近時、社員や従業員によるSNS(Social Networking Service、ソーシャル・ネットワーキング・サービス)上の不適切な投稿が「炎上」(非難・批判などが殺到して、収拾がつかなくなること)する事例が後を絶ちません。その後、会社が謝罪するだけで済まず、店舗閉鎖などに追い込まれるケースすらあります。
例えば、大手不動産会社が展開するフランチャイズの加盟店において、社員が著名な芸能人の顧客を賃貸物件に案内後、自身のSNS上に、当該顧客の名前や賃貸物件情報の一部を記載して炎上してしまいました。このケースでは大手不動産会社と加盟店が謝罪しています。
宅配ピザのフランチャイズ加盟店において、アルバイト従業員が、冷蔵庫に入ったり、厨房のシンクに座り込んだりした不衛生かつ不適切な写真をSNSにアップして炎上したケースもあります。この件では、フランチャイズ運営会社が謝罪するも信用回復できず、加盟店である会社は破産申し立てに至りました。
こうした事件が続くことから、会社としては、炎上によるトラブルを防止するため、社員によるSNSの利用を広範囲に規制したいところです。しかし、社員によるSNSの利用は、私的領域に属する事柄ともいえるので、プライバシー権、表現の自由、思想・良心の自由といった個人の権利との調整が問題となります。
会社が社員によるSNSの利用を広範囲に規制し、私的領域に対する過度の干渉となれば、かかる規制は違法かつ無効になる可能性があります。そこで会社は、社員のSNSの利用にどこまで規制をかけてよいのか、整理してみたいと思います。
SNSの特徴と規制のあり方
規制のあり方を考えるに当たっては、SNSの4つの特徴を考慮する必要があります。
まずは簡易性です。SNSでは、スマートフォンなどで、文章や撮影した写真などを簡単に投稿することができます。
2番目は波及の迅速性。他のユーザーのコメントや写真などを共有することもでき、この共有行為(シェア、リツイートなど)が連鎖的に行われるので、当初の投稿がインターネットなどを通じて瞬く間に拡散します。
3番目は情報の恒久性です。当該投稿や投稿したアカウント自体を削除しても、第三者によって保存され、半永久的に拡散され続けてしまいます。
そして最後が被害の甚大性です。一旦投稿が拡散されて炎上してしまうと、投稿者本人だけでなく、投稿者が所属する会社が特定され、謝罪、会社の信用毀損(イメージダウン)、会社製品の不買運動、店舗閉鎖、ひいては倒産など、会社は甚大な被害を受ける場合があります。
このようなSNSの特徴を一言で言えば、「軽はずみな行為が取り返しのつかない惨状を招く危険があるということ」です。こうしたリスクから会社を守るためには、何よりも予防措置を講じておくことが重要です。その第一歩が就業規則への明文化です。
会社による社員のSNS利用に対する規制内容について…
就業規則の規定は、違反した社員に対する投稿の削除要請や損害賠償請求、懲戒処分などを行う際の労働契約上の根拠(労働契約法7条参照)となるものです。SNSによる被害の予防措置という観点から、実際の規制内容について4つのポイントの可否を検討してみました。
(1)社員による勤務時間中の私的な投稿=禁止可
社員は会社に対し、勤務時間中は誠実に労働に従事しなければならないという職務専念義務を負っています。勤務時間中の私的な投稿は、かかる義務に違反すると考えられます。軽微な義務違反であれば、直ちに処分することは行き過ぎですが、義務違反の程度が著しい場合には、懲戒処分の対象になりうるでしょう。いずれにせよ会社が勤務時間中は職務に専念すべきという規律を徹底させること自体に法的な問題はありません。
(2)職務上知り得た企業秘密や顧客情報などの漏えいとなるような投稿=禁止可
社員は、労働契約上、企業秘密などに関して秘密保持義務を負っています。SNS上に企業秘密などを漏えいすることは、かかる義務に違反します。冒頭に挙げた著名人を案内したときの投稿なども、ここに含まれます。秘密保持義務に違反する投稿は、場合によっては、会社に著しい損害を与えることがあります。そのような場合には、かかる投稿をした社員を、懲戒解雇せざるを得ないケースもあるでしょう。
(3)会社の対外的信用を低下させ、その名誉を害するような不適切な投稿=禁止可
社員が会社の信用や名誉を害してはならないことは、通常、就業規則の服務規律に定められています。ただ、それだけで十分かといえば、冒頭に挙げた宅配ピザ店での不適切な写真投稿のように、社員が軽はずみで行った投稿により、会社が倒産する事態に至った事例もあります。それ故、SNS上への投稿について特に注意喚起する観点から、かかる行為を別途禁止する意義は大いにあるといえます。
