公衆Wi-Fiにはいくつかの種類がある。まず、通信事業者が提供するもの。たいていは、各事業者と契約していなければ利用できない。次に、ホテルや店舗などの施設の所有者や運営者がそれぞれ独自に提供するもの。その施設を訪れた際に利用できるが、施設ごとに利用方法が異なりその施設内のみでの使用となるため、その都度、ログインし直す必要がある。そして、3つめは自治体などが主導して整備し、無料で利用できるWi-Fiだ。
公衆Wi-Fiのサービスをタダで提供するのが、無料Wi-Fiである。店舗や飲食店であれば、集客や顧客満足度向上につながり、もっと発展させれば顧客管理への活用もできる。自治体が主導で導入するものであれば地域の住民サービスの充実や旅行者の満足度向上、情報提供の手段として位置づけられる。
最近急増している訪日外国人はインターネットを通じて観光情報を入手する。そのために無料Wi-Fiの普及は、訪日客の満足度を上げる重要なポイントになっている。訪日外国人が利用する場合、通信事業者が提供するサービスは別途手続きが必要で、ホテルや店舗による個別サービスは、いちいち認証やログインを行わなければならない。
現状では、自治体が地域Wi-Fiの整備に取り組む大きな目的は、訪日外国人(インバウンド)増加対策だ。訪日外国人に対して、無料Wi-Fiの整備をアピールして、便利に使ってもらう。それによって、訪日外国人の満足度を上げてリピーターを増やしていくのが狙いだ。
そのためには、空港から始まって、駅・宿泊施設・バスや観光拠点といった旅行者の動線に沿ってWi-Fiのサービスエリアを整備する。もちろんPRも忘れてはならない。地域Wi-Fiにご当地をイメージさせる名前を付けて、目立った印象的なロゴマークなどとともに掲示するといった試みも必要になる。
単なる通信インフラとしてだけでなく、地図情報の提供・地元店舗の利用クーポン・避難場所の指示といった災害時の通知など、旅行者向けの独自のコンテンツも用意しておきたい。スマートフォンのゲームと連動した観光案内を導入する自治体も出てきている。利用方法の解説も含めてコンテンツの多言語対応は必須だ。
民間の店舗や宿泊施設による地域Wi-Fiへの参加については、自治体が費用を全額負担したり補助したりするケースも目立つ。しかし、自治体の財政が厳しい中では予算には限りがある。それよりも、少しでも早くWi-Fi導入の効果を拡大して、参加者が費用を自己負担してでもメリットがあるという認識を定着させるべきだろう。
公衆Wi-Fiをカスタマイズして地域Wi-Fiを構築
地域Wi-Fiのニーズが広がる中で、複数の事業者が自治体による導入をバックアップしている。その中でも積極的な取り組みとして目立つのがNTT西日本のグループ会社であるNTTメディアサプライだ。手掛ける地域Wi-Fiのベースになっているのは、同社が提供するWi-Fiサービス「DoSPOT」である。DoSPOTは店舗や施設向けに提供され、オーナーが小型の無線アクセスポイントを設置するだけで、来訪者にWi-Fiを無料で提供できる仕組みだ。独自のホームページを作ってお店の情報を提示したり、クーポンを発行したりすることもできる。
DoSPOTは多言語に対応しているので、訪日外国人旅行者であっても問題なく利用できる。Wi-Fi対応の端末を持っていれば誰でも無料でアクセス可能だが、接続時間や接続回数に制限があり、1回当たり最大15分・1日4回までが基本となる。導入に当たってはNTT西日本が提供するフレッツ光などの光アクセスサービスが必要だ。
NTTメディアサプライでは、DoSPOTを自治体向けにカスタマイズして地域Wi-Fiを構築している。地域として独自のネットワーク名を設定し、加盟する店舗や施設にアクセスポイントを設置して、共通の操作手順で利用できるようにする。もちろん接続時間や接続回数の制限は変更が可能だ。
DoSPOTはNTTグループのNTTブロードバンドプラットフォームが全国で展開する「Japan Connected-free Wi-Fi」にも対応している。日本国内でさまざまな観光地を移動しながら楽しむ訪日外国人には喜ばれるだろう。
各地に広がる地域Wi-Fi
2016年5月に伊勢志摩サミットが開催され、その後も大きなイベントを控える三重県では、2012年から実証実験として県内70数カ所の観光施設にアクセスポイントを設置し「FreeWiFi-MIE」を提供してきた。2015年3月にその拡大をめざして、これまでの公的支援制度と合わせて、民設民営方式での普及を進める取り組みを開始した。2016年1月には1000アクセスポイントを突破。今後も、認定した事業者と連携して、商業施設などへアクセスポイントを広げていく予定だ。
愛知県岡崎市では「徳川家康公顕彰四百年記念事業」などをきっかけに、2015年7月に「岡崎フリーWi-Fi」の提供を開始した。観光客の増加を後押しするため、観光客の利便性を向上させるのが目的だ。当初は岡崎城のある岡崎公園内への6カ所のアクセスポイント設置からスタート。その後、民間の店舗などへと設置が拡大し、2016年4月現在では、150アクセスポイントに達している。
「静岡をWi-Fi天国に」というキャッチフレーズで、官民連携による地域Wi-Fi「Shizuoka Wi-Fi Paradise」を展開しているのが静岡市である。運営に当たるのは、静岡市や静岡商工会議所など5団体によってつくられた「静岡市公衆無線LAN事業協議会」。2013年9月から事業を開始し、2016年2月現在、アクセスポイントは300カ所を超え、現在も拡大中だ。
自治体単独で始めて民間との連携を新たに加えた三重県。小規模で始めて順次拡大をめざす岡崎市。経済団体など地元の関連団体と協議会をつくって取り組む静岡市。それぞれが異なるアプローチで地域Wi-Fiの導入を進めている。自治体や地域それぞれが多様な事情を抱えている中で、最適な方法を模索している状況が思い浮かぶ。
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