いきなりですが、ここで心理テストをしてみましょう。あなたは、あるトーナメントで優勝争いをしているプロゴルファーです。最終日の最終ホール、あなたはすでにホールアウトしていて、優勝争いをしているライバル選手のパッティングを見守っています。相手選手がこれを外すと、あなたの優勝が決まり、入れるとプレーオフという状況です。さて、あなたはどんな思いで相手選手を見ているでしょうか。「外してくれ!頼む!」でしょうか、それとも「入れて来い!プレーオフでもう一勝負だ!」でしょうか。
物事のパフォーマンスを高める「フロー」
「外してくれ!頼む!」と思った人は、プレーオフになったときには、残念ながら優勝の可能性は低くなり、「入れて来い!プレーオフだ!」と考えた人の方が、優勝の可能性は高くなるでしょう。
なぜでしょうか?「外してくれ」というのは、相手のミスを期待するネガティブ思考です。「よし来た!」という人こそが、自分の実力で優勝をもぎ取ろうとするポジティブ思考です。相手のミスを期待し、それがかなわなかったとき、その選手のココロには、大きな「ノンフロー」の風が吹きます。そのような状態でプレーオフに挑んでも、勝てる確率は低くなります。
ノンフローとは応用スポーツ心理学の言葉で、人間の機能を低下させ、パフォーマンスの低下を招くココロの状態です。不安や恐れ、極度のプレッシャー、イライラしたりカリカリしたりといったネガティブなココロの状態はノンフローの代表格です。一方、ウキウキ、ワクワク、ご機嫌で前向き、ポジティブなココロの状態を「フロー」といい、人間の機能を最大限に高め、物事のパフォーマンスを高めます。
上記の例では、相手選手を応援し、ベストプレーを望んだ選手はココロがフローになり、ハイパフォーマンス状態でプレーオフに挑めるでしょう。故に、プレーオフを制する可能性がグッと高まります。優勝経験の多い一流選手は、経験的にそのことを知っているから、相手のミスを期待したりはしないのです。
ゴルフは「相手ファースト」が前提…
一般ゴルファーのプレーにおいても、相手を思いやるココロは自分自身にプラスに働きます。同伴競技者が良いプレーをすると、「ナイスショット!」「ナイスパー!」などと声をかけます。この行為には自身のココロをフロー化し、自身のパフォーマンスを高める効果があります。同伴競技者が林の中にボールを打ち込んだら、多くのゴルファーは一緒に捜してあげるでしょう。時には中・上級者が、苦戦している初心者の面倒を見ることもゴルフでは珍しいことではありません。これは相手のため、「相手ファースト」の行為ではありますが、それは「自分のため」でもあるわけです。
相手に敬意を表す行為や自分が打った後のバンカーをきれいにならすといった行為は、ゴルフマナーとされています。ショットで削り取った芝生を元に戻したり、砂を埋めて修復したりするのもマナーです。これらも、直接的には自分のために行うものではなく、後続プレーヤーのためや、コースのコンディションを維持するというコース保護の観点からの行為。つまり「他人ファースト」です。
すべてのゴルファーが「相手ファースト」「他人ファースト」の精神を持つことよって、自分も含め、すべてのゴルファーがより良いコンディションで気持ちよくプレーできるわけです。
「情けは人のためならず」の意味
「情けは人のためならず」ということわざがあります。近年は、「情けをかけることは、その人のためにはならない。その人のためを思うなら、むしろ厳しく接するべきだ」と誤用している人も多いようですが、本来の意味は違います。「人に情けをかけることは、その人のためになるばかりではなく、巡り巡って自分に返ってくる(だから、人への情けは惜しみなく与えなさい)」……これが、本来の意味です。
「情け」とは、他人をいたわる心、思いやりの心です。人のプレーを応援したり、手助けしたりする行為は、まさに「情けは人のためならず」ではないでしょうか。相手や周囲をいたわる、気を配る、それが巡り巡って自分のためでもあり、また自身のパフォーマンスをも高め、プレーにもプラスの影響を及ぼすことになるのです。
初心者の面倒を見てくれる中・上級者も、かつての初心者でした。多くの人は、先輩ゴルファーに助けてもらった経験があるはずです。自分が受けた好意を、後の世代に与える。受けた恩に報いる、巡り巡って人に尽くす好意の連鎖といえるでしょう。これは、ゴルフに限ったことではありません。日常生活やビジネスにおけるあらゆるシーンで成り立つ、人の世の原理原則だと思うのです。
ビジネスの世界では、「鏡の法則」として知られています。ご存じの方も多いことでしょう。相手ファーストの行為は、最終的には鏡のように自分に返ってくる、という法則です。忙しそうにしている同僚の仕事を手伝ってあげれば、いつか自分が大変なときに手を差し伸べてくれるでしょう。相手にプラスになる情報を惜しみなく提供すれば、逆に自分が欲しい情報を教えてもらえるかも知れません。自社の利益を優先するのではなく、お客さまに尽くして喜んでもらえる努力を続けることが、自身や自社の評価を高め、やがてそれが売り上げや利益となって返ってくるのです。