昨年開催されたFIFAワールドカップカタール2022はアルゼンチンの優勝で幕を閉じました。日本代表はドイツ、スペインと強豪国を破り大躍進。目標のベスト8入りは果たせなかったものの、日本国民に夢と希望と元気を与えてくれました。日本代表躍進の要因は、技術の向上、選手同士のコミュニケーション力、そして森保監督の采配などが評価されているようです。
それらに加え、私はベテラン選手のピッチ以外での働きがすごく大きかったのではないかと見ています。それは、若い選手を鼓舞したり、モチベーションを高めたり、緊張をほぐしてリラックスさせたり、元気づけたりといった働きです。長友佑都選手の「ブラボー!」を聞くたび、画面越しの私も笑顔になったものです。
サッカーは団体競技であるがゆえに、選手の一部がプレー中に気持ちを切らしても、そんな選手をチームの他の誰かが鼓舞し、前向きな気持ちを湧かせることが期待できます。一方、ゴルフは基本的に個人競技ですから、心を鼓舞し、ポジティブな気持ちや平常心を保つことをセルフで行わなければなりません。言い換えれば、自分自身で気持ちをつくる鍛錬としてゴルフは最適なスポーツともいえるでしょう。今回は、ゴルフに欠かせない「セルフ鼓舞」についてお伝えします。自分を鼓舞する「セルフ鼓舞」の方法は、「言葉」「表情」「姿勢」、そして「思考」の四つがあります。自主ワークを二つ紹介しますから、ぜひ、トライしてみてください。
ポジティブワードをアウトプットしてみよう
まず「言葉」です。ありがとう、大好き、うれしい、楽しい、ウキウキ、ワクワク……といったポジティブワードを意識的に使うようにしましょう。こうした言葉を口にしたり、心の中でつぶやいたりすると、不思議と気持ちが前向き・上向きになります。逆に、キライ、悲しい、つまらない、不幸、ついてない、イライラ……といったネガティブワードは気持ちを後ろ向き・下向きにします。
ポジティブワードの中でも特に私がオススメしたいのが「ありがとう」です。ありがとうは感謝の言葉です。この逆が、「ケッ!バンカーかよ」「しかもよりによって目玉じゃん!」といったネガティブワードです。このような言葉を発したり、心の中で思ったりすると気持ちが後ろ向きになり、ミスショットを誘発します。
「ありがとう」を漢字で書くと「有り難う」です。これは「有るのが難しいこと」、つまり「特別なこと」です。ゴルフが楽しめるのは、「当たり前」ではなく特別なこと、感謝するに値する素晴らしいことだと思えれば、愚痴や文句は出なくなります。実際に声に出して言わなくても「ありがたい」と“内言”するだけで十分です。それだけでも気分が晴れ、気持ちが前向きになります。例えばバンカーに入ったら、バンカーからのショットを楽しむチャンスと前向きに捉えてみましょう。自身の成長を試す絶好の機会と考え、「ありがとう」とつぶやいてからアドレスに入ってみる……その状況を楽しんで臨めば、ナイスリカバリーを引き寄せる確率がきっと上がります。
【セルフ鼓舞ワーク1】
ポジティブワードをできるだけ、たくさん書き出してみてください。どのくらい書けますか?(参考として、私の解答例をコラム末尾に記載しておきます)
姿勢を正せば物事はプラスに働く…
2番目の「表情」は、やはり笑顔が一番です。笑うことができなくても、口角を少し上げてみましょう。笑顔の効能については第78回で詳しく述べましたから、ここでは割愛します。3番目のポイントは「姿勢」です。姿勢を正せば身体能力が向上してゴルフがやさしくなると第42回で述べました。姿勢は人の運動機能に大きな影響を及ぼしますが、メンタルにも大きな影響を与えるのです。次のワークでちょっとした実験ができます。
【セルフ鼓舞ワーク2】
