三井不動産リアルティでは、利便性の高い交通インフラとして認知されつつあるコインパーキング事業の拡大を図るため、将来を見据えた取り組みを積極的に行っている。「駐車場を単に車を止めるだけの場所ではなく、さまざまな付加価値を付けて社会に貢献する施設にすることをめざしています」と、リパーク事業本部事業推進部事業企画グループの國立和樹氏は話す。
自動車社会の成熟に伴い、駐車場不足が深刻化する中で登場したコインパーキングは、路上駐車を減らし、交通渋滞を緩和することで安全をもたらす有益な施設として受け入れられている。
「だからこそ昨年、コインパーキングに付加価値を付けるためのキーワードとして『安心・安全』『先進性』『環境配慮』『災害時支援』の4つを挙げました。この方針で整備することによって、コインパーキングを社会貢献できる場所として訴求していく計画を策定したんです」(國立氏)
各地でこの計画の具体化を図る中で、NTTグループから同社に高機能自動販売機導入の提案があり、兵庫県神戸市中央区の「三井のリパーク 栄町通第二駐車場」(以下、栄町通第二駐車場)から導入が始まっている。
コインパーキングには、もともと利用者へのサービス目的で飲料の自動販売機が設置されていることが多かった。それに注目し、各種ICTサービスや災害時支援機能を持つ高機能自動販売機を設置して、社会貢献の拠点にしようというのが、NTTグループからの提案だった。
高機能自動販売機にはさまざまな機能が盛り込まれている。栄町通第二駐車場に設置した販売機を例に機能を紹介しよう。まずは「災害時支援機能」。災害によって停電した場合、自動販売機に内蔵されたワイヤーの操作により貯蔵飲料が無償で提供でき、またダストボックス上部の空きスペースに非常食や簡易トイレ、レスキューシートといった災害対策用品を備蓄している。
「Wi-Fi機能」はNTT西日本のグループ会社であるNTTメディアサプライの「DoSPOT」サービスをWi-Fi基地局として組み込み、NTT西日本の光ブロードバンド回線に接続して提供している。駐車場内でWi-Fiに対応したスマートフォンやパソコン、タブレットを使って無料でインターネットにアクセスできる。通常時の利用は1日最大60分(15分×4回)までだが、災害発生時には回数制限無しで利用することができ、安否確認や避難情報の取得などに活用可能だ。
「熊本地震では、駐車場が避難場所になっているケースがありました。駐車場でWi-Fiがつながり、災害情報などが随時手に入るのは被災者にとって非常に心強いと思います」(國立氏)
高機能自動販売機は、「サイネージ機能」も備えている。自動販売機前面のディスプレーにニュースや天気、近隣駐車場の紹介、空車情報、災害情報などのさまざまなコンテンツを配信するサイネージ機能は、利用者に新鮮な情報を提供する。
駐車場の土地を提供するオーナーにも好影響
「多様な機能を持つ自動販売機の設置により、コインパーキングが災害発生時の避難スポットとして活用されることは地域住民に対する有効なサービスになるでしょう」と國立氏は期待する。
高機能自動販売機を最初に設置した栄町通第二駐車場は、神戸市中心部のオフィスビルに囲まれた市街地の一角に位置する。神戸は阪神・淡路大震災を経験していて、防災に対する意識が強い。災害に対する取り組みを強化すれば、より付加価値の高い駐車場が提供できるのではないかということから導入された。
オーナー(地権者)の同意を得た上で高機能自動販売機を設置し、2016年5月に稼働を開始した。同駐車場にはソーラーパネルを備えた街路灯を採用。その街路灯にAED(自動体外式除細動器)や非常用電源のコンセントも装備するなど災害時支援機能を強化している。
設置時にはテレビや新聞などのマスメディアが多数取材に訪れ、地方自治体からも問い合わせを受けるなど、社会的な反響は非常に大きかった。「災害に対応するという付加価値を付けることで、三井のリパークは近隣住民の皆さんに安心・安全を提供する施設として存在することができます。これは駐車場の土地をご提供いただくオーナー様にとっても望ましく、安心して当社に運営を任せていただけることにつながります」(國立氏)
高機能自動販売機の設置は、最近注目を浴びているインバウンド需要への対応という面でも効果的だ。外国人観光客の無料Wi-Fiサービスへのニーズは高いので、Wi-Fi機能は非常に喜ばれるはずだ。
QRコードをスマートフォンなどで読み取って、利用者の端末に設定された言語に合わせて翻訳表示する「多言語翻訳機能」(QR Translator)も装備しているので、駐車場の利用方法などが外国人観光客でも理解できる。近年日本を訪れる外国人観光客は急増している。レンタカーを利用する外国人は着実に増加しているが、彼らはコインパーキングの利用に慣れていない。そんな外国人観光客の不便を多言語翻訳機能で解消できる。
三井不動産リアルティでは、まずは全国各ブロックでモデル事業地を選定し、地域貢献型の駐車場を開設している。その先行例が神戸市の駐車場であり、その後仙台市、京都市など次々と導入例を増やしている。
「今後はモデル事業地だけでなく、各地の駐車場に積極的に高機能自動販売機を設置したいと考えています。三井のリパークが地域の皆様に心から歓迎される施設になるために、無料Wi-Fiや災害時支援などの機能は有効な要素です。地震や台風といった災害が発生したとき、“三井のリパークへ行けば何とかなる”と思っていただけるよう、これからも整備を進めていきたいです」と、國立氏は抱負を語る。
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