物事がすべて順風満帆に進むことはほとんどありません。多かれ少なかれさまざまな問題を抱え、それを克服し、その過程で人は成長していきます。問題解決のために必要なこと、それは「問題の本質を見極める」ことです。問題の本質を見失うと、解決の糸口が見いだせず、袋小路に迷い込んでしまうことがあります。ゴルフにもビジネスにも通ずる、今回は、そんなお話です。
私は本業であるゴルフ指導の際、お客さまのカウンセリングから入ります。現在のゴルフのお悩みを尋ねると、「飛ばない」「うまく当たらない」「曲がる」などの自覚症状を訴えてきます。「どうしてもヘッドアップが直せない」と具体的なスイングの欠点を挙げるお客さまもいらっしゃいます。
ヘッドアップとは、スイング中に頭の位置が上がってしまうことでスイング軌道が狂い、クラブが正確にボールに当たらなくなる現象です。ヘッドアップは、良くないスイングの代表格のようにいわれますが、そもそもなぜ、頭の位置が上がってしまうのでしょうか。この問題の本質を探るために、まずはヘッドアップが起こる原因を考えてみましょう。
コアとは重心のことです。東洋医学などでは丹田(たんでん)といいます。場所は「ヘソ下三寸」、つまりおへそから下三寸(約9cm)辺りです。コアが不安定になると軸の前傾が保てず、スイング軌道が狂い、ボールに当たらなくなる。その様子が、はたから見ると頭が上がっているのが原因に見え、「ヘッドアップは良くない」といわれる理由なのです。
ここで問題の本質究明を止めずに「コアのポジションが不安定になるのはなぜなのか?」と、さらにヘッドアップの原因を突き詰めます。コアが不安定になるのは、大振りや力みなどにより、コアの安定が図れる限界を超えたスイングを行いバランスを失うからです。そして、その原因は人によって異なります。
コアは、体幹を構成するコアマッスルと呼ばれる筋群(主に腹筋)や、太ももの内側の筋肉(内転筋)などで支え、安定させています。腹筋や内転筋など、必要な筋肉の筋力が欠如していたら……。当然コアが不安定になり、軸を支えられずヘッドアップが起こります。
ゴルフスイングは、体を捻転させて行います。体の捻転には肩甲骨周辺の筋肉(主に僧帽筋)や、腹斜筋など筋肉の柔軟性が求められます。柔軟性が十分ではない状態で、無理に体をねじろうとすると、やはり軸のブレが生じ、これもヘッドアップにつながります。
ここに至り、ヘッドアップという問題の本質は、「バランスが保てるスイング範囲を把握できていない」「必要な筋肉の筋力や柔軟性が欠如している」といった複数の要素の中から、自分に当てはまるものは何かを考える必要にお気づきになるでしょう。
ヘッドアップの原因はこうしたフィジカルに起因するものだけではありません。メンタルに起因するものもあります。例えば、打った打球の行方が気になり、インパクトへの集中が散漫になった状態も、ヘッドアップを引き起こす可能性があります。
このように、ヘッドアップの原因は人によって違います。それをないがしろにし、単に「頭を上げまい」と躍起になっても、何の解決にもならないのです。
ヘッドアップを直そうと、練習場で一緒に来たパートナーに頭を押さえてもらい練習するシーンを見かけます。しかし、これはとても危険な練習法です。コアや軸が不安定な人が、無理やり頭だけを押さえつけられた状態でスイングすると、頚椎を痛めてしまう危険があります。体を痛めてしまってはゴルフどころではありません。原因を見極めずに、誤った練習をしないように十分気を付けていただきたいと思います。
本質を見極めない解決策は、別の問題を生む
さて、ヘッドアップの話が長くなりましたが、問題の本質を見極めず、ただやみくもに改善策を講じて右往左往しているケースは、ビジネスシーンでも往々にして見られます。
営業成績が目標を達成できていない状態が続いている場合、根本原因を突きとめようとせず、営業担当者にただただ「ガンバレ」と発破をかけているようなケース。これでは営業担当者を、袋小路に追い込むようなものです。ヘッドアップを直そうと無理やり頭を押さえつけられ、頚椎を痛めてしまうゴルファーのように、この営業マンもストレスで体や心を壊してしまいかねません。
営業成績が振るわない根本原因。営業担当者のセールストークに問題があるのかもしれません。パンフレットやチラシといった営業ツールに訴求力が足りないなどの問題があるのかもしれません。営業で回る地域や時間帯が商材に合致していない可能性もあります。あるいは、ライバル企業の動向や市場の変化の影響かも……。
問題の本質は何なのか。できるだけ要因を深く探っていきましょう。ヘッドアップの問題と同じくなぜ? なぜ? を5回ぐらい繰り返して深掘りしていくと問題の本質が見えてきます。
連載第6回で、「管理職は部下のサポーターたれ」とお伝えしました。問題の本質を見極めず、ただ根性論で部下を叱咤するのではなく、問題の根本原因を部下と一緒に掘り下げサポートすることが、実は問題解決への近道だと心にとどめておきましょう。