スポーツ界の不祥事が相次いでいます。横綱の暴行事件や女子レスリングのパワハラ問題、バドミントン選手の所属先移籍をめぐる問題、アメフト部の危険タックル問題……。そしてついに、ゴルフでもニュースをにぎわせる事態が起きてしまいました。
男子プロゴルファーの片山晋呉選手がプロアマ戦で不適切な態度をしたとして、2018年6月27日に日本ゴルフツアー機構(JGTO)が記者会見を開き、片山選手への制裁と再発防止策を発表しました。調査報告書は、片山選手だけに責任のすべてがあるのではなく、機構自身にも責任の一端があると指摘しています。再発防止策では、プロアマ戦におけるガイドラインの策定、プロに対する研修・指導の徹底、懲罰・制裁規定の明確化および厳罰化を明言しています。
果たして、それで問題は解決できるのでしょうか。今回は、何のためのプロアマ戦なのかを改めて考えてみましょう。問題の根っこを捉えてみると、他のスポーツにも、またビジネスにも通じる話が見えてきます。
そもそも、プロアマ戦は何のためにある?
近年、男子プロゴルフの試合数は減少の一途をたどっています。男子プロゴルフの人気が高かったのは1970~1980年代。青木功さん、尾崎将司さん、中嶋常幸さんという、いわゆるAONが全盛の時代でした。試合数は、ピーク時の1982年には年間46を数え、真冬以外はほぼ毎週テレビでトーナメント中継が見られました。その後1990年代に入り、バブルの崩壊以降はスポンサー離れが進み、試合数は減り続けました。2018年の試合数は、前年からさらに1つ減って25試合になります。最盛期の半分近くになっています。
そこで、男子トーナメントを主催する日本ゴルフツアー機構は、スポンサーを大切にしようという観点から、プロアマ戦に力を入れ、出場選手にホストとしてゲストをもてなすことを課しています。つまり、プロアマ戦とは、スポンサー企業を接待する場といっていいでしょう。スポンサー企業は自社の関係者やクライアントを招き、プロとのラウンドを通じて「もてなす」ことを目的に、プロアマ戦に参加しています。
形式としては、大会に出場するプロの中から、著名なプロ、人気のあるプロが30~40人選ばれ、プロ1人とゲストのアマチュア3人が1組となってラウンドします。コンペ形式で順位を競うケースもありますが、ほとんどがプロとの会話を楽しんだり、時にはレッスンを受けたりと、アマチュアゴルファーからすれば、またとない時間が過ごせるわけです。
プロの立場からすると、自分たちが活躍できる場であるトーナメントは、お金を出してくれるスポンサーがいなければ成り立ちません。当然スポンサーには感謝すべきで、プロアマ戦はその感謝の意を表す大切な場として存在しています。そして今、このプロアマ戦の存在自体が、片山選手の問題行動をきっかけに疑問視されているのです。
ゴルフをする環境への“感謝”の度合い
プロアマ戦は、プロが大切なスポンサーに対して感謝の気持ちを表す場です。ところが、この感謝の気持ちがどれだけ選手に根付いているかは疑問です。米国のゴルフ事情に詳しい知人に聞くと、米国のプロゴルファーは、経済的に恵まれない環境で育った者が少なくないそうです。地元の企業やボランティア、ゴルフ関連団体、ゴルフ用品メーカーなどの支援を受けて競技を続け、やっとの思いでプロになれたという境遇の持ち主であることは想像に難くありません。当然、支援に対する感謝の気持ちが自然と芽生えていることでしょう。
一方、日本では、現役プロ選手のほとんどが経済的に恵まれていて、ゴルフができる環境をすでに手に入れていた人たちです。その環境を支える人たちの献身などを想像できるプロゴルファーは国内にどれほどいるのでしょうか。米国のプロと異なり感謝の度合いが違って当然なのではないでしょうか。
このことは、基本的には国内選手への教育の不足が大きいと思いますが、私はその根底に、日本のゴルフが“社交の場”として広まったこと、日本ではゴルフにお金がかかり手軽に参加できるわけではないことなどがあると考えています。故に、ゴルフを手軽に参加できるスポーツとして広めていこうという努力が、現役プロや我々を含むゴルフ環境を整える側に必要なのだと思います。
米国におけるプロアマ戦のあり方…
日本のプロアマ戦は、参加したプロゴルファーに5~7万円程度の日当が支払われます。コンペ形式で順位を競うプロアマ戦もありますが、およそ順位に関係なく、日当は一律です。この5~7万円という金額、予選通過もままならないプロにとっては、わずかでも支給されるギャラはありがたいでしょう。
しかし、プロアマ戦に呼ばれるのは著名なプロゴルファー、人気のあるプロたちです。常に予選を通過し、優勝争いをするようなトッププロにとっては、手間賃くらいにしか感じていないかもしれません。
