民法改正の議論が本格化して既に数年が経過しています。今回の改正の対象は、総則部分(民法全体の大原則を定めた部分)と債権法部分(取引の基本を定めた部分)となっています。当初の予定では2016年中に改正法が成立するはずでしたが、結局議決されず、持ち越しとなってしまいました。
2019年にも成立見込みともいわれていますが、具体的な法案審議のスケジュールは現時点では分かりません。近年の国際情勢の激変に対応するため、急を要する法案審議が増加すれば、さらに法案成立が遅くなる可能性もあります。とはいえ、そう遠くない将来に、改正法が成立することは確実ではないかと思われます。
民法の総則や債権法部分は、取引のルールの基本ですから、改正法が成立すれば企業の取引にも影響が生じる恐れがあります。そこで今回は、企業取引の上で重要な民法改正のポイントと、企業が取っておくべき対策について解説していくことにします。
まずは、民法改正の大きなポイントを確認しておきましょう。短期消滅時効の廃止、法定利率の引き下げ、敷金の原則返還など重大改正は多岐に及んでいますが、企業取引という観点からすると、特に重要なものは個人保証の厳格化と瑕疵担保責任の充実化の2点になると考えられます。
個人事業主や中小企業が銀行などから融資を受ける場合、その経営者の友人知人らが保証人となった結果、多額の負債を背負うというのは従来までよく見られました。友人の会社の保証人になったら夜逃げされて、多額の借金を負った、果ては自己破産したという話を聞いたことがある人も少なくないと思います。
保証人になった第三者も資力がそれほどなく、最終的に金融機関も融資を回収できず、損失を被るということも少なくありません。
改正法では、企業などの借り入れについて、保証人となれる個人を主たる債務者と一定の関係に立つ者に限定し(例えば、取締役や執行役など)、かつ保証契約締結前1カ月以内に公正証書により保証人になる意思を明らかにすることが義務付けられる見込みとなっています。
この改正案には、事業や会社と関係のない人に多額の負債を負わせないようにして、個人の経済的な利益を守る意味があるといえるでしょう。また、公正証書を作成させることには、契約の内容をよく知らせずに他人に保証人欄へ気軽にサインさせることや、署名の偽造などを防ぐ意味があると考えられます。
上記の改正案が可決されると、金融機関は、保証人となる資格ある者の資産調査を今まで以上に徹底して行うことになるでしょう。保証人になれる者の資格が限定されることになれば、より確実に返済を受けるためには、資力に問題のない者を保証人として確保しようとするのは当然です。
つまり、融資を受けたい企業は、社内で取締役などの資産を把握すべく調査を行うことはもちろんのこと、個人に負債がある場合には、その負債の内容や返済状況について確認しておくことが必要になると考えられます。
また、保証人の意思確認のために公正証書が必要となりますので、ひな形を用意して迅速に手続きができるよう準備しておくことも重要です。
企業の瑕疵担保責任の解決策が多様に
「瑕疵担保責任」とは、簡単にいうと、商品に不具合や故障があった場合に売り主が負う責任を意味します。例えば、インターネット経由で購入した中古品に、あらかじめ伝えられていない故障や部品の欠品があったケースなどが該当します。
現在の民法では、購入者が取ることができる方法は、契約を解除できる、損害賠償を請求するという2つだけでした。しかし、故障や欠品が重大でない場合には、契約を解除して商品を返すのはためらわれるでしょう。お金ではなくて、むしろ代替品が欲しいという場合もあり得ます。
そこで改正案では、契約解除、損害賠償請求の他に、目的物の修理や代替物の引き渡し、代金の減額といった解決策を取ることも可能とされています。
この点に関する改正は、顧客のニーズに細かく対応することを業者に求めるものであるため、企業側の責任を重くするものともいえます。そこで企業側としては、約款や契約書において、商品の不具合や故障に際して負うべき責任の内容について、例えば「代替品との交換または契約解除の上、代金の返還以外は行わない」などと、あらかじめ責任の範囲を狭めておくことが必要です。
今回の民法改正は、従来判例で示されていた内容をルール化したものが多いこと、企業にとっては、商法など他の法令の適用により、実際には民法が適用されない部分も少なくないことなどから、実務的な影響はそれほど大きくないという見方もあります。
しかし、法律の施行後に予想し得なかった影響が生じることも十分に起こり得ますので、民法改正の動向には今後も注目しておく必要があるでしょう。