「練習場でのレッスンではナイスショットが打てるが、コースに出るとうまく打てない。どうして?」……こんな質問をスクールのお客さまから受けることがあります。そんなとき、私は次のステップで確認します。レッスン時にはボールをスムーズに打つための運動プログラムを必ず行っていますが、それがきちんとコースラウンド時にも行えているか、身体パフォーマンスが上がっているかなど、まずはフィジカル状況から確認します。
次にメンタルの確認。ボールを打つ目的で整備され、傾斜もない練習場と、気候や傾斜の異なる場所からターゲットを狙って打つコースでは状況が異なります。しかも、練習では何球も打てますが、コースでは一発勝負。こうした違いがメンタルに影響を及ぼします。きちんと集中できているか、「失敗しないか」など、余計なことを考えていないかメンタルの状態をチェックします。
フィジカルとメンタルをチェックした後は、コースでの「定石」を確認します。ここでいう定石とは、コースラウンドにおいてやるべき最善の手順(ステップ)のこと。定石を身に付けると、ショットのクオリティーが格段に高まります。ぜひ、この手順を覚えてコースに臨んでみてください。
ナイスショットに不可欠な5つのステップ
第44回「決断なくして結果なし!決断力を上げる4つの法則」では、決断の重要性について述べました。その際、ショットの1つひとつに4つのステップが必要であると説明しました。4つとは、情報収集→イメージ→決断→実行です。まずこの4つのステップについておさらいしましょう。
まずは「情報収集」です。ここでは、ピンまでの距離や高低差、ボールのライ(状態)、風の向きや強さ、バンカーなどの障害物の有無といった情報を収集し、どう攻めていくかを判断する材料にします。つまり「現状把握」です。
次の「イメージ」では、これから放つショットの目標を定め、そのショットをイメージします。「情報収集」で得られた情報を基に、さまざまな選択肢を考えます。イメージしたショットがハイリスクであったり、自分の実力では実現困難だったり、あるいは逆にあまりに消極的なものはふるい落とし、自分なりにベストな攻め方が想像できるまで、目標設定とイメージを繰り返します。
そして、いくつかの選択肢の中からベストな方法を選択、これが「決断」です。ここまでのステップを踏んだ上で初めて実際にボールを打つ「実行」に移すことになります。
コースに出たときに行われるべきナイスショットの定石とは、これらのステップが正しく行われることに尽きます。情報収集→イメージ→決断→実行に、もう1つ、「目標設定」を入れてみましょう。5つのステップとなり、次のようになります。
次に、それぞれのステップにおけるポイントを解説します。
各ステップにおけるポイント…
ステップ(1)「情報収集」
その目的は前述の通り「現状把握」です。視覚や聴覚をはじめ、体性感覚を駆使し、残りの距離、高低差、ボールの状態、風など天候について現状を把握します。体性感覚とは、皮膚で感じる圧感や温感、振動感覚、筋肉や関節、平衡器官などで感じる姿勢や運動感覚のことです。位置感覚やモノを手に持ったときの重さ感覚なども含まれ、ゴルフにはなくてはならない感覚です。
ここでのポイントは、より多くの情報を入手することです。風の強さや方向はもちろん、気温や湿度でもボールの飛び方は違ってきます。ライについても、芝の向きや長さなどによって抵抗が変わり、ショットに影響します。さらには、同伴競技者のプレーから情報を得る必要もあります。情報収集力や観察力がゴルフのスコアアップには欠かせないことがお分かりいただけると思います。
ステップ(2)「目標設定」
ステップ(1)で得られた情報を基に、これから放つショットの目標を設定します。目標はできるだけ具体的でなければなりません。ここでのポイントは、うまくいかない可能性も考えて、多面的に考えるということです。「このライからではボールは左に曲がる可能性があるかもしれない……」「距離が足りないかもしれない……」といったうまくいかないケースをも想定し、そうしたリスクをあらかじめ折り込みながら、グリーン上のどこを、フェアウエーのどこを狙うのか明確かつ具体的に目標を設定しましょう。
ステップ(3)「イメージ」
