすることができます。あまりに簡単に強制執行が可能となる手続きのため、架空請求で悪用されたことがあるほどです。
ただ、督促手続きは、相手方から異議が出されると、強制的に通常の裁判手続きに移行することになります。また、この手続きを利用できる裁判所は、相手方の住所地にある簡易裁判所となります。そのため、遠方の相手方から異議が出された場合、遠方での裁判を余儀なくされるというデメリットもあります。場合によっては申し立てを取り下げざるをえない事態になるかもしれません。
たった1日で裁判が終わる?少額訴訟制度を利用してみよう
次は、書面で催告をしたところ、債務者が支払わないことが正当であるなどと反論をしてきた場合の対処法です。この場合、もしその代金が60万円以下であり、さほど複雑な事案でなければ、簡易裁判所の少額訴訟という制度の利用を検討するとよいでしょう。
この制度は原則として、たった1日で判決が出ます。裁判なので証拠の提出は必要であり、裁判の日までに契約書などの証拠や証人の準備をしなければなりません。しかし、通常の裁判のルールよりも簡易で、利用しやすくなっています。そのため、契約書などが準備できるのであれば十分利用価値があります。
前述の支払督促の申立書同様、裁判所ホームページに申立書の書式や記載例があるため、比較的簡単に申し立てが可能です。そのため、相手方も裁判による紛争の早期解決を望んでいるような場合には、利用しやすい手続きといえます。
もっとも、少額訴訟制度では、判決に対して異議が出されると、判決前の状態に戻り通常の訴訟と同様に審理がなされ、後日改めて判決がなされることになります。そのため、必ずしも1日で終わるわけではありません。とはいえ、この異議が出された後の判決に対しては、不服申し立てができません。最低2回は不服申し立てができる通常の訴訟より、迅速な解決が見込めます。
少額訴訟においては、相手方の経済状況により判決で3年以内の分割払いなどの定めがなされることがあります。これに対しては不服申し立てができません。このことにも注意が必要です。
それでも解決できなければ民事調停で
これまでは基本的に金銭請求が前提となっていました。しかし、金銭請求に限られず、民事の紛争全体(例えば建物の明け渡しや賃料の増額を求める紛争など)について、裁判所が関与して解決するための制度として民事調停というものもあります。
これは、裁判のように白黒はっきりつけるのではなく、話し合いでの円満解決を目指す制度です。そのため、双方が合意しなければ解決しませんが、裏返せば判決の敗訴のように、合意なしに自分が不利益な立場に置かれることにはなりません。しかも裁判とは異なり、非公開です。
申し立ては非常に簡単で、これも裁判所のホームページの書式を利用して簡単に行うことができるようになっています。法的な知識はほぼ不要です。
民事調停は話し合いであるため、折り合いをつけるのに時間がかかり、解決までに時間を要する印象を持つ人もいるかもしれません。しかし、裁判所のホームページによると、解決した事件の約8割が3カ月以内に終了しています。そのため、迅速に解決する可能性も十分にあります。また、当事者に法的な知識や専門的な知識がなく、当事者だけでは適切な解決が期待できない場合でも、建築士や不動産鑑定士などの専門家が裁判所のスタッフである調停委員として関与し、解決を後押ししてくれることもあります。しかも、調停での合意に反した場合には、強制執行をすることも可能です。
そのため、決着をつけるというより柔軟な解決を双方が希望するような場合には、この手続きの利用も十分に検討に値します。
このように債権回収は、弁護士などの専門職に頼む以外の方法がいくつもあります。今後は、これまであきらめていた債権も回収できるように、これらの手続きの利用も念頭に交渉を進めてはいかがでしょうか。