弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第121回)カスハラ対策に真剣に取り組もう

法・制度対応

公開日:2024.10.22

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 近年、企業において、顧客や取引先など(以下、顧客など)からの著しい迷惑行為であるカスタマーハラスメント(以下:カスハラ)が深刻化しており、カスハラ問題への社会的関心が高まっています。

 カスハラは働く人に過度な精神的ストレスを与え、人格や尊厳を害するだけでなく、企業に金銭的、時間的、精神的な負担を与え、事業活動に重大な影響を及ぼします。そのため、あらゆる企業にとって対策が喫緊の課題となっています。

 そのような中、2024年10月4日に東京都でカスハラを防ぐ全国初の条例、「東京都カスタマーハラスメント防止条例」が可決、成立しました(2025年4月1日に施行)。これに先立ち、2022年2月には厚生労働省が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(以下:マニュアル)を公表し、カスハラに対する企業の対応の指針を示しています。

 今回は、これらの条例やマニュアルをもとにカスハラの内容を明らかにした上で、企業に求められるカスハラへの対応策を明らかにしていきます。また、東京都のカスハラ防止条例についても少し触れます。

カスタマーハラスメントの内容と判断基準

 クレームには商品やサービスへの改善を求める正当な権利行使といえるものもあり、顧客などからのクレームすべてがカスハラに該当するわけではありません。過剰な要求、商品やサービスに対する不当な言いがかりなど悪質なクレームがカスハラに該当します。ですから、業者や職種、提供されるサービスの内容などにより、正当なクレームと悪質なクレームとの境界線が異なると考えられます。

 これらを踏まえ、カスハラとは、「顧客などからのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」をいいます(マニュアル7ページ)。

 まず、「顧客などの要求の内容が妥当性を欠く場合」とは、①企業の提供する商品・サービスに瑕疵(かし)・過失が認められない場合、②要求の内容が企業の提供する商品・サービスの内容と関係がない場合が考えられます。

 次に「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動」とは、①要求内容の妥当性にかかわらず不相当とされる可能性の高いものとして、

ア、身体的な攻撃(暴行、障害)
イ、精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)
ウ、威圧的な言動
エ、土下座の要求
オ、継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動
カ、拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)
キ、差別的な言動
ク、性的な言動
ケ、従業員個人への攻撃、要求

などが考えられます。

 一方、②要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合があるものとして、

ア、商品交換の要求
イ、金銭補償の要求
ウ、謝罪の要求(土下座を除く)

などが考えられます。

 これらに該当するか否かの判断基準については、業種や業態、企業文化などの違いから企業ごとに違いが出てくるものと考えられます。そこで、各企業において、あらかじめカスハラの判断基準について明確にした上で、企業内の考え方、対応方針を統一して現場を含む社内で共有しておくことが重要です。判断基準の1つの尺度として、以下のように考えるのが有用です(マニュアル11ページ以下)。

 「顧客などの要求内容に妥当性があるか」については、顧客などの主張について、まずは事実関係、因果関係を確認し、自社に過失がないか、根拠のある要求がなされているかを確認し、顧客などの主張が妥当かを判断します。「要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当か」については、顧客などの要求内容の妥当性の確認と併せて、その要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当な範囲であるかを確認します。

 各企業において、これらの尺度を用いてあらかじめ想定されるケースについてカスハラに該当するかを社内でシミュレーショし、共有するのは有効なカスハラ対策といえます。

企業に求められるカスハラへの対応策…

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執筆=上野 真裕

中野通り法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)・中小企業診断士。平成15年弁護士登録。小宮法律事務所(平成15年~平成19年)を経て、現在に至る。令和2年中小企業診断士登録。主な著作として、「退職金の減額・廃止をめぐって」「年金の減額・廃止をめぐって」(「判例にみる労務トラブル解決の方法と文例(第2版)」)(中央経済社)などがある。

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