2017年5月に民法の一部を改正する法律が成立し、一部の規定を除いて2020年4月1日から改正された民法(以下:「新法」)が施行されます。民法は、日常生活や取引活動に関する基本的なルールを定めた非常に重要な法律です。今回、それが約120年ぶりに大幅に改正されたのですから、かなりのインパクトがあります。施行まで1年を切りました。改正点について、今回は、売買契約を中心に再確認します。
今回の改正では、時効に関しさまざまな改正がなされました。まずは消滅時効について解説しましょう。従来は債権の消滅時効は原則的に10年間、商取引だと5年間といった期間に違いがあるほか、職業別短期消滅時効といったさまざまなルールがありました。
新法では、こうした時効期間のルールが統一化されました。消滅時効について、債権者が「権利を行使することができる時から10年間行使しないとき」、「債権者が権利を行使できることを知った時から5年間行使しないとき」のいずれかの場合は,債権は時効によって消滅すると改正されます(新法166条1項)。
例えば、従来は売買契約で代金支払日が定められていれば、売り主の買い主に対する代金支払請求権については、原則として代金支払日から10年間は消滅時効にかかりませんでした。新法では、売り主が売買契約書の記載などで、代金支払日を知っている場合は、代金支払日から5年間を経過したら代金支払請求権が消滅時効にかかることになります。
このように、民法の改正により、消滅時効にかかる期間が変わってしまうケースもありますから、今後は日常の各取引について、時効期間に変化がないかチェックするとともに、消滅時効にかけないために時効を管理することが必要になってきます。
債務不履行による契約解除についても改正される…
債務不履行による契約の解除についても改正がされました。債務不履行とは、平たくいうと契約の当事者が、契約で定められた義務に違反する場合のことです。従来は、債務者の債務不履行を理由に契約を解除する場合、債務者の責めに帰すべき事由(帰責事由)がないと契約を解除することはできませんでした。それに対して新法では、債務者に帰責事由がない場合でも契約の解除をすることができることになりました(新法541条および542条)。
この改正が売買契約に与える具体的な影響として、例えば次のような事例が考えられます。商品の売買契約を行った後、地震などの天災により、売り主が引き渡し期限を過ぎても商品を調達するめどが立たなくなる事態に陥ることがあります。この場合、過失ではなく、天災という不可抗力による引き渡しの遅延なので、売り主には帰責事由はありません。ですから従来は、契約書に解除を認める特約がない限り、買い主は契約の解除をすることができませんでした。
これでは、いくら早急に必要でも、買い主は別の売り主と売買契約を締結して商品を調達することをちゅうちょするかもしれません。その点、今回の改正により、契約の解除に債務者の帰責事由が不要となりますから、このような場合には、買い主は契約の解除をして、別の売り主と安心して契約をし直すことができるようになります。
瑕疵担保責任がなくなり債務不履行責任に一本化
瑕疵担保責任についてもさまざまな改正がなされました。従来、売買契約の目的物に問題や不具合がある場合、売買の目的物が特定物(当事者が目的物の個性に着目した物)であれば瑕疵担保責任の規定が適用され、不特定物(特定物以外の物)であれば債務不履行責任の規定が適用されてきました。
新法では、瑕疵担保責任の規定は廃止され、特定物・不特定物の売買であるかを区別せず、売り主は種類、品質および数量に関して契約の内容に適合した目的物を引き渡す債務を負うことになりました。引き渡した目的物が契約の内容に適合しない場合は、買い主は追完の請求(新法562条1項本文)、代金の減額請求(新法563条1項・2項)、損害賠償請求(新法564条および415条)、契約の解除(新法564条、541条および541条)ができるようになりました。
従来の瑕疵担保責任における「瑕疵」とは、契約当事者の合意、契約の趣旨に照らして通常または特別に予定された品質・性能を欠く場合と考えられています。新法における「契約の内容に適合しない場合」もほぼ同様の範囲であると考えられるので、この点にはおいては実務上の問題は少ないと思われます。
ただし、瑕疵担保責任における「瑕疵」は、「隠れた」もの、つまり買い主が取引上要求される通常の注意義務をもってしても発見できないものであることが必要でした。それに対して、新法では「隠れた」ものであることは、売り主に対する責任追及のための要件になっていないことは知っておく必要があるでしょう。
新法では「契約の内容に適合しない場合」の責任であることが明記されました。これにより、買い主から売買契約の目的物に問題や不具合があると主張された場合は、契約の内容に適合した目的物がどのようなものかが争点となることが想定されます。今後は、このようなトラブルを防止するため、売買契約書でどのような目的物を引き渡す義務があるかについて、できる限り詳細に特定し、明記しておくことが重要になるでしょう。
今回は民法改正の中で、売買契約に関連するポイントに絞って解説しました。その他にも知っておくべき、改正ポイントはたくさんあります。2020年4月の施行までにしっかりチェックしておきましょう。