教育関連市場は、若年層人口の減少や定員割れする大学の増加などによる教育ニーズの変化を受けて競争が激化している。塾・予備校、専門学校も淘汰(とうた)や合併が相次ぎ、業界再編が進んでいる。代々木ゼミナールが全国27校のうち20校を閉鎖したり、通信教育「Z会」で知られる増進会出版社が、学習塾や英会話学校を展開する栄光ホールディングスに株式公開買い付け(TOB)を実施したりしたのが象徴的なケースだ。
代々木ゼミナールのような日本を代表する大手予備校が業務を縮小せざるを得なかった理由の1つとして、従来の受験ノウハウや大教室での講義スタイルが現代のニーズにマッチしなくなったことが指摘されている。
こうした大教室型の伝統的な予備校が苦戦する中で、力を付けているのが個別指導型の塾・予備校だ。生徒1~4人に1人の講師が付き、進捗度や理解力に応じて個別に指導を行うスタイルで、授業料は高いものの子どもや親の満足度が高くシェアは拡大している。
さらに最近、ITを活用した新しい教育サービスも目立ち始めている。既存の塾・予備校、専門学校だけではなく、ベンチャー企業など新しいプレーヤーが教育分野に続々参入している。その急先鋒(せんぽう)がリクルートの「受験サプリ」。サービス開始からわずか1年半で無料会員数が100万人を突破。有料会員も13万人(2015年5月時点)を超え、なおも成長を続けている。インターネットを通じてカリスマ講師の講義を月に1000円ほどで視聴できるサービスは、既存の塾・予備校、専門学校にとって大きな脅威となっている。こうした新興勢力が台頭する中で、塾・予備校、専門学校は生き残りを賭けた変革を迫られている。
現代の学習塾・予備校、専門学校が抱えている課題
従来型の塾・予備校、専門学校の多くは以下のような数々の課題を抱えて、その解決策を模索している。
(1)生徒数を増やすため新しいエリアに教室を増やしたいが、講師の確保が難しい
(2)質の高い講師が少ないため教育レベルが落ちるリスクがある
(3)カリキュラム作成や授業などのノウハウ継承が難しい
(4)人気講師は引き抜きのリスクがあり、人件費が高騰しがち
こうした課題を解決するために、大手を中心に塾・予備校、専門学校が採用しているのがクラウドを活用したeラーニング環境の整備だ。
クラウド型eラーニングを活用して競争力を高める…
具体的にはクラウドを活用し、インターネットを使った授業のライブ配信、生徒の都合に合わせて授業動画を閲覧できるVOD(Video On Demand)やタブレットを使った家庭学習を可能にするeラーニングの導入だ。こうしたeラーニングシステムの導入には以下のような数々のメリットがあり、競争力の強化につながる。
(1)講師が少なくても新しいエリアに教室を持てる
(2)指導力の高い人気講師の授業を多数の生徒に提供できる
(3)家庭で授業動画を見て予習させ、教室で個別指導を行う「反転授業」ができる
(4)スマートフォンやタブレットなどのチャット機能で多くの生徒をフォローできる
(5)授業を録画保存し、講師の暗黙知を形式知に変えられる
(6)講師数を抑えられるので一人当たりの人件費を上げられ、人気講師の引き抜きリスクを抑制できる
また、eラーニング環境の整備は、塾・予備校、専門学校が競争力を高める供給側の動機だけなく、地方の自治体や教育委員会などの需要面が盛り上がりつつあることも見逃せない。人口自体が少ないため生徒数も少ない地方では、従来のようなやり方では、塾・予備校、専門学校の進出が難しく、大都市との間に教育格差が生じている。その課題を解消し、地方を活性化するための手段として注目されているのだ。
つまり、塾・予備校、専門学校の講義動画コンテンツを、自治体が地方創生予算などを活用して購入。それを学校での授業に活用したり、放課後に公民館や各家庭で視聴する環境を実現したりして、大都市との教育格差をなくすことが可能になる。これは塾・予備校、専門学校にとっても新たなビジネスチャンスといえる。
YouTubeやUstream活用の問題点とは?
インターネットを使った授業のライブ配信や動画閲覧は、YouTubeやUstreamのような無料の動画配信プラットフォームを使っても実施できる。この方法なら、今すぐにでもローコストで実現可能なので、ハードルは低い。ただ、こうした無料の動画配信プラットフォームを有料ビジネスに利用するには問題がある。その理由は大きく3つ挙げられる。
1つ目は、無料の動画配信プラットフォームは品質が保証されず、放送が途切れたり映像・音声の質が悪化したりするリスクがあること。サテライト校で授業をライブ視聴していて映像や音声が途切れたら、生徒の貴重な勉強時間を無駄にしてしまう。授業料返還などのトラブルに発展する恐れがある。
2つ目は、塾・予備校、専門学校のコアコンピタンスである授業の公開範囲だ。YouTubeでは、公開範囲を「非公開」「限定公開」に設定できるが、やはりコントロールには手間がかかる。授業料を支払った生徒にだけ、手間をかけずに公開できるシステムが好ましい。
3つ目は、いつ誰がどの授業動画を見たのかを管理できないことだ。理解度や学習態度が分からなければ、生徒のフォローは難しくなる。閲覧データを分析して授業の改善や合格率向上に生かすのも困難だ。
塾・予備校、専門学校が求めるのは、生徒が高品質の授業をいつでも視聴でき、その状況を管理できる仕組みになる。その意味ではインターネット活用のメリットは大きいので、大手を中心にeラーニングは急激に拡大している。しかし、無料の動画配信プラットフォームの活用には限界がある。かといって、オリジナルの動画配信システム構築に大きな投資をするのは容易ではない。
そんな中で第三の道として注目されているのが、初期投資がそれほどかからないクラウドを活用したeラーニングシステムだ。教育系のITベンダーや通信事業者など、さまざまな事業者がサービスを提供し始めている。この方法なら、事業規模に関係なく導入に挑戦できるだろう。