ビジネスパーソンが出張する際、自分で予約して交通費はいったん立て替え、領収書などを提出し、給与などとともに後から振り込まれるケースが多いでしょう。最近では便利にネットで予約をして自分のクレジットカードで支払いをする人も増えています。
また、業務に必要なもので後から経費精算されるものをポイントシステムのある店舗で購入する際、自分名義のポイントカードを出し、ポイントを付ける人がいます。ちょっとした消耗品を購入する場合は数十円分にしかなりませんが、高価な商品であれば見過ごせない金額になることもあります。
これらのマイルやポイントは、個人のカードに付与されるものですが、元になっている費用は会社の経費です。会社のお金で生じたマイルやポイントは個人のものにしていいのか、そもそも誰のものなのか、考えてみましょう。
たまったマイルは誰のもの?
日本航空では「JALマイレージバンク」、全日本空輸では「ANAマイレージクラブ」を運営しており、これらのポイントプログラムに加入して航空券を購入すると、「マイル」がたまります。
マイルをためると、航空券に交換できたり、ツアー購入やホテル宿泊費などに充てたりすることもできます。さらに、航空会社のカタログショッピングでの利用や他社のポイントカードのポイントに変えることも可能です。
出張に使う航空券を購入するときにも、マイルは付与されます。そのマイルは実際に航空券の代金を支払った会社に差し出すべきでしょうか。個人のものとしても「横領」に問われることはないのでしょうか。
結論から言えば、会社の経費で購入する航空券で付与されたマイルを自分のものにしてしまっても、「横領」になるとは言い切れません。各航空会社の規約を見ると、マイルが使えるのは、JALの場合は「会員の配偶者および会員の父母、祖父母、兄弟姉妹などの親族」、ANAの場合は「会員の配偶者および会員の2親等以内親族」と定められています。
つまりマイルは個人向けサービスであり、社員が自分のカードで支払い、立て替えた結果生じたマイルを、会社が返還するよう求めることは難しいと考えられます。ただし、マイルはあくまで個人のものですが、現在の法律では最終的にマイルに相当する利益の権利を得る人については明確に定められておらず、現在のところ「会社のもの」「個人のもの」を扱った判例はありません。
マイルでもめないために社内ですべきこと…
法律上、マイルを個人のものにすることが問題とはいえなくても、経費の節減をめざす企業としては、もしたくさんのマイルがたまるのであれば、自社の経費として転用したいと考えるのではないでしょうか。
解決する方法の1つとして考えられるのが、「法人カード」の利用です。自社の法人カードを作っておき、支払時に使わせればマイルを個人で利用することはできません。しかしながら、法人カードを管理する手間やコストを考えなくてはなりません。
航空券はネット予約が主流になっている現在、マイルは個人のもの、会社のもの、どちらにするにもメリットとデメリットがあり、社員の倫理観も問われます。会社ごとに就業規則などに定めておき、お互いにスッキリするようにしておくことが大切です。
家電量販店のポイントの扱いは?
マイルと同じような例として、家電量販店などのポイントがあります。ほとんどの家電量販店ではポイントシステムがあり、購入金額に応じてポイントが付与され、次回の買い物時に現金と同じように利用できます。店舗や商品によって異なりますが、かなり高率で還元されることもあります。
ポイントサービスがマイレージサービスと異なるのは、購入する対象が交通費のような一時的なものではなく、会社の資産の一部となるもの、例えばカメラやパソコンだという点です。
マイルと同じく、家電量販店各社でもビックカメラでは規約に「カードは、会員およびご家族がご利用いただけます」「他人への貸与・譲渡または担保提供をすることはできません」とあります。ヨドバシカメラの規約には利用に関しての記載はありませんが「会員は自己の責任においてID・パスワードを管理するものとし、これを第三者に貸与、譲渡、売買、名義変更、第三者との共用等をしてはならない」とありますので、やはり個人向けのサービスだと考えられます。ですから航空券のマイルと同様に会社が個人のポイントを管理することは難しいといえます。
そのため、会社で必要なものを購入する場合には、購買部門を通すか、急ぎの場合にはポイントカードを使わない、あるいは会社名義のポイントカードを使うことを就業規則に明記しておくことが考えられます。
過去に使ってしまったマイルはどうなる?
マイルやポイントの問題を社内で明確化し、個人利用ができないことを決めたとして、過去にすでに使ってしまっていた社員がいた場合の対応には注意が必要です。
この場合は、社員に遡って返還を求めることは困難で、今後の注意にとどめるべきです。ただし、社員の側でも就業規則ができる前にたまったポイントを使っていた場合は、念のため会社に確認しておく必要があります。
マイルやポイントは認知や利用がずいぶん広がってきましたが、法律はまだ整備されておらず、グレーゾーンの多い分野です。会社によっては「普段働いてくれているのだから」と、社員がマイルを自分のものにすることくらいは「よし」とするところがあるかもしれません。
避けたいのは、一般の社員のマイルやポイントの使用には厳しくするのに、役員クラスはポイントを自分のものとして使い放題というダブルスタンダードにしてしまうことです。これでは会計監査に甘い会社だと思われますし、社員からの信頼も失います。
マイルやポイントの問題は、まだ法律で厳密に規制されていません。だからこそ、もめないために先手を打って、会社も社員も納得する規則を決めておいてはいかがでしょうか。