[ブロッケン現象]まるで強いオーラが宿ったように、自分の影の周りを七色の虹が彩る。美しくもミステリアスな体験ができるのが、山の上で発生することで知られるブロッケン現象です。一度は見てみたいと願う登山者は多いですが、太陽と霧が同時に出ていること、そして地形などの条件も関係することから、狙って登っても、なかなか見ることはできません。今回は、そんな神秘的なブロッケン現象にスポットを当ててみましょう。
ブロッケン現象とは、霧のスクリーンに映った自分の影の周りに、虹のような光の輪ができること。自分の背後から差す太陽の光が霧の粒に当たって散乱することにより、七色に光って見えるのです。山の上を歩いているときに見つけられたら、とてもラッキーですね。大空に掛かる虹とはひと味違う、特別な体験になるでしょう。条件が良いときは、光の輪が2重に見えることもあります。
ところで、このブロッケン現象、常に自分を中心として光の輪が出現するということも、おもしろポイントの1つです。例えば、複数の人が並んだ場合、輪の中心は見ているそれぞれの人になります。つまり、ブロッケン現象を友人たちと一緒に見ても、人によって見えている光の輪は違うのです。
ブロッケン現象が見られる条件は、まず、自分に太陽の光が当たっていること。そして太陽に背を向けたときにできる自分の影と、自分との間に霧が漂っていること。このように書くと「それだけ?」と思われるかもしれませんが、この2つの条件が整うのは、なかなかまれです。
周囲全体が霧に包まれた状態では日差しが届かずに光の散乱が起きません。逆に完全に晴れているときには、照らされた自分の影はできるものの、光の散乱を起こす水の粒がないので光の輪は現れません。自分の背後は晴れていて、正面側にだけ霧が出ていなければならないのです。
この条件が整いやすいのが山の稜線(りょうせん)です。盛夏など気温が上がった日は、空気が暖められて上昇気流となります。そして、斜面に沿って昇ってきた水蒸気が冷やされて霧となります。その霧が稜線に届いたところで太陽の熱で温められて消えたり、反対側からの風に飛ばされたりすると、稜線の片側だけに霧ができることがあります。そのようなときがブロッケン現象を見られるチャンス。日が差して霧に自分の影が映ったときに、きれいな光の輪が見えるでしょう。
私の経験では天気が変化するとき(雨がやんで晴れ間が出るときや急激に雲が湧いてくるとき)、また晴れたり曇ったりとめまぐるしく天気が変わるときに発生しやすいようです。
[caption id="attachment_35049" align="aligncenter" width="400"] 稜線の右側だけに霧が出ている。この状態で霧に影が映る位置に立ち、左側から日が差すとブロッケン現象が発生する[/caption]
ちなみに、光の輪は霧の粒子が細かいほど大きくなり、粒子が大きくなる(雨に近くなる)ほど小さな輪になるそうです。また、ブロッケン現象は条件さえ整えば標高に関係なく、見ることができます。例えば、飛行機の影が雲に映ったときなどでも。福島県只見町では、平地に近い只見川でも見られ、夏はちょっとした人気スポット※になっています(只見町HP:https://www.town.tadami.lg.jp/tourism/natural/000819.html)。
※現在は、豪雨災害の影響などで一部区間に通行止めがあります。事前の情報収集は必ず行ってください
見れば極楽へ行ける?
ブロッケン現象という名称は、ドイツの山・ブロッケン山(1141m)でよく見られることから来ています。この山は、昔は魔女が集まる場所として恐れられ、この現象も「ブロッケンの妖怪」と呼ばれていたのだとか。標高のわりに気象条件が厳しいので、ブロッケン現象が発生しやすいのかもしれません。
一方、日本でもご来迎(らいごう)という名で古くから知られていました。ヨーロッパとは正反対に、とてもありがたい物として拝まれていたようです。それは影の周りにできる光の輪がまるで阿弥陀仏の後光のようだから。ブロッケン現象は、臨終のときに阿弥陀仏が菩薩を従えて人間世界に迎えに来る姿に見立てられ、それを現世で見ることができると、やがて極楽浄土へ行けるとも考えられていたようです。
今は原理が解明されている現象ですが、昔の人たちはこの光輪を見てさぞ驚いたことでしょう。あの世とこの世の境目ともいわれて人々の信心を集めた山もありますが、もしかしたら、そんな信仰もブロッケン現象が関係しているのかもしれませんね。
せっかく登った山で霧が出ているとスッキリとした景色が見られずにがっかりしがち。でも、そのようなときこそブロッケン現象が発生することも。霧の山を歩くときは幻想的な光の輪を探してみましょう。
★観光やお出掛けは情報収集のうえ、現地の状況に配慮しながら計画してください。
[caption id="attachment_35050" align="aligncenter" width="400"] 昔の人が阿弥陀如来のご来迎と信じたことも納得できるほど神々しい(北アルプス・唐松岳)[/caption]