自社の製品・サービスが新聞や雑誌で好意的に紹介されるのはうれしいものです。そんなとき、従業員の士気を高めるために、社内で記事を共有しよう、販売促進ツールとして活用しようと考えるのは自然な気持ちです。ところが、新聞や雑誌の記事には著作権があり、使い方に気を付けないと著作権侵害になってしまう可能性があります。
今回は、自社に関する新聞や雑誌の記事を社内または社外で活用する際、著作権侵害を避けるための注意点について紹介します。
記事のコピーやスキャン、コピペは著作権侵害
新聞や雑誌の記事にある文章、写真、ページレイアウトなど紙面を丸ごとコピーしたり、スキャンしたり、あるいは文章だけ全文をコピー&ペーストすることは、いずれも著作権法上「複製」に該当します。それらを行う際に著作権者(著作権を持つ人もしくは企業)の許可を得ていないならば、原則として著作権(複製権)侵害となります。
ただし、個人で購入した新聞や雑誌を家族のために複製する場合は「私的使用目的の複製」に当たり、著作権者の許可を得なくても著作権侵害にならない(例外として許可を得なくともよいとされている程度)とされています。
しかし、企業活動における複製行為は、私的使用目的の複製とは認められていませんので、著作権侵害となるわけです。
雑誌に紹介された旨やURLの記載は侵害ではない
一方で、特定の新聞や雑誌に紹介された旨を表示したり、インターネット上に掲載されている記事のURLを表示したりすることは、記事そのものを複製しているわけではないので、著作権侵害にはなりません。
新聞や雑誌に掲載された旨を従業員などに告知し、社内のライブラリーにある当該新聞や雑誌の閲覧を促す。またURLを告知し、各自のPCやモバイル端末での閲覧を促すことは、著作権法上も問題ありません。
記事の要約や引用についてのデッドラインは?…
前述した通り、記事全体や全文章をコピー&ペーストするのは著作権侵害に当たります。では、コピーではなく、内容を簡単に要約した場合はどうでしょう。要約した文章があまりにも長文になってしまうと、複製ではなく「翻案」に当たると判断され、著作権侵害となってしまう危険性があります。
どの程度であれば著作権侵害にならないのかは、元記事の分量や内容などにもよりますが、文字数やパーセンテージといった具体的な基準は定められません。しかし、基本的には短ければ短いほど翻案の可能性が低くなります。触り程度の簡単な紹介文にした上で、前述の告知による閲覧を促す方法を組み合わせると、翻案と認定されることを回避できるでしょう。
どうしても記事をコピー&ペーストしたいということであれば、「引用」という方法が考えられます。引用は、私的使用目的の複製と同様に、記事をコピー&ペーストしても著作権侵害にならないとされている例外の1つです。どういう場合であれば著作権侵害ではなく引用に該当するかについては,裁判の判例でも解釈が揺れている部分がありますが、基本的には以下の5パターンです。
<著作権侵害にならないコピー&ペーストのお作法>
(1) 公表された著作物を使用していること
(2) “公正な慣行”に合致すること
(3) 報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われること
(4) 主従性(自己の著作物が主であり、引用された著作物が従であること)
(5) 明瞭区分性(引用部分が明瞭に区別されていること)
(1)(2)(3)は著作権法の条文に定めている要件で、(4)(5)は最高裁判決で設けられた要件です。最近ではこの(4)(5)の要件を見直す判例も出ていますが、まだ下級審レベルとなっています。当面は最高裁判決に従って、5つすべてを満たすほうが安全でしょう。
新聞や雑誌の記事の引用について考えると、(1)の要件は満たしますし、(4)(5)の要件を満たせば(2)(3)の要件も満たすことになるでしょう。
(4)(5)の要件を満たす例としては、新聞や雑誌の記事を踏まえた、論評的な内容を含むリーフレットなどを作成することで満たせます。例えば「自社製品の製造意図がどういうものであり、それが市場でどのように受け止められているのか」を示す際に、その一例として新聞や雑誌の記事を紹介し、さらなる改善の余地としてどういうものがあるのかを述べる、といったリーフレットを作成するのであれば、引用の要件を満たす可能性が高いでしょう。
また、新聞や雑誌などの取材を受ける際には、応じる代わりに一定の範囲で記事を利用することの許諾を、先に文面やメールなどでもらっておくという対策も考えられるところです。
デジタルデータが主流の現在、正確なコピーを簡単に手に入れられるようになりました。昨今では著作権侵害の問題が取り沙汰されることが多くなっています。メディアに紹介された記事を、企業活動の広報ツールとして役立てたいのは当然ですが、その使い方や許諾の有無などには配慮する必要があります。