「イクメン」という言葉も、一定程度定着したように思われます。しかし、他方で、女性の育児休業取得率は83.0%であるのに対し、男性はわずか7.48%にとどまっています(厚労省「雇用均等基本調査」2019年)。男性の育児休業取得率の政府目標は、2025年に30%とされていますから、このままではとても届きそうにありません。
育児休業取得率の推移(男性)
注:平成23年度の[ ]内の割合は、岩手県、宮城県および福島県を除く全国の結果
そこで、男性に育児休業取得を促すための規定などを盛り込んだ、改正育児介護休業法が本年(2021年)6月に成立しました。本稿では、この改正法のポイントについて、解説します。
育児介護休業法の概略
育児介護休業法は、とても複雑な規定ぶりとなっていますので、まずは概略についてまとめてみましょう。同法は、一言で言えば、育児休業や介護休業の制度などを設けて、従業員の仕事と育児や介護の両立を図ろうという法律です。同法が規定している制度をまとめると次のとおりとなります。
Ⅰ.育児のための両立支援制度
1.子が1歳未満(一定の場合は2歳未満)の従業員が利用できる制度
(1)育児休業
2.子が3歳未満の従業員が利用できる制度
(2)短時間勤務等(所定労働時間の短縮等)
(3)所定外労働の制限
3.子が小学校就学前の従業員が利用できる制度
(4)子の看護休暇
(5)法定時間外労働の制限
(6)深夜業の制限
Ⅱ.介護のための両立支援制度
(1)介護休業
(2)短時間勤務等(所定労働時間の短縮等)
(3)介護休暇
(4)法定時間外労働の制限
(5)深夜業の制限
育児と介護のいずれにおいても、従業員がこれらの制度の利用を申し出たことなどを理由として、事業主がこうした従業員を不利益に取り扱うこと(例えば、解雇することなど)は禁じられています。
今回の育児介護休業法の改正は、出産・育児による労働者の離職を防ぎ、希望に応じて男女共に仕事と育児を両立できるようにすることを目的としています。とりわけ男性の育児休業取得を促進することを趣旨として、主に育児休業に関する規定を見直すものです。
改正法の施行は3段階に分かれていることから、以下では、事業主がそれぞれの施行段階で何に対応すればよいかが分かるように、施行順に改正のポイントを解説していきます。
2022(令和4)年4月1日から施行となる改正…
大きく分けると次の2つの改正項目が施行となります。
1.雇用環境の整備など
事業主は、従業員が育児休業を取得しやすい雇用環境を整備するために、育児休業に関する「研修の実施」や「相談窓口の設置」など、複数の選択肢からいずれかの措置を選択して講じることが求められます(選択肢の詳細は、今後省令にて規定予定)。
また、事業主は、男女の従業員から、自身や配偶者が妊娠・出産したことなどについて申し出があったときは、その従業員に対して育児休業制度について知らせるとともに、育児休業取得の意向を確認するための面談などの措置を講じることが求められます。これらに違反すると、育児休業を拒んだ場合と同様に、行政上の勧告の対象となり、勧告に従わなかったときはその旨を公表されることがあります。
2.有期労働者の育児・介護休業
育児休業を取得できる有期労働者の要件が緩和され、これまで求められていた「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」という要件は、廃止されました。すなわち、2022(令和4)年4月1日以降は、「子が1歳6カ月になるまでに労働契約が満了することが明らかでない有期労働者」であれば、事業主に申し出ることによって、育児休業を取得できるようになります。
「雇用継続期間1年以上」という要件は、介護休業においても廃止となります。ただし、どちらの休業であっても、労使協定を締結した場合は、無期労働者のケースと同様に、雇用継続期間が1年未満の有期労働者を休業の対象から除外することが可能です。
改正法の公布日(令和3年6月9日)から1年6カ月以内に施行となる改正
これまでの育児休業に加え、「出生時育児休業」(男性版産休などと報道されている制度)が創設されるとともに、「育児休業の分割取得」が可能となります。
1.出生時育児休業(男性版産休)
これは、子の出生後8週間までに、4週間以内の期間を定めて取得することができる新しい育児休業の制度で、今回の改正の柱といえるでしょう。女性は、この間、産後の休業(いわゆる「産休」)中ですから、「出生時育児休業」は男性が利用する制度です。男性版産休といわれるゆえんで、男性の取得ニーズが高い子の出生直後の時期に、柔軟な仕組みの制度を設け、男性に育児休業の取得を促そうというものです。
男性が取得しやすいように、この休業は2回に分けて取得することができるうえ、希望すれば休業中に一定の条件で就労することも可能とされています。
2.育児休業の分割取得
これまでの男性は、子の出生後8週間までに1回、子が1歳に達するまでに1回、それぞれまとまった育児休業を取得することしかできませんでした(いわゆる「パパ休暇」)。
しかし、今回の改正で、出生時育児休業の制度が設けられたことに加え、これまでの育児休業も、2回に分けて取得することが可能となりました。この結果、男性は、子が1歳になるまでに、育児休業を4回に分けて取得することが可能となります。
この育児休業を分割して2回まで取得できるとする改正は、女性にも適用されます。夫婦交代で育児休業を取得しやすくし、子の出生直後の時期のみならず、その後も継続して夫婦で育児を担えるよう配慮されたものです。
2023(令和5)年4月1日から施行となる改正
令和5年4月1日からは、常時雇用する労働者が1000人を超える企業は、毎年少なくとも1回、従業員の育児休業の取得状況について公表することが義務付けられます。これは、大企業に育児休業取得の促進を間接的に迫るものといえるでしょう。具体的な公表事項や公表手段については、今後省令にて規定される予定です。
少子高齢化に伴う人口減少下において、仕事と育児を両立できる社会を実現することは重要です。育児介護休業法の改正が正しく理解され、適切に運用されることを期待します。