運動量が減り、体重増加や体力の低下が気になっていませんか?リモートワークやデスクワークが多い人ほど、こうした悩みは多いようです。「ダイエットのメインは筋肉づくりです」と語るのは生理学者の谷本道哉先生です。今回は、食事と運動に焦点を当て、室内生活でできる筋肉づくりのコツを伺いました。
運動不足になると何が起こるのか
「筋肉はタンパク質の塊です。筋肉は細長いひも状の細胞が束になっており、筋肉の細胞は、タンパク質でできた繊維で埋め尽くされています。運動量の減少はこの細胞1本1本を細く萎縮させ、筋肉量を低下させます。そして、筋肉量が減ると基礎代謝の低下を招きます」と谷本先生。
人間の消費エネルギーの6割は基礎代謝といわれていて、その量は筋肉や臓器などの除脂肪量に比例しています。1日の活動で筋肉を動かす機会が減っていくと、エネルギーの消費量(運動)よりもエネルギーの摂取量(食事)が上回り、余剰エネルギーが皮下脂肪や内臓脂肪として蓄積されやすい状態になります。したがって、運動不足は太りやすくなってしまいます。
新型コロナウイルスによる健康二次被害防止啓発・公式サイト「健康二次被害防止コンソーシアム」では、外出自粛による運動不足や人との関わりの減少が進行させる思わぬ体や心の衰えを「健康二次被害」とし、免疫力の低下や肥満・生活習慣病の進行・悪化、ストレスによる心の病などを挙げています。
運動不足による筋肉量の低下は、太りやすさだけでなく、肥満・生活習慣病に発展するリスクを高め、免疫力の低下によるさまざまな健康被害を招きかねません。心理的なストレスが相まって心身の不調を招く可能性もありますから、アンチエイジングだけでなく仕事のパフォーマンスを左右する健康管理の面でも注意が必要でしょう。
「動かないで筋肉を使わないでいると、どんどん萎縮が進行してきます。分解を抑えて合成を進めるには、運動はもちろん有効ですが食事によるタンパク質の摂取が重要になってきます。」と谷本先生。その食事のポイントを詳しく教えていただきました。
筋肉量の低下を防ぐ食事法…
タンパク質が豊富な食材といえば肉や魚、大豆をイメージする方が多いでしょう。しかし“肉ばかり”に偏り過ぎると、脂肪分も過剰に摂取しやすく、肥満のリスクを高めるため注意が必要です。
動物性タンパク質は、肉や魚、卵、乳製品などに豊富に含まれ、体内で生成できない必須アミノ酸が豊富に含まれるものの、脂質も多いのが特徴です。一方、植物性タンパク質は豆類や野菜、穀類などから摂取でき、必須アミノ酸の摂取効率は動物性タンパク質に劣るものの、食物繊維やビタミン・ミネラルなどさまざまな栄養素を摂取できます。
最近の研究では、※動物性と植物性のタンパク質を1:1の割合で摂取すると、筋タンパク質の分解を抑制できることが報告されています。動物性タンパク質は筋タンパク質の合成を促進し、植物性タンパク質は筋タンパク質の分解を抑制することから、両者のバランスのよい摂取が重視されています。
※二川健ら「坐骨神経切除による筋萎縮に対する大豆たん白質とホエイたん白質の相加効果」
https://www.fujifoundation.or.jp/search/pdf/038/38_02.pdf
「動物性なら、脂身が多い肉は控えめにして鶏ムネ肉のような脂肪分が少ない良質なタンパク質を取りましょう。植物性は、豆腐製品がおすすめです。大豆はコレステロールを下げる働きもあるので、私は積極的に取っています」と谷本先生。コンビニなどで購入できるサラダチキンや豆腐バーを活用すると手軽に取り入れられます。
また、「タンパク質は1日の総量よりも“1食20g程度”をめざし、コンスタントに取るようにしましょう。特に朝はタンパク質が足りていない傾向にあり、手軽に食べられるタンパク質食品をそろえておくといいかもしれません。最近はタンパク質含有量を明記した食品のパッケージも多いので、摂取量を意識して食品を選ぶといいでしょう」と谷本先生は言います。
普段の生活環境でできる筋力強化法
家にこもって動かないでいると体が鈍ります。積極的に、かつ継続的に体を動かせる“ながら筋トレ”などで筋肉を刺激し強化しましょう。デスクに座ったままや、ちょっと立ち上がったついでにできる簡単なトレーニングを谷本先生に紹介いただきました。
<休憩時に腹筋群を強化するレッグレイズ>
(1)ソファなどに座り、手をついてバランスを取って足を浮かせる
(2)足を伸ばした状態で、できるだけ大きく上下させる
※途中で床に足を下ろさず、10回程度、無理なくできる範囲で繰り返す
<デスクワークの合間にニーリフト>
(1)デスクに手をおいて姿勢を安定させる
(2)無理のない範囲で膝を上下に動かす
※足を下げる際は床に着く手前で止めるようにし、10~20回程度無理なくできる範囲で繰り返す
<立ったついでにハーフスクワット>
(1)上体を傾斜させながら浅くしゃがんで立ち上がる
※10~20往復程度、無理のない範囲で繰り返す
※片足に体重を乗せて行うと、さらに負荷が高められる
<壁に手をついてカーフレイズ>
(1)壁や机などに手をついてバランスを取り、かかとの上げ下げを繰り返す
※10~20往復程度、無理なくできる範囲で繰り返す
「明日からやる、の“明日”はいつまでたってもやってきません。今日から実践していきましょう!」と谷本先生。食事による栄養摂取や運動による筋力強化は、一時的な改善でなく習慣化が重要です。今すぐ取り入れられるアクションから実践し、ボディーラインや体調を整えましょう。