2021年4月に成立・公布された「民法などの一部を改正する法律」(以下:「2021年改正法」)が、2023年4月1日以降順次施行されます(改正事項によって施行日が異なります)。2021年改正法は、従来の民法や不動産登記法などの基本的ルールを見直すもので、適用場面は広く、特に不動産関連の相続に与える影響はとても大きいものです。
不動産関連の相続に影響する改正点のうち、前回は不動産の登記に関する改正の要点を説明しましたが、今回は遺産分割に関する改正点について、解説します。
遺産分割の基本事項
相続人が複数いる場合、共同相続人の間で相続が開始します。この場合、被相続人の遺産は過渡的に共同相続人間の共有とされます(改正民法898条1項:遺産共有状態)。これを相続分に応じて分割し、各相続人の単独財産に帰するのが遺産分割です。
「相続分」には、法律で定められた法定相続分(改正民法900条、901条)、および遺言で指定される指定相続分(改正民法902条)があります。しかし、共同相続人の中に、被相続人の財産を維持・増加させるような特別の寄与を行った者や、被相続人から財産の遺贈・贈与を受けた者がいる場合、こうした事情を考慮せずに上述の相続分に従った遺産分割を行うと、他の相続人との公平を害しかねません。そのため、相続人間の実質的な公平を図るべく、各相続人の個別事情(特別受益、寄与分)を考慮した具体的相続分の算定方法も規定されています(改正民法903条ないし904条の2)。
遺産分割の方法としては、共同相続人間の協議(改正民法907条1項)によるほか、協議が調わないか協議ができない場合の家庭裁判所に対する遺産分割請求(改正民法907条2項本文)や、遺言による遺産分割方法の指定(改正民法908条1項)があります。
改正点―時的限界(具体的相続分による遺産分割)
民法にはこれまで、具体的相続分に基づく遺産分割について期間制限が規定されていませんでした。そのため、長期間遺産分割がなされないことで、特別受益や寄与分に関する記憶が薄れるなどして遺産分割が困難になり、結局相続財産の管理・処分がなされないまま放置される場合も少なくありませんでした。
また、遺産分割がなされないまま相続人の一人が死亡して次の相続(数次相続)が発生すると、相続人の増加に伴って相続財産の管理・処分はますます困難になり、所有者不明土地問題(前回参照)の要因となっていました。
そこで、2021年改正法は、相続開始から一定期間が経過した場合に具体的相続分に関する規定の適用を原則として排除し、具体的相続分による分割を求める相続人に早期の遺産分割を促すとともに、その後は法定相続分や指定相続分に基づく、円滑かつ画一的な分割を可能としました。これは、遺産共有状態の解消を促進し、所有者不明土地の発生を予防しようとするものです。
2023年施行だが、それ以前の相続にも遡及適用…
具体的には、以下に掲げる改正民法904条の3(2023年4月1日施行)が新設されました。
(期間経過後の遺産の分割における相続分)
第904条の3
前3条の規定*は、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
1 相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
2 相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
*特別受益(民法903条、904条)および寄与分(民法904条の2)の規定を指します。
改正民法904条の3柱書本文は、相続開始時(被相続人死亡時)から10年を経過した後にようやく遺産分割がなされるという場合、各相続人の個別事情である特別受益や寄与分を考慮した具体的相続分を前提にする必要はないということを意味しています。
ただし、相続人が、改正民法904条の3柱書ただし書の第1号または第2号に該当する遺産分割の請求をしたときは、相続開始時から10年経過後も特別受益ないし寄与分の規定の適用を受けられます。また、相続開始時から10年が経過した後に、共同相続人間で、遺産分割の基準として具体的相続分を用いる旨の合意をすることも可能です。
なお、この改正民法904条の3に関する2021年改正法の施行日は2023年4月1日ですが、同条はそれ以前に相続が開始された遺産の分割についても遡及適用されます(2021年改正法附則3条前段)。
この場合、具体的相続分による遺産分割をするためには、①相続開始時から10年経過時または2021年改正法の施行日から5年経過時のいずれか遅い時までに、相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をするか、②相続開始時から10年の期間(10年の期間満了後に2021年改正法の施行日から5年の期間が満了する場合にはその期間)満了前6カ月以内に、遺産分割請求をできないやむを得ない事由があった場合には、その事由が消滅した時から6カ月経過前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしなければなりません(同附則3条後段)。つまり、施行日以前に開始した相続の場合は、少なくとも2021年改正法の施行日から5年の猶予期間が設けられているということになります。
改正点―時的限界(遺産分割の禁止など)
以上のほか、2021年改正法においては、具体的相続分による遺産分割に期間制限が設けられたのに伴い、共同相続人間の合意または家庭裁判所の審判による遺産分割の禁止に関して、いずれも相続開始の時から10年を超えることができないなどの規制が設けられました(改正民法908条2項ないし5項。2023年4月1日施行)。
また、遺産分割調停について、従前は調停申し立ての取り下げに制限はなく、申立人は終了するまでの間いつでも取り下げることができました(改正前家事事件手続法273条1項)。遺産分割審判事件についても、相手方が本案について書面を提出し、または家事審判の手続きの期日について陳述をするまでは、相手方の同意なくして取り下げができるとされていました(改正前家事事件手続法199条、153条)。
しかし、相続開始後10年以内に遺産分割の調停・審判を申し立てたものの、10年経過後に当該申し立てが取り下げられると、はじめから事件は係属していなかったものとみなされ(改正前家事事件手続法82条5項前段、273条2項、民事訴訟法262条1項)、相手方が改めて遺産分割請求をした場合には具体的相続分による遺産分割ができなくなってしまいます。
そこで、このような事態を回避するため、遺産分割調停・審判の申し立ての取り下げは、相続開始の時から10年を経過した後は、相手方の同意がなければその効力が生じないものとされました(改正家事事件手続法199条2項、273条2項。2023年4月1日施行)。
以上のように、2021年改正法により、遺産分割に関するルールは大きく変更されますので注意が必要です。2021年改正法では、その他にも、土地利用に関する民法の規律の見直しとして共有制度の見直しに関する改正や、相続などに際し不要な土地を手放すための相続土地国庫帰属制度が創設されるなどしています。次回はこれらの点について解説します。