パワハラ、セクハラ、マタハラ、アカハラ。これまでさまざまなハラスメントが話題となってきました。内容はさまざまですがいずれも何らかのいじめ・嫌がらせ行為です。
これらのハラスメントは、自分と無関係だと思っているビジネスパーソンも多いでしょう。しかし、厚生労働省が発表した「平成26年度個別労働紛争解決制度施行状況」では、「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数は6万2191件(前年5万9197件)で、3年連続トップとなっています。職場でのいじめ・嫌がらせで悩んでいる人が非常に多いのです。2015年12月から始まったストレスチェック制度により、今後さらにいじめ・嫌がらせの相談件数の増加が予想されます。
今回は、会社におけるハラスメント(いじめ・嫌がらせ)を未然に防ぐ方法、または発生してしまった場合の対処法を考えてみましょう。
知らないうちにハラスメントをしていませんか
パワーハラスメント、セクシャルハラスメントなどで使われているハラスメントとは、端的にいうと「いじめ」のことです。いじめとは、一定の集団の中で自分より弱い立場の人に対して、何らかの苦しみを与える行為のことです。
ハラスメントは立場の違いが要因の一つですから、被害者は加害者に対して明確に「やめてください」とはいえないのが通常です。そのため、自分では気がつかないでハラスメントの加害者になっている可能性もあります。
指導のつもりだったとか、同意があると思ったなどといった言い訳で簡単に責任を免れることはできません。ハラスメントは被害者に不快な思いをさせるだけではなく、深刻になればPTSD(心的外傷後ストレス障害)や自殺といったトラブルにつながることもあるのです。
こうしたトラブルが発生した場合はもちろん、それ以前の段階でも、加害者や加害者の上司、会社が損害賠償責任を負うこともあります。内容によっては、加害者は刑事責任も問われることとなります。トラブルが表面化しなくてもハラスメントが横行する職場では、従業員のやる気の低下などを招き、業務効率が低下する可能性が高くなります。業務効率が落ちて、業績が悪化すれば、最終的には経営危機にまでつながりかねません。そんなことにならないために、各種のハラスメントが発生しないように注意をすることが企業にとって非常に重要なのです。
ハラスメントは、いろいろな状況・内容で発生します。ここまでは問題ではない、ここからは違法という明確な基準があるものではありません。そのため、ハラスメントによるトラブルを起こさないためには、常に相手方の人格を尊重する心構えを持つことがとても大切です。
閉鎖空間はハラスメントの温床…
企業は、従業員がパワハラなどのハラスメントにさらされない環境で安全に仕事ができるように配慮すべき義務があります。そのため、ハラスメントの予防策を講じる必要があります。具体的な予防策としては、まずは、従業員がそれぞれの立場でやってしまいがち、やられてしまいがちなハラスメントの実体を知ることから始まります。
ハラスメントは、誰もが加害者や被害者となる可能性を持っています。そのため、すべての従業員がさまざまなハラスメントの具体例を知ることによって、ハラスメントを許さないという共通認識を有する必要があります。
例えばパワハラの具体例は、厚生労働省のポータルサイト「あかるい職場応援団」でも確認できます。また、セクハラの具体例は、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針 厚生労働省告示615号」(PDF)でも確認ができます。具体例をチェックして、人格を否定する接し方とは何か、人格を尊重する接し方とは何かを考えてみましょう。
役職者に対しては、研修や講演会へ定期的に出席させることも大切です。指導側からすると、指導の仕方や部下との距離の取り方が分からなくて、結果的にハラスメントとなってしまうこともあります。研修で適切な指導の仕方、距離の取り方などを学んでおくことは有効でしょう。研修の理解度などを人事面の評価に加えると、一層の効果も期待できます。
いざというときに被害者が相談できる場所を設けておくこともポイントです。これが設置されていないと、会社としてハラスメントを放置・黙認していると判断されかねません。窓口を明確にし、相談のハードルを下げること、相談時にプライバシーが守られること、相談のために不利益に扱われることがないことなどを周知徹底すべきでしょう。相談が来るのを待つだけではなく、定期的に全従業員向けにアンケートを取って内容を検討することも効果的です。
ハラスメントの多くは、閉鎖的な空間、閉鎖的なコミュニケーションの中で起こります。その面の対策としては、部署ごとに部屋を区切らないレイアウトにする、区切る場合にはガラスの間仕切りを利用するなど、物理的な工夫で閉鎖的な空間をなくすことも意味があります。ほかにも、あいさつで呼び掛けたり、上司部下関係なく得意なところは教え合う機会を設けたりと、コミュニケーションの頻度を高めることも効果的です。
ハラスメントが判明したら?
こうした対策を講じてもハラスメントが起こってしまうこともあります。そんなときは、まずは被害が拡大しないように、迅速に事実調査をします。
ここで大切なことは、被害者、加害者いずれからも「事実」を聞き取るということです。例えば怒鳴られた、人格を否定された、叱ったというレベルではなく、「お前の代わりはいくらでもいると言われた」とか、「給料泥棒と言われた」など、できる限り具体的にあったことを聞くようにしましょう。この際には、双方の言い分を裏付ける資料の有無も確認しておきます。
また、被害者、加害者とはできるだけ関係のない人を調査担当者として、双方に平等に言い分を語らせて、公平性に疑いを持たれないようにしておきましょう。この際、先入観を持って調査をすることは絶対にしてはいけません。場合によっては二次被害にもつながるため、必要に応じて弁護士などの第三者も入れましょう。
こうした調査の結果、ハラスメントが明らかになれば、加害者に対する懲戒処分や、被害の回復などを検討しましょう。言い分などが大きく食い違い、ハラスメントに当たるかどうか判断できない場合には、会社は双方に対し、調停などの解決手法を提案することを考えましょう。ハラスメントが公になり、会社の信用に影響する可能性はありますが、無理な事実認定を行うことは会社の負担となります。それがトラブルを拡大する可能性があり、当事者双方の利益にもならないからです。
ハラスメントはいまや非常に身近な経営問題です。しかも、人によって感じ方が異なるため、予防や対応が後手に回りやすく、根絶が難しいトラブルの一つとなっています。だからこそ、事前の準備で少しでもリスクを減らすことが重要になります。働きやすい環境づくりのために、今一度ハラスメント対策を確認してみてはいかがでしょうか。