アベノミクスと呼ばれる一連の経済政策。その中で、確実に成果を上げているのが観光立国への取り組みだ。2012年の第2次安倍内閣の発足以来、訪日外国人の旅行者は毎年増加している。2015年の訪日外国旅行者数は過去最多の約1974万人となり、大阪万博が開催された1970年以来、実に45年ぶりに日本人の出国者数の約1621万人を上回った。
この流れを加速させるため、政府は2016年3月30日、訪日外国人数を2020年に現在の2倍の4000万人、2030年には3倍の6000万人に増やす新たな目標を決めた。2015年時点で、従来の「2020年に2000万人」という目標をほぼ達成してしまったことから、目標を大幅に引き上げたのだ。
観光庁が実施した調査によれば、2014年における訪日外国人の来訪目的は、7割以上を「観光・レジャー」が占める。2人に1人が東京・大阪といった大都市圏以外の地方を訪問し、地方のみを訪れる外国人は3割近くになっている。観光客が訪れたのは、北海道・九州・沖縄県が多い。特に、韓国からの観光客は九州に集中する傾向が強く、オーストラリアからの観光客はスキーやスノーボードを楽しむ人が多いので、訪問先は北海道と長野県に集中している。
日本経済を底上げするインバウンドがもたらす富…
こうした訪日外国人が日本国内にもたらすインバウンドによる“富”は膨大なものだ。2015年の訪日外国人消費額は速報値で3兆4771億円にも上る。前年に比べて71.5%も増加し、年間で初めて3兆円を突破した。前述の新しい政府目標では、2020年に8兆円をめざしている。もし達成した場合には、自動車の輸出に次いで外貨を稼ぐことになる。
2015年の消費額の上位を占めるのは、中国・台湾・韓国・香港・米国からの旅行客。その上位5カ国で全体の7割以上を占めている。1人当たりの旅行支出は前年比16.5%増の17万6168円で、買い物・宿泊・飲食・交通がほとんどだ。内訳としては買い物代が最も多く、年々拡大している。地域別に見ると中国の買い物代は1人当たり16万1974円と突出しているのが特徴的だ。
こうしたインバウンド消費をいかに多く取り込むかが、国内の事業者、ひいては地方自治体の課題になっている。今年1月と2月の宿泊者数の統計調査でも、日本人の延べ宿泊者数が減少しているにもかかわらず、外国人の宿泊者数は4割増、3割増の勢いで増加している。少子高齢化、人口減少に悩む多くの地方自治体にとって、雇用対策や地域振興の面からも訪日外国人の誘致の意義は大きくなるばかりだ。
外国人旅行者を呼び込むために必要となる受け入れ態勢とは
訪日外国人誘致のハードルはいくつもある。まずは情報発信。日頃からインターネットを通じて海外への情報発信を行い、地域の魅力をアピールすること。最近は団体旅行ではなく、航空券や宿泊を個別に手配する旅行者が増えている。そのための情報を個人のブログ、旅行会社や宿泊施設のホームページなど、インターネットを通じて情報を事前に得ているケースも多い。
魅力的な情報を提供するためには、訪日外国人旅行者に売り込めるコンテンツを磨き上げる必要もある。自然や伝統文化を生かした地域の観光資源の掘り起こしや宿泊施設の拡充、空港から観光地までの移動手段の充実、案内の看板・標識やホームページ、ガイドの外国語対応など、整備すべきポイントは多い。
宿泊施設の充実も必要だ。東京・大阪・京都・福岡といった大都市のホテル不足は深刻で、今後、訪日客増の妨げとなる懸念がある。例えば福岡のホテル稼働率は2011年には70%程度だったが、最近は80%を超えている。こうした宿泊施設問題については政府も民泊の推進などの対策を打ち出しているが、効果は未知数だ。バブル期に建設されたリゾート施設などの活用に悩む自治体にとっては起死回生のチャンスかもしれない。
訪日してからの課題は顧客満足度アップ。そのための手段の1つとして今注目されているのが無料で使えるWi-Fi環境だ。観光庁の訪日外国人旅行者に対するアンケートで「旅行中に困ったこと」の第1位は、無料Wi-Fi環境なのである。無料Wi-Fiを整備することは、こうしたニーズに応えるだけでなく、使い方次第で集客や売り上げにもつなげることができる。今後、訪日客を増やすには、1回の旅行ではなくリピーターになってもらう必要がある。リピーターなってもらうためには訪日後の“おもてなし”がポイント。そのためには無料Wi-Fiの整備などの取り組みが欠かせない。