三重県松阪市で車検・整備、点検・修理、板金・塗装、自動車販売、24時間ロードサービスを手がける老舗企業のミノダ自動車工業では、紙ベースで保管していたロードサービスの作業報告書などのデータベース化に取り組んできた。試行錯誤の結果、報告書の内容を高性能複合機「F2300」でスキャンし、さらにAI OCRを活用してテキストデータに変換することで、日時、担当者名、車種などの項目から検索できる体制を整えた。
<ミノダ自動車工業株式会社>
1978年創業でJA共済の指定工場のミノダ自動車工業は、車検、整備修理の事業からスタート。時代の変化に応じて業容を拡大し、現在では自動車販売、板金塗装、損害保険代理店、ETCセットアップ、24時間ロードサービスなど、自動車に関わるさまざまな事業を展開している。
いつでもどこからでもデータへアクセスできる環境が大きなメリットをもたらす
ミノダ自動車工業株式会社
同社は事故などで動けなくなった自動車をレッカーで移動するなどのロードサービスを24時間体制で提供している。保険会社や警察から連絡が入り、担当者が現場に駆けつけて作業に当たる。そして複写式の作業報告書に、日時や場所、車種、トラブル内容、作業内容、電話番号などを記入し、相手のサインをもらってオフィスの格納箱に入れておく。
「1日10~15件ぐらいの案件があって、その報告書は月別に管理していたのですが、問い合わせのたびに、数百枚の紙の報告書をめくって該当する案件を探していました。問い合わせしてくる方の記憶があいまいな場合も多く、探す手間がかかるので検索できるようにしたいと考えるようになりました」と同社の事務をご担当されている長女の島田 笑(えみ)さんは話す。
最初に同社がトライしたのは、紙の報告書を見ながらビジネスアプリ作成を支援するクラウドサービスに必要項目を入力してデータベースを構築していくことだった。しかし、入力作業においては、文字が判別しにくいケースや、年号表記の記入が統一されておらず西暦ではなく和暦の場合もあった。加えて、利用していたクラウドサービスには保存件数の上限があった。
作業報告書の一例
「1枚ずつ必要項目を入力していくという気の遠くなるような作業をしながら、『本当にこれをやる必要があるだろうか』と疑問に思いました。こうした点もあり、当時使っていたサービスでのデータベース化は2カ月ほどで断念し、スキャニングしてデータ化できないかと考えました」と島田さん。その方法を検討するとともに、報告書の記入方法などの見直しも進めた。
ただ、スキャンデータをためるだけでは、当初の目的である作業報告書の検索はできない。スキャニングと同時に検索できる仕組みが必要だった。そこで同社では以前から電話機導入などで付き合いのあったNTT西日本に相談を持ちかけた。
「NTT西日本はAI OCRとRPAを合わせて利用する方法を提案してくれたのですが、コスト的には想定を超えていて、RPAを人に置き換えても費用が見合わないとの判断をして、一度は見送ることにしたのです」と振り返る。
課題を切り分け、データの保存と検索の運用体制を確立
一度、頓挫したミノダ自動車工業の業務効率化プロジェクト。しかし、こうした中でNTT西日本からは「他社のAI OCRを使うことで費用が抑えられるのではないか」という新たな提案が出てきたという。「検討してみた結果、複合機でスキャニングしたファイルをOCRで読み込んだ項目の名前に変換することができました。これなら使えるという手応えがあり、導入することにしました」と島田さんは語る。…
紙の報告書をデータ化するめどはたったが、運用し始めると別の課題が浮かび上がってきた。ミノダ自動車工業では、読み込んだデータのファイルを1台のパソコンに保存していた。そのために、4人いる事務員のうち1人の担当者しか検索作業ができなかったのである。それをNTT西日本に話したところ提案されたのが、クラウドストレージの導入だった。
「電子帳票保存法への対応もあって、クラウドストレージの導入を考えていたタイミングでした。時勢も考えてくれた提案でしたので、クラウドストレージの導入を決めました。併せて4人それぞれが自席からデータを閲覧可能になっただけでなく、AI OCRが読み取ったデータの修正やエクセルファイルでの検索作業が場所を選ばずにできるようになりました」(島田さん)。
クラウドストレージが使えるようになると、もっと便利にできないかという考えが浮かんできた。それまで朝出勤してきた事務担当者が作業報告書の保管箱にたまっている複写された紙の報告書を複合機でスキャンして、それをAI OCRに読み取らせていたが、スキャンしたデータをパソコンからクラウドストレージに移行するという作業が発生していた。「スキャンデータを複合機がクラウドストレージにアップしてくれると便利なのですが、当時使っていた複合機はリースを延長しながら使っていた古い機種で対応できませんでした。NTT西日本に相談したところ、取り扱っているOFISTAR F2300Cという機器を使えば対応可能とのことだったので、契約することにしたのです」と語る。
一連の体制が整ったことで運用も柔軟に変更した。まず、ロードサービスの担当者が作業報告書をF2300でスキャンする。すると自動でクラウドストレージの専用フォルダーにスキャニングデータがアップされ、それを事務担当者がAI OCRで読み取らせて名前を変更し、検索用の保存フォルダーに保存することにしたのだ。
こうした取り組みを経て同社では2023年11月から新たな運用をスタートさせている。「新しい複合機のおかげで、人が介在することなくスキャニングしたデータがクラウドストレージのフォルダーに格納されるようになりました。AI OCRの読み取り精度も高く、状況に応じて少し修正を加える程度で済んでいます」と島田さんは話す。
データ活用で多くのメリットが期待できる
現在は運用を開始して数カ月しかたっていない。このため、作業報告書のデータ検索面での効果は発展途上だ。しかし、「今後データが蓄積されてくると、大きな違いになるはず」(島田さん)。昨年の案件や、それ以前の案件の問い合わせが入ることも珍しくないからだ。
「これまで誰が担当者か分からないために、『●●年の■月位に担当してくれたあの親切なイケメンの人』という曖昧な問い合わせもありました(笑)。今後はデータベースの活用によって時期だけでなく、相手の電話番号や車種、車の色からも検索できるので、担当者がすぐ分かります。そうした迅速かつ丁寧な案件対応が、車検の仕事につながることもあるので事業面での効果も期待できます」。
働き方の見える化や人事評価という面でもデータが活用できそうだ。誰がいくつ案件を担当したのかが分かり、サービスを受けた人のサンクスメッセージを社長が直接確認することもできるようになる。同社では今後他の業務にもAI OCRやクラウドストレージなどを積極的に活用していく予定だ。
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ミノダ自動車工業の島田笑さん(写真右)とNTT西日本の担当者[/caption]
「クラウドストレージなどの活用でとても便利になりました。ただ、社内にはITに詳しくない人もいるので、その良さについての理解を広げることで、さらなる業務効率化につながると思います。また全てのサービスや機器をNTT西日本にまとめたことで、問い合わせや相談がしやすくなりました。気軽に相談に乗ってもらえるので助かっています」とも島田さんは期待を話す。DXに取り組む同社にとってNTT西日本は頼れるパートナーと言えるだろう。
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