一方、米国では、参加するアマチュアが参加費を支払います。1人当たりの参加費はトーナメントの規模や人気度によって異なり、2000~1万ドルぐらい。日本円に換算すると、20~100万円とかなり高額です。大会によってはプロアマ戦の収益は1億円にもなります。つまり「高いお金を払ってでも有名なプロとラウンドしたい」というニーズに応えたものですが、肝心なのがこの収益。試合に参加するプロへは、遠征費などの経費が賄えるだけの最低限のフィーは支払われますが、そのほとんどがチャリティーや地元のジュニア育成団体に寄付される仕組みとなっているそうです。
つまり、日本と米国ではプロアマ戦におけるお金の流れがまったく異なり、プロアマ戦は社会貢献の一環となっているわけです。当然プロは、そのようなお金の使い道を知っているので、損得勘定抜きにプロアマ戦には喜んで協力します。なぜなら、プロの多くは、そのような団体からの支援を受けて育ってきたからです。
主催側にも改善する余地がある
出場するプロの「動機付け」にも問題はあります。男子プロゴルフトーナメントを主催しているJGTOは、トーナメント出場選手に対し、プロアマ戦を欠場すると本戦に出場できないというルールを課しています。つまりプロは、本番の試合に出るために「仕方なく」プロアマ戦に出場させられている、と感じている可能性が否定できません。
しかもトーナメント本戦は木曜日から日曜日の4日間、プロアマ戦はほぼ、本戦前日の水曜日に予定されます。これから4日間戦う試合に備えて、最終調整をしたり、体のコンディションを整えたり、気持ちをリラックスさせたりしたい選手は多いでしょう。そこへ、半ば強制的に出場させられて、果たして心の底からゲストをもてなそうという気持ちになれるかどうか、はなはだ疑問です。
あるゴルフジャーナリストは「プロアマ戦は不要」とまで言い切っています。スポンサーに感謝するのは当然だが、「アスリート(プロゴルファー)ファースト」の観点から、スポンサーに過剰なサービスをするよりは、ファンに最高のプレーを見せられるよう努めるべきだと。
またある専門家は、プロアマ戦をトーナメント終了後の月曜日に行う案も提案しています。本戦前の水曜日に行うのはコースコンディションの観点から好ましくないという理由と、アスリートが本番前日にアマチュアとワイワイやるのはいかがなものか、という2つの理由からです。この場合、マンデートーナメント(月曜日に行われるシード権を持たない選手の予選会)のスケジュールを見直さなければなりませんが、私は良いアイデアだと思います。フィギュアスケートの大会でもエキシビションは大会後に行われますから。
「自ら進んで動く」仕組みづくりに期待
プロアマ戦に出場できるのは選ばれし選手です。故に、プロアマ戦に出場できるのは本来「名誉なこと」のはずです。選手の自尊心をくすぐり、選手自ら進んでファンやスポンサーを楽しませ、プロアマ戦を通じて社会貢献できると感じさせることができれば、選手も喜んでプロアマ戦に協力するでしょう。小遣い程度のお金やルールで縛るのではなく、そんな“仕組み”が必要なのではないでしょうか?米国のプロアマ戦の仕組みを、日本がそのまままねてよいかは分かりませんが、国内の男子プロゴルフ界がこのままでいいとは思いません。
女子プロゴルフトーナメントを主催するのは、日本女子プロゴルフ協会(LPGA)です。LPGAでは、2000年ごろから選手の人間性を高める教育に取り組んできました。ファンやスポンサーを第一に考えて行動するというもので、その地道な取り組みが功を奏し、今、女子ゴルフは人気を博しています。今年の女子ツアーの試合数は年間38。男子ツアーの1.5倍となっています。
男子ツアーもそれを見習うべきですが、私はそれだけでは不十分だと思っています。選手の人間性を高める教育は大事です。これはトーナメントプロもティーチングプロ(インストラクター)も同じです。しかし選手個々の理解力や価値観は、人それぞれで個人差があります。故に、個々の判断に委ねるのではなく、プロスポーツとしての「仕組み」づくりが必要でしょう。それには当事者だけでなく、周囲に影響している関係者も巻き込んでいかなければなりません。
個々の意識や人間性を高める教育に力を入れつつ、自ら進んで取り組める「仕組み」をつくり上げていく。この2つがそろって初めて、物事はうまく回り始めます。
これはゴルフのプロアマ戦に限らず、ビジネスにおいても通じる話です。例えば、営業成績を上げるため、営業担当者個々のスキルを高める取り組みをしつつ、自社の売りや強みを効果的に訴求できる営業ツールをつくり、それを活用する仕組みにする。ガンバレ!ガンバレ!と、ただ根性論でハッパをかけるのではなく、個々の仕事ぶりを正当に評価する人事評価制度をつくり、働きに応じて給与が上がる仕組みにする、などです。
私は、「成果=個々の能力×仕組み」だと思っています。「個々の能力」と「仕組み」、どちらが欠けても成果はゼロです。ご自身の組織の成績が今イチ伸びないとお悩みの方は、単に社員個々の資質の問題と片付けるのではなく、成果が出せる仕組みができているかを再確認してみてはいかがでしょうか。