割賦販売法は、クレジット取引など、いわゆる分割払い(割賦販売)となる取引において、事業者が守るべきルールを定める法律です。割賦販売となる取引の公正を図り、商品の流通および役務提供を円滑にすることで、消費者の利益保護を目的としています。
今回の改正の大きな狙いは加盟店管理の強化です。加盟店に対しては、クレジットカード情報の適切な管理などが義務付けられました。一方、加盟店と契約し、加盟店を管理する加盟店契約会社(アクワイアラー)は、登録制度を設け、加盟店に対する調査などを行うことが義務付けられました。
改正前の割賦販売法では、クレジットカードを発行する会社(イシュアー)が直接、加盟店と契約を締結し、管理するという「カード会員-加盟店-カード発行会社」の3者間の取引を想定していました。しかし、近年のクレジットカードビジネスでは加盟店契約会社とカード発行会社に分かれる4者間の取引が一般化しています。この変化に伴い、加盟店契約会社を新たに定義し、カード発行会社と同じように経済産業局への登録を義務付けたのです。
さらに今後、革新的な金融サービス事業を行う、フィンテック企業(金融とITが融合した事業形態)の決済代行業への参入を見据え、環境整備を図るための措置も規定されています。
今回の改正法では、クレジットカードによる決済を導入した加盟店に対して、セキュリティ対策の強化が図られました。具体的には、クレジットカード番号情報の適切な管理と、クレジットカード番号の不正利用の防止という2つです。
クレジットカード情報の適切な管理としては、カード情報の盗用を防ぐため、加盟店におけるカード情報の非保持化が今後求められます。非保持化が求められる理由は、加盟店はECサイトなどを通じて、カード情報を自社の機器に保存したり、システムを通過させて決済などの処理を行っていましたが、セキュリティ対策が不十分なため不正アクセスやマルウェアなどによる情報漏えいが起きていたからです。
つまり非保持化とは、自社で保有する機器・ネットワークにおいて「カード情報」を『保存』『処理』『通過』させないことです。そのためにはカード情報を自社の機器・ネットワークから迂回させるECサイトやシステムを構築する必要があります。具体的な対策は、クレジット取引セキュリティ対策協議会が公開している「クレジットカード取引におけるセキュリティ対策の強化に向けた実行計画-2018-」を参照してください。
また非保持化せずにカード情報を自社の機器・ネットワークに保持する場合は、PCIDSS(Payment Card Industry Data Security Standard)に準拠しなければなりません。PCIDSSとは、国際ペイメントブランド5社が共同で策定したカード情報セキュリティの国際統一基準のこと。つまり、日本国内におけるセキュリティ対策に国際基準が設けられるようになったのです。
もう1つのポイントであるクレジットカード番号の不正利用に対する防止策としては、直接顧客と接する対面加盟店ではICカード決済が可能な端末の設置、インターネット取引加盟店では、パスワードやセキュリティコードの入力による本人認証など、多面的・重層的な不正使用対策が求められています。
改正割賦販売法では、従来のクレジットカードを発行する会社に対する登録制度に加え、加盟店契約会社および加盟店契約会社だけでなく、それと同等の加盟店契約の判断権限を持つ決済代行事業者も「クレジットカード番号等取扱契約締結事業者」とし、これらの事業者に経済産業省への登録を義務付ける制度が導入されました。
登録が必要になるのは、クレジットカード番号などを取り扱うことを認める者、すなわち加盟店契約の締結について最終的な判断権限を持つ者であるとされています。こうしたクレジットカード番号等取扱契約締結事業者には、加盟店調査義務が課されました。調査の結果、セキュリティ対策が不十分な加盟店には、当該事業者が指導などを行い、不適格な加盟店とは契約の締結または維持を禁止することが決まったのです。これにより、加盟店のセキュリティ対策の履行を担保しています。
フィンテック企業のさらなる参入を見据えた環境整備
ここまでは、既存のクレジットカード取引などを前提とした加盟店やアクワイアラーに関する改正の内容について紹介してきましたが、今回の改正では、将来的に期待されているフィンテック企業のさらなる参入を見据えた改正もなされました。
今回の法改正でフィンテック企業もクレジットカード番号等取扱契約締結事業者に登録を行えるようになったのです。
これまで加盟店はクレジットカード取引時に、カード利用した顧客に対し、遅滞なく書面(クレジットカード利用時に手渡される明細など)を交付しなければなりませんでした。しかし、この書面交付義務が緩和され、原則として情報提供義務の形式をとることとされました。
つまり、情報提供の手段の限定がなくなったのです。メールやアプリなどを用いたデータ提供などの方法も可能となり、書面の発行を行うための高額な決済端末を準備する必要がなくなりました。これにより、クレジットカード取引のコストが下がるなどの、フィンテック企業ならではの新たなサービスの領域が広がることが期待されています。
割賦販売法の改正で、加盟店にはセキュリティ対策の措置を取るなどの義務が課され、その対応を迫られています。一方でクレジットカード情報が流出し、その流出元となった場合、自社で原因調査を行わなければなりません。原因次第では、賠償金などのペナルティーを負わなければならない場合も考えられます。
さらに自社が流出元ではない場合でも、流出したクレジットカード情報を元にカードを不正使用される恐れや、なりすましによる不正取引が起こる恐れがあります。取引形態によっては加盟店が損失を被る可能性もあります。そうしたリスクを考えれば、加盟店は法改正に的確に対応して、速やかにセキュリティ対策措置を講じることが賢明です。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2018年6月20日)のものです