「いくら練習しても思うようにボールの飛距離が伸びない」という人はいませんか。その原因はもしかすると、姿勢の崩れにあるかもしれません。姿勢の崩れはフォームの崩れといってもいいでしょう。中でも、猫背の人は、握ったクラブを自分が思っているよりもスムーズに振れず、ボールに力を伝えきれないことが多いようです。
今回は、崩れた姿勢がどうスイングに悪影響を及ぼしているかを踏まえて、前回・前々回でお伝えした、肩の高さの左右差や骨盤のゆがみを解消する運動を紹介します。ゴルフにおける姿勢の崩れを解消し、理想的な姿勢を獲得することは、普段の生活の姿勢改善やメタボ対策としても有効です。ぜひ実行してみてください。
理想的な姿勢とは、人の体を直立した状態で横から見たとき、耳、肩、腰、膝、踝(くるぶし)が同一線上に並んだ状態です。姿勢が崩れた状態は、特定の筋肉が短く収縮している、あるいは、逆に特定の筋肉が伸びて弛緩(しかん)していることで、骨格が本来あるべきポジションにない状態ともいえます。
肩甲骨の一番出っ張ったところを「肩峰(けんぽう)」といいます。理想的な姿勢を保っていれば、横から見たときに耳は肩峰の真上に位置していますが、すごく猫背の人は、耳が肩峰の位置からさらに前寄りになります。姿勢を見てくれる人がいれば、立った姿を横から見てくれるようにお願いしてみましょう。耳が肩峰より少し前にあるようなら猫背気味ということです。
猫背の人は、肩甲骨の上側の筋肉が収縮して硬くなり、肩甲骨下部の筋肉が弛緩して弱くなっている、つまり、肩甲骨を十分に動かすことができない状態なのです。「バックスイングで肩を回せ」とアドバイスされた方は多いと思いますが、その意図することは「肩甲骨を十分に動かせ」ということ(本コラム第31回)です。
腕を前方に伸ばす、腕を上げるという動作も、肩甲骨が上腕骨とセットになって動きます。肩甲骨の可動域に制限があると、バックスイングのときに肩が十分回せなかったり、腕を大きく伸ばせなかったりするため、結果的に、猫背の人はスイングアークが小さくなり、飛距離が出ないという不具合が生じてしまうのです。猫背気味の人は、それを改善しながら、第31回のコラムに掲載した運動を行い、肩甲骨の柔軟性を回復させることに努めましょう。
体のゆがみを整え、柔軟性や筋力、持久力などの身体パフォーマンスを向上させることを「コンディショニング」といいます。これは「鍛える」というより「整える」ことに重点があります。上述した猫背対策の運動のほか、これから紹介する肩の高さの左右差や、骨盤のゆがみを解消させるための運動も、コンディショニングの一環です。
コンディショニングは、猫背の矯正や、骨盤のゆがみ矯正のように局所的に考えるのではなく、体全体のバランスを整える意識で行ってください。コンディショニングの最も確実な方法はフィジカルトレーナーの指導の下で適切なトレーニングをすることですが、ここでは、ジムや本格的なトレーナーに頼らず、毎日気軽に行えるセルフコンディショニングを紹介します。
紹介するセルフコンディショニングは、伸縮性のあるゴムチューブを左右均等に引っ張りながら行います。そのことで身体軸を意識しやすくなるとともに、ゴムの適度な張力が筋肉の収縮を促し、運動効果が高まるからです。解説写真では、私が主管するゴルフスクールで取り入れている「ゴルフフィットネス」で採用している運動補助器具「楽体(ラクダ)」を用いています。家庭や職場では、伸縮性のあるゴム製のロープや、長めのタオルなどで代用してください。ちょっとしたスペースでできますので、出勤前や帰宅後、仕事の合間の隙間時間などで実践するのもいいでしょう。
●体幹の側屈運動
運動効果:腹斜筋の柔軟性向上、体側のストレッチ
(1)足幅は肩幅より少し狭くし、頭上で楽体(ラクダ)を水平に引っ張ります
(2)骨盤を横に突き出すように(黄色い矢印)して上体を横に倒します。そして約5秒間、息を吐きます。このとき、腕とゴムでできる三角形を崩さないようにししましょう。楽体(ラクダ)は、垂直に引っ張ると、およそ5秒でボールが落ちるように設計されています。落ちるボールに合わせて呼吸をすることで息を吐く時間が分かり、呼吸を整えやすくなります
(3)息を吸いながら上体を起こし、息を吐きながら約5秒間、逆に倒します
●骨盤スライド運動
運動効果:骨盤矯正、腹筋群・腸腰筋の強化、股関節の可動域拡大
(1)足幅は肩幅より少し狭くし、頭上で楽体(ラクダ)を水平に引っ張ります
(2)骨盤をテンポよく、左右にスライドさせます
(3)骨盤をテンポよく、前後にスライドさせます
●骨盤回旋運動
運動効果:骨盤矯正、腹筋群・腸腰筋の強化、股関節の可動域拡大
(1)足幅は肩幅より少し狭くし、頭上で楽体を水平に引っ張ります
(2)骨盤で大きな円を描くように回します。右回し、左回しを両方行います
姿勢が良くなればゴルフもビジネスも良くなる
猫背は、ゴルフにもマイナスですが、ビジネスにおいてもマイナスに働きます。見た目の印象が良くない上に、健康面でもさまざまな悪影響を及ぼすからです。
まず、肩こりや腰痛を引き起こします。猫背によって胸椎の後湾がきつくなり、脊柱のS字カーブが過度に湾曲してしまうのが原因です。猫背がさらにひどいと、常に胸部や腹部が圧迫された状態になります。胸部が圧迫されると心肺機能が低下します。腹部が圧迫されると、胃腸などの内臓が正しい位置に収まらず、内臓の働きが悪くなります。特に胃腸の働きが悪くなると、消化不良や便秘などの原因となります。
猫背に限らず、姿勢が悪いと可動域が狭い分だけ筋活動が低下して、体内のエネルギーを消費しなくなります。そうなると、消費カロリーより、食べ物などで取り込む摂取カロリーの方が多くなり、結果太りやすい体質になってしまいます。
ゴルフばかりか、見た目や健康に悪影響が出るのはビジネスマンにとって問題です。猫背は及び腰、縮こまった印象を人に与えてしまいます。その影響で、太り過ぎになったり、休みがちになったりすれば、体調管理ができていないなどと評価されても仕方がありません。姿勢を正して健康的な生活を送ることは、ビジネスでの成功の基盤だといっても過言ではないでしょう。姿勢良く暮らせるようになると多くのことが改善します。運動によって日々のコンディショニングを施すことも大切ですが、日常的にも「肩甲骨を寄せる」「胸を張る」「アゴを引く」などを意識し、良い姿勢を心がけましょう。