「山の文学」という言葉があるように、山登りは本との相性がいい趣味です。もちろんザックに文庫を忍ばせて登るのもいいですが、前後編に分けて日常から山の大自然へ誘ってくれる本を紹介します。家にいながら、著者の描く山の風情や空気を感じてみてください。
若き日の山
『若き日の山』(串田孫一 著、ヤマケイ文庫・山と溪谷社)
●電子書籍版あり
随筆集である『若き日の山』は、哲学者であり随筆家でもある串田孫一氏の最初の本です。山岳文学のクラシックであり、名著として有名なのです。文章は絵画的で、胸がキュンとなるような山への憧れ、親しみ、畏敬を思い起こさせてくれます。わざとどこの山か分からないように固有名詞を伏せて表現したエッセーでは、かつて自分が行った山とイメージを重ね合わせる楽しみがあります。想像力を膨らませて、山の澄んだ景色、そこに流れる風、香りを楽しんでください。
シェルパ斉藤の世界10大トレイル紀行
『シェルパ斉藤の世界10大トレイル紀行』(斉藤政喜 著、山と溪谷社)
シェルパ斉藤というペンネームで活躍する紀行作家・斉藤政喜氏が世界のロングトレイルを旅した紀行文です。軽快で読みやすい文章に、カラー写真が多く添えられていて、シェルパさんと一緒に旅をしているような気になります。ネパール、フランス・スイス、ニュージーランドなどの広い大地を歩いて、テントに横たわる。そして他の国から来たトレッカーたちとふれあい、一緒においしいものを食べる。世界を自分の足で旅するという、オトナの最高の遊びを教えてくれるでしょう。
垂直の記憶…
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『垂直の記憶』(山野井泰史 著、ヤマケイ文庫・山と溪谷社)
●電子書籍版あり[/caption]
標高3405mのフィッツ・ロイ冬季単独登攀(とうはん)、標高8201mのチョ・オユー南西壁単独登攀などを成功させた世界的クライマーの山野井泰史氏が自らの半生を著した本です。自分の持てる力をすべて使い尽くすようにして山に挑戦してきた著者が、真のアルピニストしか目にすることのできない究極の山の景色を見せてくれます。そこは死と隣り合わせの厳しい山。けれども、読み進めるにつれ、血が沸き立ち、自分でも押さえられない山の魅力に取り付かれてしまいます。
小屋番三六五日
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『小屋番三六五日』(山と溪谷社)[/caption]
2001年から5年にわたり、山岳雑誌『山と溪谷』に連載されたリレーエッセーがまとめられた本です。書き手はプロではなく、山小屋の主人や山小屋で働くスタッフ。そこで生活をするからこそ感じる山への思いや、山小屋を快適にするための工夫など、私たち登山者とは違う目線で見た山の日常、風景、出来事などがつづられています。船窪小屋・松澤寿子さんや越百小屋・伊藤憲市さんなど、心にジーンと響く話も多い。最後の第五十五話(尊仏山荘・花立昭雄さん)にはとっておきの笑い話が出てくるのでお楽しみに。
日本百霊山
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『日本百霊山』(とよだ 時 著、ヤマケイ新書・山と溪谷社)
●電子書籍版あり[/caption]
山の歴史や伝承をまとめ始めて45年。漫画家で画文ライターの著者・とよだ時氏が調べ上げた日本の霊山を百座紹介した本です。資料に当たるだけでなく、山頂の祠(ほこら)の前でかがみ込み、スケールで大きさを測ったり、山をスケッチしたり、地元の人や自治体に問い合わせたりするなど、生の取材力が随所に生きています。山名の由来からその地に語り継がれる伝説・神話まで、300ページ近いこの一冊に、ぎっしりと蘊蓄(うんちく)が詰まっています。本の中で日本各地の山を訪れる楽しさを味わうとともに、実際に山へ行くときには、この本の神話をぜひ思い出してみてください。山で目にする景色も変わってくるでしょう。
※「●電子書籍版あり」としているものはKindle版/Rakuten kobo版などを含みます