その場で頭を下げ、背中を丸め、良くない姿勢をしてください。そしてその姿勢のまま、楽しいこと、うれしいこと、ウキウキすることを考えてください。次に下げていた頭を上げて正面を向いてください。そして背筋を伸ばし、胸を張り、堂々とした良い姿勢をしてください。この状態で、悲しいことや嫌なこと、イライラすることを考えてみてください。
いかがですか、どちらも考えにくかったのではないでしょうか。やってみると実感できると思いますが、良くない姿勢では楽しいことやうれしいことを考えにくく、良い姿勢では悲しいことや嫌なことを考えにくいのです。これは思考や感情といったメンタルと、姿勢が連動していることを物語っています。
人は悲しい出来事があったり落ち込んだりしたときには自然と背中が丸まり、うつむいた姿勢になる傾向があり、楽しくウキウキしているときや、自信に満ちているときは、胸を張って堂々とした姿勢になる傾向があります。メンタルが姿勢に影響を与えているのですが、逆もまた真(しん)なりで、姿勢を良くするとメンタルにも良い影響を与えます。
子どもの頃、勉強するときは「姿勢を正しなさい」としつけられました。座禅を組むときも、姿勢が崩れると僧侶に肩をピシャリとたたかれます。精神を集中させたり、思考能力を向上させたりするには、姿勢はとても大切なのです。よって、ゴルフでミスをしても、決してうつむかず、胸を張り、堂々とした姿勢でフェアウエーを歩きましょう。ネガティブな気持ちを引きずらないで、次のプレーに集中して向かえると思います。
セルフ鼓舞に効果的な思考法
最後に「思考」です。思考は自身の感情に直接影響を及ぼすのでとても重要です。先述の“ありがとう”と内言するのは「感謝思考」ですが、その他の思考法をいくつか紹介しましょう。
まずは今すべきことに集中する「集中思考」です。「以前このホールでOB打ったな……」と考えてしまうのは、過去の失敗に心が捉われた状態です。「絶好の位置からのアプローチ。だけど、ダフったらどうしよう……」は、これから打つショット(未来)に対して、やはり心が後ろ向きな状態です。
このような心の状態では、まず間違いなくミスショットします。みなさんも経験があると思います。これらを解消する思考法が、目の前の今に集中することです。集中すると過去や未来は見えなくなり、今すべきことだけが見えてきます。「集中思考」に成功シーンをイメージする「プラス思考」を合わせれば、その成功確率はグッと高まるでしょう。
同伴競技者を応援する「応援思考」も、セルフ鼓舞には有効です。野球ファンは、好きな野球チームを一生懸命に応援します。オリンピックでは、国民の多くは日本人選手を応援します。冒頭でも述べたFIFAワールドカップでは、普段はサッカーを見ない人まで日本代表の試合を熱狂的に応援します。スポーツに限らず、好きなアイドル歌手やグループを応援している人は少なくないはずです。人はなぜ、身内でもない他人を一生懸命に応援するのでしょうか。それは人を応援すると気分が良くなり、自分自身も元気になれるからです。ゴルフにおいても、同伴競技者のミスを喜ぶのではなく、ナイスプレーを応援してください。それは自分自身のプレーにもプラスに働くでしょう。
コロナがきっかけでテレワークをする人が増えました。オフィスで仕事をしているときは、失敗して落ち込んでも近くにいる先輩や同僚が励まし、鼓舞してくれました。しかし自宅などで1人テレワークをしているとそうはいきません。よって、セルフ鼓舞は、これからの働き方でも求められるスキルのように思います。セルフ鼓舞四つの方法「言葉」「表情」「姿勢」「思考」は、どれもコストがかからず、セルフで即実行できます。ぜひ取り入れ、ゴルフや仕事に役立たせてください。
★セルフ鼓舞ワーク1の解答例
うれしい、楽しい、幸せ、大好き、ありがとう、元気、感謝、愉快だ、ウキウキ、ワクワク、素晴らしい、最高、おかげさま、すてき、すごい、できる、明るい、楽々、前向き、輝く、尊敬、希望、信じる、向上心、堂々と、面白い、充実、豊かだ、大きな声、上を向いて……