「マイナンバー制度のスタートで、煩雑になりがちな人事・給与業務の負担を減らしたい」「企業のグローバル化やダイバーシティ推進による多様な人材の活用に向けて企画戦略業務を強化したい」――。こんな課題を抱える経営者や管理職は少なくないだろう。国内外の景気が変動し、ビジネス環境が大きく変化する中、より一層の経営効率化や戦略的な事業展開に向けて組織をいかに強化するかが急務になっている。
そのカギを握るのがBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の活用だ。BPOとは自社の業務プロセスの一定部分を外部の専門事業者に委託(アウトソーシング)すること。人事・給与業務などの共通系業務に関わる定型業務を外部委託して自社の人材を戦略策定などのコア業務に充て、企業競争力の強化などにつなげるものだ。
ビジネス環境のみならず、社会環境の変化も企業にBPOの積極的な活用を迫る。仕事と子育て・介護などを両立するワーク・ライフ・バランスや、海外を含めさまざまな人材を活用するダイバーシティの進展といった働き方の多様化を受け、企業の人事・給与業務が複雑になっているからだ。
社員の給与・退職金の計算や支給にとどまらず、パートの勤務管理や社会保険など業務は煩雑化している。法制度の改正などに精通した外部のアウトソーシング事業者(アウトソーサー)に業務委託することで、多様な雇用形態にも対応しやすくなるだろう。
定型業務のコストを固定費から変動費に変える…
景気動向が見通しにくい状況にあって、業績が好調なときに企業の体質を改善したいという経営者もいるだろう。経済産業省のBPO研究会報告書(概要版2008年6月)によれば、BPOに期待する効果として最も多いのはコスト削減だ。以下、経営資源のコア業務への集中、組織のスリム化、専門的知識・スキルの活用の順となっている。
企業は業績の変動に合わせてコストを柔軟にコントロールしたいというニーズがある。BPOを利用すれば、定型業務に関わる人件費の一部やシステム費用を固定費から変動費に変えることができ、コントロールしやすくなる。
例えば人事・給与業務の場合、事務作業を行う管理部門の担当者のほか、人事・給与システムのデータ入力や、システムの運用・保守を行うIT担当者や部門が必要になる。人事・給与業務とシステムを含めてアウトソーシングすれば、従業員が増減した場合にも、事務担当者を増減せずに委託費の変額で対応できる。つまり、事業環境の変化に合わせた経営が容易になる。また、IT部門は人事・給与システムの更改や保守から解放され、事業戦略に直結する業務システムなどの企画・構築に専念できる。
マニュアルを整備し、定型業務を標準化
コスト面に加え、BPOにより定型業務の標準化も可能だ。人事・給与や総務、経理などにおける定型業務は特にマニュアルもなくブラックボックス化し、ベテラン社員に任せきりという企業も見受けられる。業務に熟知したベテラン社員を異動できず、病気などで長期間の休職を余儀なくされた場合、業務が停滞するリスクもある。そこで、定型業務のアウトソーシングを契機に業務処理の流れを見直し、マニュアルを整備するなど業務の標準化を進める方法もある。
BPOは、人事・給与、総務、経理、福利・厚生などに関わる定型業務をはじめ、ITのヘルプデスク、コールセンター、販売支援などさまざまな分野で実施可能だ。そして、アウトソーシング専業の事業者や人材派遣会社、グループ企業の定型業務を受託するシェアードサービスで培ったノウハウを生かす事業者などさまざまなタイプがある。
BPOと一口にいっても、事業者ごとに得意分野や提供するサービスが異なることもある。自社の業務や要件に合ったアウトソーサーを選ぶことがBPOを成功させる第一歩になるだろう。