12月に入って、天気予報に表示される雪のマークにも見慣れてきました。山が深く雪に覆われる冬。これから春にかけて新酒が造られ、日本酒のおいしいシーズンがやってきます。山と日本酒、山の名前がついたお酒がたくさん造られているくらい、実は切っても切れない関係にあります。今回は、そんな山と日本酒のつながりについてお話をしましょう。
名山あるところ銘酒あり
全国に無数といっていいほどある中から選ばれた日本を代表する100の山、「日本百名山」。そのうち、お酒の銘柄として使われているのが41山(焼酎の2山を含む:著者調べ)あります。「飯豊山」「谷川岳」「劔岳」(剱岳)など、山の名前そのままの銘柄もあれば、「出羽の富士」(鳥海山)、「くろかみ」(黒髪山=男体山)といった別名が使われているもの、「大雪渓」(白馬岳)のようにその山を象徴する名前、「尾瀬の雪どけ」(燧ヶ岳・至仏山)など近代風なネーミングのものも。
山名のお酒が多く造られているのは、それだけ山と酒のつながりが深いということでしょう。それもそのはず、お酒造りに欠かせない水は山から生まれ、その水が麓の田を潤し、米を実らせ酒の原料となる。そして水そのものも酒の仕込みに使われて、おいしいお酒に変わる……。名山あるところに名水あり、そして銘酒ありとなるのです。…
中国地方を代表する名山、大山(だいせん)。伯耆富士とも呼ばれる秀麗な形をしていますが、南北には切り立った壁を持ち、見る方向によって大きく形を変えます。その西山麓、標高約300mにある酒蔵で造られているのが「だいせん」。「平成の名水百選」にも選ばれた大山の湧き水「地蔵滝の泉」と同水脈となる伏流水を仕込み水として造られた日本酒は、やや辛口で果実酒を思わせる味わい。時期によっては予約すれば醸造所の見学も可能とのこと。登山の帰りに立ち寄れば、日本酒製造に関する話が聞けて楽しそうですね。
また、霊山としても名高い富山の名山を名にしたお酒が「立山」。このお酒は立山酒造が創業した文政13(1830)年から造られています。製造元によると、古くから信仰の山として崇められ、富山の誇る山ということから名づけられたそう。登山のお土産に買って帰るならと、「特別本醸造立山」を薦められました。キレとコクを併せ持ち、地元でも長く愛されている上品な味わいのお酒です。
デザインに思わずうなる「苗場山」
とってもおしゃれなのが「苗場山」の限定ワンカップです。苗場山は長野県と新潟県の間に位置しています。山頂部が広い湿原になっていて、夏は池塘とよばれる、湿原の中にある小さな池に青空を映す、開放感あふれる山。特別本醸造「苗場山」のワンカップデザインは越後妻有(新潟県十日町市・津南町)で3年に1度開催される、世界最大級の国際芸術祭「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」で生まれたもの。地域の名産品をアーティストやデザイナーとのコラボでリデザインしたオフィシャルグッズです。
苗場山に雪が降り積もるイメージがデザインされています。カップをゆっくり回すと、プリントされた細かな雪のドットが重なり合い、雪が空から降っている様子がアニメーションのように見える仕掛け。山に雪が降り、その雪が春には水になる。そして、その水から「苗場山」が生まれる……。そんな流れを表現したものだそう。シンプルながらもおしゃれでメッセージ性のあるデザインが山好きの心をつかみます。ただし、限定品だけに現在は手に入りづらい状況。地元の酒屋やイベントなどで、購入可能です。
山に登るために遠くの土地へ出掛け、ふらりと入った酒屋で、自分が登った山の名前がついたお酒に出合ったら、なんともうれしいもの。家に帰り、山で撮った写真を見つつ、山行を振り返りながらそのお酒を飲む時間もまた、贅沢でしょう。
山の銘柄がついたお酒は、その土地の酒屋で出会うのが理想ですが、もっと手軽な方法もあります。それはインターネット注文での「お取り寄せ」。自宅にいながらにして、各地の地酒を買うことができます。過去に登った山、あるいは、まだ登れていない憧れの山の名がついた酒を取り寄せ、自宅で山に思いを馳せながら、または山仲間を集めて「利き酒登山」をするのも、この季節、オツかもしれません。