新型コロナウイルスの感染予防のため、最近、ZoomやTeamsなどWeb会議システムを利用した採用面接(Web面接、オンライン面接)が急速に普及しています。リクルートキャリアの研究機関、就職みらい研究所の「就職白書2021」によると、2021年卒業者に対するWeb面接の実施率は全体で69.8%。従業員規模別5000人以上の企業では94.3%に達しています。
Web面接はパソコンやスマホなどを使い、インターネット経由で行うため、お互いにどこにいても面接を行うことができるなど、企業の採用担当者、応募者双方にとってメリットがあります。今後、新型コロナウイルス流行が落ち着いても、引き続き採用され続ける可能性が少なくありません。
反面、相手方の許可なく録画や録音をすることが容易であるため、面接時に採用担当者が応募者に不用意な発言や質問をしてしまうと、後々それを証拠として提出され、不法行為あるいは企業の信用低下など取り返しのつかない事態になる恐れがあります。
そうしたこともあり、今回は、今一度、企業の採用面接の際にしてはいけない質問など採用担当者が注意すべき点を整理し、ポイントについて解説します。
企業の「採用の自由」と応募者の「真実告知義務」
この問題を考えるには、まず、企業には、誰を従業員として採用するかについての自由、すなわち、採用の自由があることを押さえる必要があります。
労働契約も契約の一種である以上、契約自由の原則の下に置かれ、企業は、いかなる者をいかなる条件で雇い入れるかについて、法律などにより特別の制限がない限り、原則として自由に決定することができます(三菱樹脂事件・最大判昭和48年12月12日)。
これは、我が国ではいったん雇用した労働者を解雇するには厳格な法規制(労働契約法第16条)を受けるため、その反面、採用の段階では、企業側の人事権に制約を加えるべきではないという事情からも広く認められています。
この採用の自由は、①誰をいかなる基準で採用するかという「選択の自由」、②企業は特定の労働者との労働契約の締結を強制されない「契約締結の自由」、③企業が、採用決定の段階で応募者の身辺を調査したり、応募者から一定の事項を申告させたりする「調査の自由」などに具体化されます。
上記③の「調査の自由」に関連して、応募者は、企業から職務遂行能力と合理的に関連性を有する事項(学歴・職歴・保有資格など)について申告を求められた場合に、信義則上(民法第1条2項)、真実を告知する義務(真実告知義務、真実回答義務)があると解されています(メッセ事件・東京地判平成22年11月10日)。
そして、応募者が、企業から申告を求められたこれらの事項について虚偽の回答や不実の記載をして、そのことが労働契約成立後に判明した場合は、真実告知義務違反および経歴詐称として、解雇や懲戒の対象となり、損害賠償責任を負うことがあります(KPIソリューションズ事件・東京地判平成27年6月2日)。
企業の「調査の自由」には限界がある…
ただ、企業に調査の自由があり、応募者には真実告知義務があるといっても、これらは全く無制約に認められるわけではありません。
前掲の三菱樹脂事件の最高裁判決では、採用の自由について「・・・法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができる」と判示し、法律などによる制約を前提としています。また、企業による応募者の調査の自由、および、これに対する応募者の真実告知義務も、職務遂行能力と合理的に関連性を有する事項(学歴・職歴・保有資格など)に限られると解されています。
加えて、採用面接に際して企業は、応募者の人格的尊厳やプライバシー権に配慮し(憲法13条)、また、不合理な差別的取り扱いをしない(憲法14条)ことが求められます。これらは、憲法上の権利や基本原則に関わる事項であり、調査の自由に対する「特別の制限」といえるものです。
具体的な裁判例としては、応募者本人の同意を得ないで行ったHIV抗体検査やB型肝炎ウイルス感染検査が、プライバシー権を侵害するものとして、違法と判断されています(警察庁警察学校事件・東京地判平成15年5月28日、B金融公庫事件・東京地判平成15年6月20日)。
これに対し、三菱樹脂事件の最高裁判決では、「企業者が、労働者の採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることも、これを法律上禁止された違法行為とすべき理由はない」として応募者の思想や信条について調査の自由を肯定していますが、人は意に反して思想や信条を告白することを強制されないとする思想・良心の自由(憲法19条)に反するとして、この結論については強く批判されています。
採用面接に際して採用担当者が注意すべき点
以上の調査の自由の限界を踏まえ、厚生労働省では「公正な採用選考の基本」と題して、採用段階の注意点について整理しています。ぜひとも参考にしてください。
要点は、次のとおりです。
(1) まず、採用選考の基本的な考え方として、
ア 採用選考に当たっては
① 応募者の基本的人権を尊重すること
② 応募者の適性・能力に基づいて行うこと の2点を基本的な考え方として実施することが大切であるとしています。
イ また、公正な採用選考を行う基本は、 ① 雇用条件・採用基準に合った全ての人が応募できる原則を確立し、応募者に広く門戸を開くこと
② 応募者の持つ適性・能力が求人職種の職務を遂行できるかどうかを基準として採用選考を行うこととしています。(2) 次に、実際の採用選考に当たっては、
ア 家族状況や生活環境といった、応募者の適性・能力とは関係ない事柄で採否を決定しないこと。そのため、応募者の適性・能力に関係のない事柄について、応募用紙に記入させたり、面接で質問したりすることによって把握しないようにすることが重要としています。
イ また、面接を行う場合、職務遂行のために必要となる適性・能力を評価する観点から、あらかじめ質問項目や評価基準を決めておき、適性と能力に関係のない事項を尋ねないよう留意する必要があるとしています。
(3) そして、具体的に、次のア、イのような事項を質問したり応募用紙に記載させたりしないよう要請し、ウを実施することは就職差別につながるとして禁止しています。
ア 本人に責任のない事項の把握
① 本籍・出生地に関すること
「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当するとされています。
② 家族に関すること(職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産など)
家族の仕事の有無・職種・勤務先などや家族構成はこれに該当するとされています。
③ 住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設など)
④ 生活環境・家庭環境などに関すること
イ 本来自由であるべき事項(思想信条に関わること)の把握
① 宗教に関すること
② 支持政党に関すること
③ 人生観、生活信条に関すること
④ 尊敬する人物に関すること
⑤ 思想に関すること
⑥ 労働組合に関する情報(加入状況や活動歴など)、学生運動など社会運動に関すること
⑦ 購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること
ウ 採用選考の方法
① 身元調査などの実施
「現住所の略図」は生活環境などを把握し身元調査につながる可能性があるとしています。
② 合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施
経営者へのアドバイス
以上のように、企業には応募者の採用の自由が認められるとしても、調査が許されるのは職務遂行能力と合理的に関連性を有する事項に限られ、かつ、応募者の基本的な権利への配慮も必要となります。
それゆえ、企業には、このような意識を持って、公正な採用選考を実施することが求められます。企業の戦力強化のために行う採用活動のミスで、ダメージを負っては意味がありません。人事担当者だけでなく、面接を担当する社員など採用に関係する全ての従業員に、以上のような注意点を徹底しておきましょう。