最近はやりの詐欺といえば、「オレオレ詐欺」などに代表される「振り込め詐欺」でしょう。振り込め詐欺は高齢者を中心とした個人をターゲットにした犯罪で、近年では、被害拡大の防止に警察も本腰を入れています。
詐欺や悪徳商法のターゲットにされているのは、個人だけではありません。中小企業も犯罪集団に狙われる存在です。中小企業をターゲットにした詐欺や悪徳商法の手法は、多様化・巧妙化しています。
中小企業をターゲットにした詐欺や悪徳商法にどのようなタイプがあるのか、代表的なものを紹介し、さらに自衛のためにどのような対策を立てるべきなのか、解説していきます。
マイナンバーや震災に便乗、その手口とは?
被害報告例その1:「マイナンバー」の弱みに付け込んだ悪徳商法・詐欺
2016年からマイナンバー制度が始まりました。制度に便乗して、中小企業をターゲットにした詐欺や悪徳商法の実例が複数報告されています。
代表的なものとしては、「これから中小企業には取引相手のマイナンバーを管理する義務が生じます。流出すると刑事責任を問われますよ」など不安をあおり、高価な金庫を売り付けるといった手口です。同様のセールストークで、高価なセキュリティーソフトやシステムを売り付けるケースもあります。
確かに企業では2017年以降、従業員の個人番号を源泉徴収票に記載しなければならなくなります。つまり、従業員の個人番号を管理する必要性が生じるのです。中小企業は大企業とは違い、個人情報管理のシステムが必ずしも整備されているとは限りません。マイナンバーの管理に大きな不安を抱えている会社は、少なくないことでしょう。
「金庫の売り付け」商法は、このような個人情報管理に対する中小企業の悩みに付け込んだ詐欺といえます。
マイナンバー関連では、「セキュリティー対策に70万円の費用が掛かる」などと高額な支出を伴う対策を講じる義務が企業に発生するかのように装って、金銭を請求する手口も報告されていますから注意してください。
被害報告例その2:震災に乗じた「融資保証金詐欺」…
「融資保証金詐欺」は、あまり聞きなれない手口かもしれません。しかし近年多発しており、警察も注意を呼び掛けています。
代表的な手口は、中小企業に対して、融資を行うように装ったダイレクトメールなどを送り付け、連絡が来ると補償金や手数料の名目で、指定口座に現金を振り込ませるというものです。詐欺ではないかと気付き、確認の連絡をしても捕まらなくなっています。
信頼性を高めるために、「東日本大震災の影響で売り上げが減少する恐れのある中小企業に融資する制度ができました」などといったうたい文句で、震災により経営難に陥った企業を救済するかのように持ち掛ける手口が多く報告されています。
自衛のために頭に入れておくべきこと
人間は不安や弱みに付け込まれると、「怪しさ」に気付くことが難しくなり、詐欺の被害に遭いやすくなってしまいます。しかし、以下の点を頭に入れておけば、このような悪質な手口に乗せられることは危険を減らすことができます。
まずマイナンバーに関しては、政府が中小企業に関しては事業規模や取り扱う事務の特性に応じて安全管理措置を講じられるよう特例措置を設けています。どのような措置を講じる必要があるかは、特定個人情報保護委員会事務局が発行している「中小企業向けはじめてのマイナンバーガイドライン」に記載されています。WEB上で公開されているので、すぐに見ることができます。
はっきりしているのは、マイナンバー管理のために中小企業が高額な費用を掛けることを、政府は一切要求していないということです。マイナンバーについて疑問に思う勧誘電話があったら、すぐに公的な相談窓口に連絡して、真偽を確認しましょう。
マイナンバー全般の問い合わせには、「マイナンバー総合フリーダイヤル」が設けられています。その他、マイナンバー専門ではありませんが、消費者ホットライン、警察の相談専用窓口も設けられています。最寄りの消費者生活センターや警察署に出向いて直接相談を受けることも可能です。
融資保証金詐欺については、まともな貸金業者であれば、融資の前に保証金を振り込ませることは有り得ない、ということを頭に入れておくことが自衛の第一歩です。融資が欲しいのは、運転資金に乏しい企業です。そのような企業に対して「ない袖を振る」ように、お金の振り込みを要求すること自体が、そもそも怪しい業者である証しです。
正規の貸金業者は、都道府県に貸金業者の登録をしなければならず、必ず登録番号が付与されていることも覚えておくとよいでしょう。金融庁は、インターネット上で登録貸金業者の情報検索サービスを行っています。ダイレクトメールに書かれた業者名や電話番号など、分かっている情報を入力すれば、その業者が、登録している正規の貸金業者であるかどうかはすぐに分かります。
融資保証金詐欺などを働く犯罪集団の中には、実在する有名企業を名乗るケースもあります。そのような場合でも、電話番号や所在地が一致していなければ情報検索で正規業者としてヒットしません。
さらには、マイナンバー詐欺の場合と同様、不審なダイレクトメールなどが届いたりした場合には、消費生活センターや警察署に連絡することも自衛手段として大切です。
人の不安や弱みに付け込む、恐怖心をあおるといった手法は、詐欺や悪徳商法の常とう手段です。「個人情報の漏えい」、「震災」、「経営難」といったワードは、中小企業を陥れるのに、不安や恐怖心をあおりやすいものといえます。
こういうワードと、高額商品や金銭の支払い要求がセットになっていたら、まず詐欺や悪徳商法を疑ってください。「怪しいな」と思ったら、一呼吸おいて、身近な人や相談機関に連絡する、インターネットで情報収集する。そういった一手間が、取り返しのつかない被害を防ぐことにつながります。