職場におけるセクシュアルハラスメントについて、事業主への相談などを理由とした不利益取扱いの禁止などを新たに定めた改正男女雇用機会均等法が、本年6月1日から施行されました。
セクシュアルハラスメントなどのさまざまなハラスメントは、働く人の能力が十分発揮されることを妨げ、個人としての尊厳や人格を傷付け、企業にとっても、職場秩序の混乱、業務への支障、人材流出、社会的評価の低下などの問題を生じさせるものであり、その防止対策は極めて重要です。
セクシュアルハラスメントについては、早くからこの点について認識され、他のハラスメントと異なり、既に2006年の男女雇用機会均等法改正により、職場における性的な言動に起因する問題への対応について、事業主に雇用管理上の措置義務を課してきました(第11条第1項)。
しかしながら、セクシュアルハラスメントについて事業主に相談したことなどを理由とする不利益取扱いの禁止や、取引先など他社の労働者との間で生じたセクシュアルハラスメントについての規制がないなど、その実効性において不十分な点がありました。
そこで今回、男女雇用機会均等法を改正し、これらの点を含めたセクシュアルハラスメント防止対策の強化が図られました(第11条第2項3項など。なお、同法第11条の3、育児・介護休業法第25条において、職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについても、ほぼ同様の改正がなされています)。
職場におけるセクシュアルハラスメントには、以下の2つの類型があります(男女雇用機会均等法第11条第1項、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(以下、指針といいます)」参照)。
「労働者の意に反する性的な言動」や「就業環境が害される」に該当するかは、労働者の主観を重視しつつも、事業主の措置義務の対象になることから、一定の客観性が必要とされます。具体的には、女性労働者が被害を受けた場合には、「平均的な女性労働者の感じ方」が基準とされます。
セクシュアルハラスメントが行われた場合、直接の加害者や事業主は、被害者から損害賠償責任を問われます(民法第709条、715条)。ただし、事業主は、後掲の指針に従った雇用管理上の措置を十分に講じていれば、その責任を免れる場合があると考えられます。
今回の男女雇用機会均等法(以下、法といいます)の改正において、セクシュアルハラスメントに関し、下記(1)~(3)が明記されました。また、紛争調整委員会による調停制度について(4)の改正がなされました。
(1)事業主及び労働者の責務
(法第11条の2、第2項~4項)
事業者・労働者とも、性的言動問題に対する理解と関心を深め、他の労働者に対する言動に注意を払うことが責務とされます。また、事業主は、研修の実施その他の必要な配慮をすることも責務とされます。
(2)事業主に相談などをした労働者に対する不利益取扱いの禁止
(法第11条第2項)
労働者が相談などを行うことにちゅうちょすることがないよう、労働者がセクシュアルハラスメントなどに関して事業主に相談したことなどを理由として事業主が当該労働者に対し不利益な取り扱いをすることを禁止しました。
(3)自社の労働者が他社の労働者にセクシュアルハラスメントを行った場合の協力対応
(法第11条第3項)
事業主は、他社から雇用管理上の措置の実施(事実確認など)に関して必要な協力を求められた場合に、これに応じることの努力義務が設けられました。また、これに関連して、自社の労働者が他社の労働者などからセクシュアルハラスメントを受けた場合に、当該労働者からの相談に応じるなど措置義務の対象となることが指針で明記されました。
(4)調停の出頭・意見聴取の対象者の拡大
(法第20条)
セクシュアルハラスメントなどの調停制度について、紛争調停委員会が必要と認めた場合には、関係当事者の同意の有無に関わらず、職場の同僚なども参考人として出頭を求め、意見聴取が行えるよう対象者を拡大しました。
事業主が講じなければならない措置
これらの改正点を踏まえ、事業主は、職場におけるセクシュアルハラスメントについて、次のような雇用管理上の措置を講じることが義務づけられました(法第11条1項、指針参照)。事業主は、これらの措置を必ず講じなければなりません。
【フェーズⅠ】
事業主の方針の明確化およびその周知・啓発
(1)ハラスメントの内容・方針などの明確化と周知・啓発
職場におけるセクシュアルハラスメントの内容およびセクシュアルハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
(2)行為者への厳正な対処方針・内容の規定化と周知・啓発
