ビジネスを加速させるワークスタイル(第15回)
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公開日:2022.01.24
新型コロナウイルスの感染拡大により事業所の閉鎖・縮小を検討される事業者の方も少なくないかと思います。事業用建物の賃貸借契約が終了するときによく問題となるのが、「原状回復義務」です。賃借人の費用負担で原状回復をすべき範囲はどの程度なのでしょうか。本記事は、原状回復義務の概要や注意点について説明するものです。まずは基本的な考え方から解説していきます。
原状回復義務とは、民法上、賃借物を受け取った後に生じた損傷を、賃貸借の終了時に、原状に復する義務と定められています。もっとも、通常損耗(通常の使用・収益によって生じた損耗をいい、経年変化(建物・設備などの自然的な劣化・損耗など)を含みます)は、原状回復義務の対象外です。また、その損傷が賃借人の責めに帰すべき事由によるものでない場合は、賃借人は原状回復義務を負いません。
つまり、「原状」回復といっても、借りた当時の状態(原状)に戻す必要が常にあるわけではありません。本記事では、原状回復義務のポイントを下記3つに整理した上で、それぞれについて説明します。
・通常損耗については賃貸人が負担し、それを超える損耗(特別損耗)については賃借人が負担する。
・特別損耗としての賃借人の負担は、合理的な範囲に限られる。
・通常損耗について賃借人が負担する特約を結ぶことができる。しかし、このような特約が有効と認められるためには一定の条件を満たす必要がある。
それぞれ具体的にどのようなことなのか、次に詳しく見ていきます。
賃貸借契約とは、賃借人が建物を一定期間使用する代わりに賃料を支払う契約であることから、通常損耗に対する修繕費用はあらかじめ賃料に含まれていると考えられています。そのため、上記の通り通常損耗は、賃借人の負担ではないが(賃貸人負担)、通常損耗を超える損耗(特別損耗)は、賃借人の負担とすることが原則です。
具体的には、家具の設置による床・カーペットのへこみ・設置跡や、壁に開いた画びょう・ピンの穴で下地ボードの張り替えまでは不要なものなどは、通常損耗として、賃貸人が負担すべきであると考えられています。
他方、賃借人が結露を放置したことで拡大したカビ・染みや、壁に開いたくぎ・ネジの穴で下地ボードの張り替えまで必要なものなどは、特別損耗として、賃借人が負担すべきであると考えられています。
上記の通り、通常損耗を超える特別損耗については賃借人負担というのが原則です。しかし、その賃借人が負担すべき修繕の部位と費用負担の割合は、原則として、合理性が認められる範囲に限られます。
まず、原状回復義務による修繕をすべき部位は、必要最小限の範囲に限られます。例えば、壁の1面についた染みを除去するため壁紙の張り替えをする場合、染みの付いていない他の面の壁紙まで張り替える必要は基本的にないだろうということです。
また、賃借人が特別損耗を理由とする修繕工事を行うに当たり、通常損耗に係る部分の工事が含まれる場合もあります。このような場合、修繕費用のうち通常損耗に相当する分は賃貸人が負担すべきであると考えられています。
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執筆=福原 竜一
虎ノ門カレッジ法律事務所 弁護士
2009年弁護士登録。企業法務及び相続法務を中心業務とする。主な著作として、「実務にすぐ役立つ改正債権法・相続法コンパクトガイド」(編著:2019年10月:ぎょうせい)がある。2019年8月よりWEBサイト「弁護士による食品・飲食業界のための法律相談」を開設し、食に関わる企業の支援に力を入れている。
https://food-houmu.jp/
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