設定した目標にボールが飛んでいくシーンをイメージします。イメージのポイントは「VAKE」と表現できます。視覚的に(Visual)、聴覚的に(Auditory)、体感覚的に(Kinesthetic)、そしてそのときの感情(Emotion)も含めて具体的にイメージします。このときには、(2)の目標設定で想定したネガティブなケースを頭から排除して、ポジティブなイメージを固めることが大切です。ステップ(2)とステップ(3)を繰り返しながら、確実に実効性のある選択肢を絞っていきます。
ステップ(4)「決断」
いくつかの選択肢の中からベストなイメージを決断します。決断のポイントは、あまりグダグダと時間をかけず、直感に委ねたほうがいいと思います。この決断は、(3)「イメージ」から(5)「実行」へのモードの切り替えとなり、とても重要です。決断なくして実行すると、迷いや不安でココロが揺らぎ、ミスショットの確率が跳ね上がります。このステップのさらに詳しい話は第44回を再読してください。
ステップ(5)「実行」
運動は大脳皮質にある運動野という所がカラダの動かし方をプログラミングして行っています。そのプログラム化された信号は、脊髄を通して運動ニューロンに送られ、骨格筋を動かします。しかし大脳皮質が毎回プログラミングを行っているのではなく、その運動を反復して繰り返すことで、そのプログラムを小脳にメモリーしています。これが「カラダで覚える」ということです。スイングする際、バックスイングがどうとか、ダウンスイングがどうとか、あれこれ考えながらラウンドしている人を見かけますが、これではナイスショットは望めません。スイング中にあれこれ考えるということは、せっかく練習によって小脳にメモリーされたプログラムを大脳が邪魔するということなのです。決断したのなら自信を持って思い切り実行に移しましょう。
練習でできてコースでできない理由
冒頭で述べた「練習でできてコースでできない」の原因は、以上のステップのいずれかがボトルネックになっていることが考えられます。中でも、実行の段階であれこれ考えてしまっているケースが少なくありません。自分のプレーを振り返ってみると思い当たる節があるのではないでしょうか。実行の段階では「無心(何も考えない)」であるべきなのです。
「曲がったらヤバい……」、「ダフったらバンカーだ……」といったネガティブ思考は目標設定までにしておきましょう。ココロの揺らぎは小脳から筋肉への指令を邪魔します。イメージのステップのままポジティブに楽観主義でスイングしましょう。そして、これら一連の流れを「ルーティン化」できれば、余計な思考やココロの揺らぎをシャットアウトすることにつながり、練習で培った能力をコースで発揮する上で有効です。
ビジネスにおける成功の定石
ショットのクオリティーを高める5つのステップについて解説してきました。管理者であればお気付きかもしれませんが、ビジネスでも同様の手法を実践されている企業が多いことと思います。
ステップ<1>からステップ<5>まで、これはQC(あるいはTQC)ストーリーです。製造現場で、不良率の低減や品質検査などの目的で取り組む「QC(Quality Control/品質管理)」。非製造部門で、業務遂行の質を高める「TQC(Total Quality Control/総合的品質管理)」の流れそのものです。
<3>の改善計画を立てるときは、目標(ゴール)を明確にイメージすることが大切です。ゴルフでナイスショットをイメージすることと同じです。<4>の承認は、チームリーダーが行うのか、部門の管理職が行うのかは組織によって異なるとは思いますが、おおむねこのような流れでQC、もしくはTQCに取り組まれているのではないでしょうか。そしてQCでは、<5>の実行の後に、<6>効果の検証→<7>歯止め(標準化)と続くわけです。
最後に、成功のゴールへと至るステップを簡単にまとめました。参考にしてください。
<1>情報収集(現状把握):情報収集力、観察力が求められる
<2>目標設定:悲観的にかつ多元的に考え、目標(ゴール)はより具体的に
<3>イメージ(改善計画):イメージは視覚・聴覚・体感覚・感情(VAKE)的に明確に、そしてポジティブに
<4>決断(承認):時間をかけず、直観的に
<5>実行(分析と実施):一心不乱に、信念を持って