宿泊料を稼ぎ、利益を上げるためには、オーナーは集客力を高める魅力付けを行う必要がある。その1つが無料のWi-Fiサービスだ。特に外国人観光客をターゲットに民泊を行う場合、いまや必須条件にすらなりつつある。京都市で天神川ファクトリーが開業した「京の宿 折り鶴」でもWi-Fi環境の整備を行い、人気を得ている。
京都市右京区、街の東西を結ぶ四条通沿いに位置する「京の宿 折り鶴」は、京都を訪れる観光客を対象とした宿泊施設だ。宿を運営する天神川ファクトリーはオートバイ販売を手掛ける企業。一見、関連の見えない事業展開だが、どのような経緯で開業を決めたのだろうか。
「この土地はもともと駐車場でしたが、平屋の事務所を建てる計画がありました。ちょうどその頃、京都ではホテル不足が問題になっていたので、“どうせ建てるなら2階建てにして、上階を民泊にしよう”と考えました」と同社代表取締役の黒岩義正氏は語る。
京都は日本の歴史が感じられる街として外国人観光客に人気がある。嵐山に近く、宿泊施設として絶好のロケーションだ。オートバイ販売を通じて接客の楽しさを知る黒岩氏は、観光客に快適な宿を提供し、存分に京都観光を満喫してもらう民泊ビジネスに興味を持っていた。すぐに実現に向けて動き出した。
一般の民家を宿泊場所として貸し出す民泊は、世界規模で拡大を続けている。民泊オーナーと利用者間の取引を仲介する代表的なWebサイトとしては、Airbnb(エアビーアンドビー)がよく知られる。2008年の開設から急速に成長。現在は世界191カ国、6万5000以上の都市でサービスを提供している。日本でも数多くの民泊が開設され、宿泊場所不足を解消するビジネスとして認知されつつある。
ただ、日本においては現在、対応法制が十分ではなく整備が急がれる。現況はかなりの民泊施設が、宿泊料を徴収し継続営業する場合に順守しなければならない旅館業法の規制などを満たしていないのが現実だ。しかし、そうした施設では将来にわたり、事業として成立しないと考えた黒岩氏は、規制を順守した施設造りに取り組んだ。
規制を守った施設を造ることは必要条件だが、観光客を集める十分条件ではない。開業に向けた準備を進める中で、黒岩氏は「京の宿 折り鶴」をより魅力ある施設にする方法を考えた。
京都市内で、今後も続々誕生するであろう数多くの民泊施設。その中から選ばれ続けるためには、クリアすべき条件がいくつもある。客室はきれいに清掃されているか、接客態度はどうか、さまざまなポイントが見えてきた。
その中で黒岩氏が気にかけたのが、「無料Wi-Fiが整備されているか」だった。外国人観光客は、日本語でのコミュニケーションに苦労する場合が多い。母国語が使えるスマートフォンで情報を入手することが不可欠なので、Wi-Fi環境が必須なのだ。
オートバイ販売を手掛ける天神川ファクトリーでは売上管理、顧客管理のソフトウエアを導入。VPNで各店舗間をつなぐネットワークを構築していた。黒岩氏は、このシステム構築を担当したNTT西日本に相談し、民泊で活用できる無料Wi-Fiサービスの提案を求めた。
依頼を受けたNTT西日本は民泊に適したソリューションの検討を行い、「スマート光ビジネスWi-Fi」(※1)を提案した。本サービスは無線LAN設備と、その導入から設定までのサポートを併せて提供するもので、トラブル発生時には電話や遠隔操作で支援する。システム管理者のいない民泊にとって心強いサービスだった。
1台のアクセスポイントは最大120台の端末で同時に利用できる。(※2)宿泊客が増えるハイシーズンに、接続できない状況が発生するのではサービス提供の意味がない。これらの特長を踏まえて検討を重ねた結果、黒岩氏はスマート光ビジネスWi-Fiの導入を決断した。
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京都らしい和室の客室[/caption]
その後、慌ただしい準備の期間を経て2016年11月に「京の宿 折り鶴」は開業の日を迎えた。「Sakura」「Momiji」と名付けられた畳敷きの客室に、冷暖房、テレビ、キッチンなどの設備が用意され、快適な空間が広がっている。
「おかげさまで開業以来、たくさんの方からご利用いただいています。お客さまは予約前にサイトで宿泊料金だけでなく、設備も比較検討されますので、Wi-Fi環境が整っているのは大きなポイントになっていると思います」と黒岩氏。これまでWi-Fiに関連するトラブルはなく、有効に活用されているようだ。
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客室にアクセスポイントを設置(左写真:赤囲み部分)して、無料Wi-Fiが利用可能なことを表示した[/caption]
天神川ファクトリーでは、以前、事務所のWi-Fi設備が頻繁に使えなくなり、苦労した経験があった。専門のスタッフもいないため復旧に時間がかかり、Wi-Fiについては心配が残っていた。NTT西日本は導入に当たって、開業前に試験や調査を行い、その不安を取り除くために努力した。
「どこにいても安心してネットにつながる環境が必須でしたから、スマート光ビジネスWi-Fiに満足しています。トラブル発生時の連絡先をきちんと示し、客室だけではなく階段やキッチンなどで何回も電波調査をしてくれる姿を見て、これなら任せられると感じました」と黒岩氏は語る。
さらに、「お客さまだけでなく我々の社内業務にも問題なく利用できています。お客さま用と社内業務用のSSIDが分けられるので、セキュリティー面も安心です。民泊の業務では個人情報を扱うこともあるので、情報管理は大切なんです」と黒岩氏は続けた。
今後の展開について黒岩氏は「宿泊されたお客さまは、サイトに評価を書き込まれます。これを見ると、何を求めているのか、何が不満なのかが見えてきます。無料Wi-Fiはすべてのお客さまから最高の評価をいただきましたが、清潔さ、快適さ、スタッフの対応など、さらに向上させなければならない項目があります。当館を選んでくれたお客さまには気持ち良く、楽しく過ごしてほしいと常に考えていますので、これからも改善を進めていきたいです」と意気込む。
無料Wi-Fiを含めた周到な準備で好スタートを切った「京の宿 折り鶴」。今後も黒岩氏は、継続的に改善へ取り組んでいく覚悟だ。
※1 スマート光ビジネスWi-Fiのご利用には、「フレッツ 光ネクスト」または「フレッツ 光ライト」もしくはコラボ光、およびプロバイダーの契約・料金が必要
※2 技術規格仕様上の最大同時接続台数。推奨される同時接続台数は無線AP(アクセスポイント)1台あたり50台
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