(4)社外、社内を問わず、他人を誹謗・中傷するような投稿=禁止可
他人に対する誹謗(ひぼう)・中傷の禁止についても、就業規則上、服務規律として直接または間接に定められているかもしれません。しかし、これについて(3)と同様、SNS上への投稿の観点から禁止する意義があるといえます。なお、匿名でかつ社名も分からない投稿であれば、少なくとも会社に対する関係では問題とならないのではないかとも思えます。しかし、インターネット上の「ソーシャル」な場での発言である以上、その投稿がどこで会社と結びつけられるか分かりません。それ故、匿名がどうかに関係なく、禁止することも許されると考えられます。
以上のほか、公序良俗に反する投稿やその他の法律に違反する投稿、著作権など、他人の権利または利益を侵害するような投稿についても、禁止することができるのは当然です。これらを実際の規定例にすると次のようになります。
就業規則(「ソーシャルメディア利用規程」)の規定例
以上の項目を実際の規定例にすると次のようになります。この規定例では、実際の便宜を考え、対象をSNSに限定せず、動画投稿などを含めて「ソーシャルメディア」として、若干、広げています。
【ソーシャルメディア利用規程】
第1条(趣旨)
本規程は、社員がソーシャルメディアを利用するに際し、企業情報および顧客情報等の漏えいを防止し、また会社の信用低下等を防止することを目的とする。
第2条(適用範囲)
本規程は、ソーシャルメディアを利用する当社の社員(契約社員、アルバイト従業員等も含む。)に適用する。
第3条(本規程の対象となるソーシャルメディア)
本規程の対象となるソーシャルメディアは、[1]ブログ、[2]SNS(Social Networking Service、Facebook、Twitter、Instagram、LINE、mixiなど)、[3]動画投稿サイト(YouTubeなど)、[4]電子掲示板など、利用者がインターネット上で情報を発信し、形成していくメディアをいう。
第4条(業務目的での利用)
社員が業務上の目的でソーシャルメディアを利用する場合は、事前に、利用目的、利用するソーシャルメディア、使用するアカウント名を、上司に申請し、承認を得なければならない。
第5条(私的・業務目的外での利用)
社員が、私的・業務目的外でソーシャルメディアを利用する場合には、以下の各項を順守する。
1 勤務時間中に私的な投稿をしてはならない。
2 勤務時間外であっても、会社が貸与したパソコン、スマートフォンなどの端末を用いて、私的な投稿をしてはならない。
3 いかなる場合であっても、以下の内容を含む投稿をしてはならない。
(1)職務上知り得た会社に関する情報(営業秘密に限らない)や顧客情報など
(2)会社の対外的な信用を低下させ、名誉を害するもの
(3)他人を誹謗・中傷するもの
(4)公序良俗に反するもの、その他の法律に違反するもの、著作権など他人の権利または利益を侵害するもの
第6条(報告義務)
社員は、ソーシャルメディアの利用に関して、クレーム、炎上その他のトラブルが発生した場合、速やかに上司に報告しなければならない。
第7条(削除義務)
会社が、社員の行った投稿が本規程に違反すると判断し、削除要求を行った場合には、社員は直ちに要求に応じ、当該投稿を削除しなければならない。
第8条(責任等)
社員が本規程に違反した場合には懲戒処分の対象となり、かつ会社に損害が発生した場合には、社員はその損害を賠償する責を負う。また、刑事責任を負うことも妨げない。
就業規則だけでなく重層的な取り組みを
上記の「ソーシャルメディア利用規程」は、内容的に網羅したものではありません。あくまでも「たたき台」として参考にしていただければ幸いです。
就業規則は、作成および変更手続きが厳格であり(労働基準法90条1項参照)、かつ社員にとって不利益な変更に当たるような場合には一定の制約があります(労働契約法9条、10条参照)。そのため、就業規則では、社員のSNS利用に関する一般的な規定にとどめ、細かな具体的な行動規範などについては、SNSガイドラインなどで対応していくことが望ましいでしょう。
このように、社員のSNSによるリスクを軽減するには、就業規則への明文化だけなく、「社員教育・研修の実施」、「SNS利用に関する誓約書の取り交わし」「SNSポリシーやSNSガイドラインの作成」といった、重層的な取り組みをしておく必要があります。経営的な課題として、早急に対応しましょう。