街中のゴルフ練習場が、近年活況のようです。経済産業省が毎月発表している「特定サービス産業動態統計調査」によると、2021年におけるゴルフ練習場の売上高約368.4億円、利用者数約2506万人で、いずれも新型コロナウイルス流行前の2019年と比較すると20%以上も増加しています。2022年1月~3月の前年同期比も堅調に上向いています。この調査はマーケットを形成する売上高上位の企業または事業所を抽出した結果ですが、ゴルフ練習場の市場全体が似たような傾向にあると思います。
ゴルフ練習場は、ゴルファーにとってはなくてはならない存在です。特にビギナーは、まず練習場で基本的な打ち方を学んでからコースに出ますから、上記のように利用者数が増加している傾向は、ゴルフ業界にとっては明るい兆しといえるでしょう。そこで今回は、屋外型ゴルフ練習場の最新動向についてお伝えしたいと思います。これを知れば「ゴルフ練習場」を目的に出掛けたくなるような、驚くべき“進化”がそこにはありました。
屋外型ゴルフ練習場を進化させる「トップトレーサー・レンジ」
公益社団法人全日本ゴルフ練習場連盟が発行する会報誌「JGRA NEWS/No.48」(2021年3月号)によると、国内初のゴルフ練習場は、1929年開場の「霞ヶ関カンツリー倶楽部」内に併設された練習場のようです。それから90年以上がたちますが、屋外型ゴルフ練習場の設備として1970年代にオートティーアップ機が登場したものの、それ以降、ゴルファーに利点が生まれる目新しい技術革新のない状態が続きました。
そんな中で近年登場したのが、最新のIT技術を駆使したシステム「トップトレーサー・レンジ」です。株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)が国内で販売するこのシステムは、屋上に設置されたカメラが打席から放たれたボールを追跡、弾道を3次元的に計測しデータ化するもので、米国の「TOP GOLF」の技術を日本のゴルフ練習場向けにアレンジしたそうです。「トップトレーサー・レンジ」は徐々に普及しつつあり、2022年7月1日現在、全国で69施設に導入されています。
「トップトレーサー・レンジ」は全部で10のモードで活用できます。基本的なのが、ショットごとに飛距離やボール速度、打ち出し角度や弾道の高さ、左右の曲がり幅などのデータを確認する「フリー計測」です。また、クラブの番手ごとに平均値や最高飛距離などの履歴が確認できる「クラブ別計測」も便利です。
実在する世界の有名コースをバーチャルでラウンドできる「バーチャルゴルフ」、練習場に設置されている実際のピンを狙い、ダーツのようにポイントを競い合う「ポイントゲーム」といったゲーム性の高い楽しみ方もできます。スマートフォンに専用アプリをダウンロードすれば、練習記録を残し、いつでもそれを確認できます。また、アプリで連携すればランキングが分かり、他のユーザーとゲームを競い合うこともできるそうです。
屋外ゴルフ練習場に設置されたカメラが打球を追跡する(撮影場所:梅里カントリークラブ)
打席横に設置されたモニターで計測結果を確認できる(撮影場所:梅里カントリークラブ)
“コースのための練習場”からの脱却…
「トップトレーサー・レンジ」を実際に体験するため、神奈川県横浜市にあるゴルフ練習場「梅里カントリークラブ」(以下、梅里CC)に行ってきました。
私が実際に体験して感じたうちの一つは、このシステムで表示される数値データが実測に限りなく近く、正確であるという点です。インドア練習場やゴルフ用品売り場などにおけるシミュレーション機器の数値は、ヘッドスピードやボールの初速、回転数などを測定したデータから“計算したデータ”です。一方、「トップトレーサー・レンジ」は実際に飛んでいくボールをカメラが追尾し、落下地点もしくはネットに当たるまでを測定した“実測データ”です。自分の飛距離や弾道を正確に把握したい上達志向のゴルファーには、願ってもないシステムだと思います。
その一方で、前述したようにゲームやバーチャルラウンドの機能も備えているため、エンジョイ派のゴルファーも楽しめます。ゆえに、あらゆるゴルファーのニーズに応えられるシステムだと感じました。
[caption id="attachment_45680" align="aligncenter" width="400"] 利用者側で好きなモードを選んで楽しめる(撮影場所:梅里カントリークラブ)[/caption]
ゴルフスクールを経営している私が画期的だと感じたのは、全打席から放たれるすべてのショットがシリアルナンバーで記録されているという点です。梅里CCは3階建てで全75打席ありますが、それを屋上に設置された6機のセンサーがすべて追尾し、記録しているというのです。打球がネットを越えたとしても、それをアラームで知らせるだけでなく、それが何月何日、何時何分何秒に、どの打席から打たれたものかが特定できるそうで、万一事故が起きたとしても、スムーズに対処できるわけです。
梅里CCの総支配人、板垣庄治氏にこのシステムを導入した決め手をうかがいました。「当練習場のある横浜市港北区はここ数年、若いファミリー世帯が急増しています。そのような方々にご来場いただく動機となるツールとして、なくてはならないと感じたのが導入の大きな理由です。また、当練習場は打ち上げで飛距離が分かりにくいというご意見がありましたが、それを解消できるのも導入理由の一つです」。
私は本連載の第76回、第83回でも訴えていますが、ゴルフもボーリングのように、マイクラブ・マイシューズを持たずとも手軽に楽しめるものにならないかと常々思っています。ゴルファーにはゴルフ練習場が不可欠ですから、その場所こそ、手軽で楽しくなければなりません。ゴルフ練習場が、コースで恥をかかないために義務的に足を運ぶ、練習は楽しくないが、うまくなるためには仕方がない……と思われる場所では、私の理想は遠い先の夢物語になってしまいます。しかし、この「トップトレーサー・レンジ」が登場し、私はとてもワクワクしています。冒頭で紹介した、ゴルフ練習場に足を運ぶ人が増えている傾向には、こうした練習場側の取り組みも寄与していると思います。
梅里CCの板垣氏も「『トップトレーサー・レンジ』を使ったら練習そのものが楽しくなった、練習場に行くのが楽しくなったというお客さまの声を聞くのはうれしい」とおっしゃっていました。都市部で休日を楽しむ際に、「どこ行く?映画?ボーリング?それともゴルフ?」と、遊びの選択肢にゴルフ練習場が加わる日が到来したような気がします。
◇取材協力:梅里カントリークラブ
■〒223-0061 神奈川県横浜市港北区日吉3-18-4
■TEL 045-563-8877 ■URL https://www.umesato.com/
1974年創業。約30年前にリニューアルし現在の施設に。創業当時は周囲に梅林があり、まさに梅の里だった。ゴルフ場に近い環境で楽しんでもらいたいという思いから「梅里カントリークラブ」と命名。