核家族化が進んだ現在、従業員が育児休業から職場に復帰するには、子どもを保育園などに預けなくてはならないケースが少なくないでしょう。自治体などが運営する認可保育園への入所は、申請後に抽選や選考によって可否が決まります。結果が判明するのは、年明け1月ごろとしている所が多いようです。
つまり、育児休業中の従業員にとっては、新年度の4月から職場復帰を予定していても、1月ごろまでは子どもを保育園に預けられるかどうかの見通しが立たないのです。もし入園の許可が下りず、認可外の保育所なども見つからなかった場合、4月直前で復帰を諦めなくてはならないこともあり得ます。これは本人が困るだけでなく、職場復帰を見込んで人事計画を立てていた事業主にとっても大きな痛手です。このように育児休業後の職場復帰は、保育園の入所事情に左右されているという背景がありました。
従来の育児・介護休業法では、1歳未満の子を持つ親は、事業主に申し出ることによって育児休業を取得できました。例外的なケースとして、保育園に入所できなかった際などに、さらに6カ月延長できるとされていました。
しかし保育園の入所は、欠員などがない限り、原則的に年度始め4月のみです。加えて各企業の人事異動も、年度ごとに行われるケースが多いのが実情です。保育園の入所がかなわず、育児休業を6カ月延長したとしても、6カ月後の10月までに保育園が見つかる可能性は決して高いとはいえません。6カ月という延長期間は、実情に即していなかったのです。
今回の改正により、子どもが1歳6カ月に達した時点で、まだ保育園への入所ができなかった場合、育児休業期間をさらに6カ月延長できることになりました。これによって最長で子どもが2歳に達するまで育児休業を取得できるようになったのです。つまり、1歳未満で保育園に入園できなくても、育児休業を取りながら次年度の入園に再チャレンジすることが可能になりました。
保育園には、子どもの年齢別に保育士の配置基準が定められています。0歳児なら3人、1~2歳児なら6人に対し、必要な保育士が1人以上となっています。そのため多くの保育園では、0歳児クラスの定員より、1歳児の方が多く設定されていますので、育児休業初年度よりも次年度の方が入園しやすい可能性があります。
昨今は待機児童問題の改善が急がれていますが、財政難の自治体などでは、人件費が抑えられる1歳児以降の定員を増やすことで、問題の改善を図ろうとしている所もあるそうです。今回の改正は、そのような実情に合わせるという意味もあります
しかし、育児休業期間の延長が認められることは、会社への負担が増す面があります。事業主はより長期的な人事計画の立案が求められるからです。育児休業を取得する当人も、子どもを産んでから2年間も職場を離れることは、キャリアにおいて大きなリスクとなります。例えば2年の間に会社を取り巻く環境が変化しているかもしれませんし、仕事の進め方が変わっている可能性もあります。
こうした会社の事情や当人のキャリアという観点からは、会社側から早期復帰を打診するというやり方もありますが、慎重さが求められます。なぜなら育児休業の取得は労働者の法的権利だからです。
育児休業を取りづらい雰囲気をつくらないために
事業主や管理職が育児休業中の従業員に早期の職場復帰を促すことは、下手をすれば当然の権利を侵害する“ハラスメント行為”に該当するかもしれない、とちゅうちょされるでしょう。
その不安を無くすため、法改正の指針では、事業主が労働者の事情やキャリアを考慮して、育児休業などからの早期の職場復帰を促す場合は、「育児休業等に関するハラスメントに該当しない」と記載されました。
これはあくまで「労働者の事情やキャリアを考慮して」の行動の場合であって、職場復帰のタイミングを決めるのは労働者の選択であることには変わりありません。会社の都合を押し付けるような物言いはくれぐれも避ける必要があります。
最長2年の育児休業が権利として定められたことに伴い、事業主や管理職は育児休業取得に対する職場の雰囲気に、より配慮する必要があるかもしれません。せっかく制度が充実しても、利用する従業員へ職場の風当たりが強くなり、結果的に育児休業の取得が難しくなっては本末転倒です。
今回の改正では、育児休業制度の対象となる従業員に対して、事業主は育児休業などの制度について個別に知らせる努力義務も課されています。まずは、事業主から従業員に向けて、育児休業の取得を当然の権利として認識している姿勢を見せることが重要です。その他にも、従業員が子どもの看病のために休まざる得ないケースが多いことから、未就学児を持つ従業員が育児目的で利用しやすい休暇制度を設ける努力義務が、事業主に課せられました。
今回の改正点はいずれも、社会を挙げて子育てを支援する上で、職場の文化も変化する必要がある、という視点に立っています。より良い職場環境を実現するためには、どういった点が改正になったかを把握するのはもちろんですが、その背景にある考え方を共有することが大切です。