政府は国家戦略として訪日観光客の増加をめざしている。政府の戦略と円安が追い風となり、外国人観光客は急増し、2013年に初めて1000万人を超えた。その勢いは衰えず、2014年には1340万人に達した。東京五輪開催の2020年までに2000万人にするという目標が、前倒しで達成されそうな勢いだ。
外国人観光客の多くはスマートフォンを手に日本にやってくる。そのスマートフォンを使う際、日本でプリペイド型通信サービスのSIM(契約情報を記録したICチップ)を購入して、LTEや3Gといった通信サービスを利用するケースはまれだ。多くは、スマートフォンが標準的に備えているWi-Fiを使ってインターネットに接続する。
しかし日本の場合、現時点では無料で使える公衆無線LAN(フリーWi-Fi)が提供されているエリアは決して多くない。自治体や交通機関、空港などが提供するWi-Fiサービスもあるが、それぞれ個別のアクセスポイントの識別名やパスワードといったアクセス情報が必要で、観光客は移動するたびに新しい情報を仕入れて登録・設定する手間を要求される。
これでは、増え続ける外国人観光客は不便を感じてしまう。情報インフラへのアクセスでマイナスの評価をもらってしまえば外国人観光客に“おもてなし”の心が届きにくくなる。一刻も早くフリーWi-Fiの提供エリアを増やさなければならない。
フリーWi-Fiを増やす意義は、外国人観光客へのサービス向上だけではない。通常、国内居住者がスマートフォンを利用する場合、LTEや3Gなどの通信サービスを使う。そのためフリーWi-Fiを国内居住者向けに用意する意味はあまりないと考えがちだが、実は大きな可能性を秘めている。エリアに特化した付加価値情報を提供するインフラとしての活用法だ。
フリーWi-Fiの構築の基本形は「B to B to C」…
フリーWi-Fiは、インターネットへの接続環境の提供以外に、ターゲットとする利用者に的確な情報を届ける手段にもなる。フリーWi-Fiに接続した人のスマートフォンに、専用のサイトを表示させる仕組みを提供すれば、接続した地域の情報を届けるサービスが可能になる。
空港に到着した外国人観光客が、すぐにフリーWi-Fiに接続できる環境を用意すれば、日本に関する最新情報の“入り口”にもなる。空港から都市や観光地までのアクセス情報、地域の見どころや最新イベントの紹介、クーポンなどの店舗への来客を誘致する仕組みを提供すれば、旅行の利便性は確実に向上する。もちろん迎える側のビジネスチャンスにもなる。
こうした情報提供手法は、外国人観光客以外にも有効だ。各エリアでフリーWi-Fiを使った情報提供を行うことで観光地だけでなく、繁華街、商店街、ショッピングセンターなどへの顧客誘引も可能だ。さらに、団地やマンションといった住居エリアでも、フリーWi-Fiを用意することで、地域にあるスーパーのバーゲン情報など生活情報を提供するサービスの基盤にできる。
自治体や商店街、ショッピングセンターなどにとって、フリーWi-Fiは災害時のライフライン確保のためのインフラとしての役割も期待できる。大規模災害時には、携帯電話の通話やメールは利用の集中によりつながりにくくなるケースが多い。
東日本大震災でも有用だったのはツイッターなどのSNSによる情報共有だっただけに、インターネットへの接続手段は1つでも多いほうが安心だ。エリアにフリーWi-Fiのインフラを用意しておくことは、観光客、来店客、住民に万が一の際のライフラインを提供する準備としても有効だ。
こうした各種の活用方法が考えられるフリーWi-Fiだが、誰が整備し、運用していけば良いのか。外国人観光客への利便性や情報の提供、国内観光客や住民へのサービスの提供という目的なら、国や地方自治体、観光関連やショッピングセンターなどに関与する民間企業、団地や大型マンションの管理者などが考えられる。
フリーWi-Fiの整備は、通信事業者などが提供するWi-Fiサービスを活用したほうが現実的だ。いわゆる「B to B to C」のモデルで、左の「B」が通信事業者など、中央の「B」が自治体や企業、そして右の「C」が外国人・国内観光客、住民などのエンドユーザーとなる。
フリーWi-Fiの導入に必要なノウハウの提供や実作業は、Wi-Fiサービスを提供する通信事業者などに委託する。一方、自治体や民間企業などは、フリーWi-Fiを導入する目的を明確にして、その達成のためのソフトの充実に力を注ぐといった具合に、役割分担したほうが効率的だろう。