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公開日:2020.04.17
※当記事では、新型コロナウイルスへの対策として、不要不急の外出を控える、三密を避けるといった自粛の重要性は深く認識しております。こうした状況の終息後に、楽しい山登りを再開していただけるような情報提供を心がけてまいります。
日本の固有種で、国の特別天然記念物でもあるニホンライチョウ。分布は頸城山塊(くびきさんかい)、北アルプス、乗鞍岳、御嶽山、南アルプスと、日本の山の中でも高山のほんの一部に限られています。世界にライチョウの仲間は16種がいますが、その中でニホンライチョウは最南端に生息することから、特に貴重な種として保護されています。今回は「神の鳥」ともいわれるニホンライチョウ(以下ライチョウ)に注目してみましょう。
ライチョウは人に対して警戒心が薄いので、山で見かけることも多く、登山者にとって親しみのある鳥です。標高3000mほどに広がるハイマツ帯に生育し、小さなくちばしで草をついばむ姿を目にすれば、誰もがかわいいと思うでしょう。
おっとりとしていて、「飛ばない鳥」というイメージを持っている人も多いかもしれません。全長約35㎝と比較的大型で、丸っこく、重そうに見える体つきは、いかにも飛ぶことには不向きなように見えます。実際、登山道近くで出合ったとき、早足で逃げることはあるものの、ほかの鳥のようにパッと飛び立つことはあまりありません。ライチョウが大空を飛ぶ姿を見られるのはレアなのです。
でも、初夏のライチョウは特別な存在です。ライチョウは5~6月にかけてつがいをつくります。この時期は、オス同士で追いかけ回したり、突き合ったりと、激しい縄張り争いをします。エスカレートすると空中に飛び出し、縄張りに侵入したオスを長距離にわたって追い払います。残雪期の山では「グエー!」と叫びながら尾根から尾根へ、数キロもの距離を飛ぶこともあるんですよ。盛夏や秋にはあまり見られない、迫力ある姿です。
ところで、始めにも書いたように、ライチョウは人をあまり恐れません。そっと足を運べば、数メートルほどの距離にまで近づくことも可能です。野生の鳥にしては、珍しいことだと思いませんか?
なぜ、これほどに警戒心が薄いのか。理由の1つに挙げられるのが、日本人とライチョウの長い付き合いです。日本では古くから山岳信仰が盛んで、山の自然を大切にしてきました。霊山にいるライチョウは「会えば良いことが起こる」「福が来るなど」といわれ、「神の鳥」として大切にされてきたのです。
長い関わりの中で「人は自分たちを襲わない」と刷り込まれたのでしょう。北欧などにいるライチョウは狩猟の対象とされてきたからか、警戒心が強く、近くで見ることはとても難しいのだそうです。
山岳信仰が廃れた明治期には一時、日本でも狩られることもありましたが、その後に禁止され、大正12年に「天然記念物」、昭和30年には「特別天然記念物」に指定され、現在まで大切に保護されています。
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執筆=小林 千穂
山岳ライター・編集者。山好きの父の影響で、子どもの頃に山登りをはじめ、里山歩きから海外遠征まで幅広く登山を楽しむ。山小屋従業員、山岳写真家のアシスタントを経て、フリーのライター・編集者として活動。『山と溪谷』など登山専門誌に多数寄稿するほか、『女子の山登り入門』(学研パブリッシング)、『DVD登山ガイド穂高』(山と溪谷社)などの著書がある。現在は山梨で子育てに奮闘中。
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