セクシュアルハラスメントの行為者については、厳正に対処する旨の方針および対処の内容を就業規則その他の職場における服務規律などを定めた文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
これらの規定例については、パンフレット34パージ以下に掲載されていますので、自社に合わせてカスタマイズして利用すると便利です。
【フェーズⅡ】
労働者からの相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
(3)相談窓口の設置
相談への対応のために窓口(相談窓口)をあらかじめ定め、労働者に周知すること。
人事部などにおいて相談窓口を設置し、相談に対応する担当者をあらかじめ定めておくことが通常の取り組みとして考えられます。また、外部機関に相談の対応を委託することも考えられます。相談は面談だけでなく、電話、メールなど複数の方法で受けられるように工夫することが求められます。
(4)相談に対する適切な対応
相談窓口対応者が、相談の内容や状況に応じて適切に対応できるようにすること。相談窓口においては、被害を受けた労働者が畏縮して相談をちゅうちょする例もあることなども踏まえ、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、ハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合やハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応すること。
さらに、放置すれば就業環境を害するおそれがある相談や、セクシュアルハラスメント発生の原因や背景となるおそれがある性別役割分担意識に基づく言動に関する相談も、幅広く対象とすることが必要とされます。
【フェーズⅢ】
職場におけるセクシュアルハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
(5)事実関係の迅速かつ正確な確認
事案にかかる事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
改正法第11条第3項からは、必要に応じて、他の事業主に事実関係確認の協力を求めることも含まれ、協力を求められた事業主は、これに応じる努力義務があります。
(6)被害者に対する適正な配慮の措置の実施
職場においてセクシュアルハラスメントが発生した事実が確認できた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと。具体的には、以下のような事案の内容や状況に応じ、措置を講ずることが求められます。
ア……被害者と行為者との関係改善に向けた援助
イ……被害者と行為者を引き離すための配置転換
ウ……行為者の謝罪
エ……被害者の労働条件上の不利益の回復
オ……管理監督者または事業場内産業保健スタッフなどによる被害者のメンタルヘルス不調への相談対応など
(7)行為者に対する適正な措置の実施
職場においてセクシュアルハラスメントが発生した事実が確認できた場合には、速やかに行為者に対する措置(上記(6)ア~ウのほか、就業規則などを根拠に基づく懲戒処分など)を適正に行うこと。
(8)再発防止措置の実施
改めて職場におけるセクシュアルハラスメントに関する方針を周知・啓発するなどの再発防止に向けた措置を講じること。
必要に応じて、他の事業主に再発防止に向けた措置について協力を求めることも含まれ、協力を求められた事業主は、これに応じる努力義務があります。
フェーズⅢは、フェーズⅡの「相談窓口」とは別に、会社側(人事担当取締役、人事部長、人事課担当者など)と労働者側担当者をメンバーとする「ハラスメント対策委員会」を設置して、そこで協議して対応に当たることが適切です(パンフレット40ページ)。
【フェーズⅣ】
あわせて講ずべき措置
(9)当事者などのプライバシー保護のための措置の実施と周知
セクシュアルハラスメントに関する情報は、相談者・行為者などのプライバシーに関わることから、これら関係者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ(マニュアルの作成、研修の実施など)、社内に周知すること。
(10)相談・協力などを理由に不利益な取り扱いをされない旨の定めと周知・啓発
事業主に相談したこと、事実関係の確認に協力したこと、都道府県労働局の援助制度の利用などを理由として解雇その他の不利益な取り扱いをされない旨を定め、労働者に周知すること。
以上、見てきたように、職場におけるセクシュアルハラスメントに関して、事業主が講じなければならない雇用管理上の措置は多岐に及びます。本稿で紹介した厚生労働省のパンフレットやそこに添付されている各種資料などを活用して、他のハラスメント防止対策と一体に、着実に対策を進めていっていただきたいと思います。