CSで真っ先に重要視すべきは「顧客」だと思われがちですが、実はESを軽視したまま顧客の満足度向上に取り組もうとしても、なかなか上手くいきません。逆にCSが低下する畏れすらあります。優先順位で言えば顧客以上にESの方が大切だと言っても過言ではないのですが、何故でしょうか。
その理由は「接点」にあります。「接点」とは顧客と企業が接するさまざまな機会のことだと前回お伝えしました。では経営幹部の皆さんにお尋ねします。皆さんと社員ではどちらが「顧客との接点」が多いでしょうか。また、より顧客に近い位置にいるのは皆さんでしょうか、社員の方々でしょうか。
お判り頂いたと思いますが、顧客との「接点」が最も多く位置も近いのは、例外を除き、経営幹部の皆さんではなく社員の方々です。そのため、社員が自分の仕事や会社に対して不満を募らせている状態では、以心伝心でそうしたネガティブな感情が、小さくとも多数の接点を通じて顧客にも伝わってしまう可能性が高まるのです。
また、接点を重視した経営を実践するということは、細かな接点の一つ一つにおいて社員へ従前以上のパフォーマンスの向上を要求することになります。従業員満足度を軽視したままそれらを要求してしまえば労働強化のように思われてしまい、社員のモチベーションを低減させるだけでなく、会社への反発心を招いたり、「自分達を苦しめる嫌な存在」として社員が顧客を嫌ってしまったりする可能性すら高まります。
ではESを向上させるにはどうすれば良いのでしょうか。もしここで、ESの向上を即待遇改善、つまり給与をあげることだと考えた方がいたとすれば、それはいささか早計と言えます。…
たしかに給与はESを向上させる上で重要な要素の一つであることに間違いありませんが、それだけでESが向上するものでもありません。少なくともCS重視の経営を行う上でなら、最も優先度が高いテーマとは言えないのです。
では、CS重視の経営を実践する上で望ましいES向上策とは、どのようなものなのか。実はこの答えを紐解く鍵も「接点」にあります。顧客との「接点」を多数抱えている社員の立場になって、少し考えてみて下さい。
「接点」即ち顧客と接する機会が多い社員にとって、何が最も大きな喜びに繋がるかを考えれば答えが出ます。それは、自分の仕事に対して顧客に喜んで貰えたことを実感出来た時や、顧客から感謝や労いの言葉を貰ったり、褒めてもらったりした時と言えるのではないでしょうか。端的に言えば、「(顧客との接点で)成功体験を得られた時」と表現しても良いかもしれません。
そうした成功体験、即ち顧客からの感謝の言葉等を得られれば、仕事の辛さも忘れることが出来、明日への仕事への活力も生まれ、その結果として、愛社精神やES等も高まることになります。
逆に日々顧客から非難、罵倒され、お詫びを繰り返すだけの仕事を強いられているとすれば、少々給与等の条件が良くとも、それは我慢しているだけであって、仕事への満足度など向上する筈ないと言えます。
ESを向上させるための具体的な取り組みとは
では、さまざまな接点において社員がそうした成功体験を一つでも多く得られるようにするには、どうすれば良いかということですが、それは「一つ一つの接点において、社員が顧客に満足して頂く為に最高のパフォーマンスを発揮できるよう、阻害要因を取り除き環境を整えてあげること」だと言えます。
具体例で説明すると、たとえば、故障したわけではないが時々調子が悪くなるレジ機があったとします。そのことによりレジ担当者が「接客中にレジ機の調子がおかしくなるのではないか」といった不安やストレスを感じていれば、レジでの接客に100%集中することが困難になります。
まさにこのレジ機が、社員のパフォーマンスを抑制する阻害要因と言える訳です。従って、レジメーカーの技術者を呼んで徹底的にメンテナンスしてもらう、或いは思い切ってレジ機を新品に交換する等が有効な対策、即ち阻害要因を取り除き、環境を整えてあげることに繋がります。
それでは、この「阻害要因を取り除き、環境を整えてあげる」ための必要なプロセスを順番に整理してみましょう。
まず、顧客との接点を社員に洗い出させること(接点の抽出については前回の記事も参考にして下さい。)
次に、各接点において社員が自分の役割を果たす上で抱えている悩みや不安、困っていること、障害になっていること、課題になっていること等がないか、社員一人一人に整理させること。
三つ目として、幹部もしくは管理職の皆さんは、社員一人一人からそれらを丁寧にヒアリングすると共にその有効な解決策を共に話し合い、策が固まったら解決策を実行する期限を定め、その期限までに実行することを約束すること。
最後は、当然ですが社員との約束を履行すること。即ち解決策を実行し、障害になっているものを取り除いてあげること。以上が環境を整えるための取り組みの手順です。
その上で、各顧客との接点にて従来より高いパフォーマンスを発揮し、CSの向上に貢献した場合には、それを認め、評価してあげると良いと言えます。
具体的な評価方法としては社員を表彰したり、プラス査定の条件に加えたり等が考えられますが、そうした頑張りの結果として昇給等が実現すれば、単に待遇が良くなったということでなく、「自分の努力や頑張りを認められた」という満足感も伴いますので、社員の士気やモチベーションの更なる向上も期待できると言えます。
「接点」の改善は社員が中心になって取り組むこと
さて、ここまで読んで既に気付いた方もいると思いますが、接点重視の経営を実践する上で主役になるのは、実は幹部の皆さんではなく、顧客と最も接点が多い「社員」ということになります。
前回、接点を細分化することの重要性を説きましたが、そうした細かな接点をより的確に抽出できるのも、幹部の皆さん以上に顧客に最も近い現場で頑張っている社員の筈です。また、そうした各接点において顧客の満足度を高める上で障害となっていることが何かをわかっているのも、また、それらの課題を解消するためのより有効な対応策を発案出来るのも、顧客との距離が近い社員の方だと言えます。
まとめますと、接点を重視したCS向上に取り組むということは、接点に最も近い社員の皆さんを主役にして取り組むことであり、その際の経営幹部の役割とは、ESの向上、即ち社員の皆さんが力を発揮する上で障害となっているものを取り除いてあげることと、各接点において優れたアイデアを発案したり、より高いパフォーマンスを上げた社員を適切に評価してあげること、と言えます。
以上、2回にわたりCSについて説明して参りましたがご理解頂けたでしょうか。記事内容をよく読んで頂き、接点を重視した経営を実践し、ぜひCSの更なる向上を実現して下さい。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2014年2月3日)のものです。