<解説>仕事に結果が伴わないとき、人は往々にして「人」を責めがちだ。人に問題があるケースは皆無ではない。しかし、多くの場合「仕事」そのものが生産的でない。仕事とはプロセスであり、いくつかの作業で構成される。事前に分解、分析し、本来あるべきプロセスを設計しなければならない。仕事の結果は管理できないが、プロセスは管理できる。仕事のプロセスを分解すれば、人が自らの行動を振り返り、修正することが可能になる。そして結果が変わる。人と仕事をはっきり区別することから、マネジメントは始まる。
20代のころは、定例の会議すら開いていなかった。クレームが発生したり、売り上げが伸び悩んだりしたときだけ社員を招集し、「気合が足りない!」などとげき(檄)を飛ばしていた。
やがて月1回の販売会議を開くようになったが、議題は曖昧で、きちんとした資料の準備もなかった。臨時会議をたびたび開いて社員を叱咤(しった)する手法も、相変わらずだった。
そんな会議のやり方にメスを入れるきっかけになったのが、起業から21年たった2011年、初めて減収減益に転落したこと。なぜかと考えあぐねていたとき、ドラッカーに出合って衝撃を受けた。
ドラッカーに学んで実践したのが、営業の「プロセス管理」だった。
ドラッカーはこう説く――「仕事とはプロセスである。プロセスはすべて管理しなければならない。したがって、仕事を生産的なものとするには、仕事のプロセスに管理手段を組み込まなければならない」(『マネジメント[上]』)
会議は、仕事のプロセスを管理する場。その目的は、生産性向上にある。そう認識を改めた。
そこで販売会議に社員が提出する報告書の書き方を変えることにした。従来は「結果」を示す数字の報告ばかり求めていた。それを結果につながる「プロセス」が見える形に変えようと考えた。
では、主力事業であるビルやマンションの管理業務では、売り上げを上げるまでのプロセスに、どのような活動があるのか。幹部に洗い出しを頼んだ。浮かび上がってきたのは、顧客との面会や打ち合わせ、修繕の見積もりの提出など。これらの活動の回数を記録できる報告書のフォーマットを新しくつくった。
15年3月に、このフォーマットを導入し、販売会議の頻度を月1回から週1回に上げた。
すると、柴田社長の営業社員に対する関わり方が一変した。
以前は、成績の悪い社員には、ただ「頑張れ」と言うだけだった。それが「既存顧客への訪問件数を増やしたらどうか」「提案件数が足りないのではないか」など、具体的な指示が出せるようになった。
「結果しか見えなかったときは、『なぜ成績が上がらないのか』といら立ち、社員を責めていた。だが、プロセスが見えるようになって『どうすれば成績が上がるのか』を、社員と一緒に考えられるようになった」と柴田社長は話す。
思いがけない事実も判明した。
営業のプロセスをより詳細に分析するために、営業社員の時間の使い方を調べたところ、7時間の就業時間のうち、顧客と会っている時間はわずか20分ほど。全体の5%にも満たないと分かった。
「これで売り上げが伸びるわけがない。とにかく、営業社員が顧客と接する時間を増やそう」。この1点に焦点を絞って、営業体制の改革に乗り出した。
営業社員をチームで支援
まず、本社のある相模原から離れた東京や横浜での飛び込み営業をやめた。営業社員を地域密着で活動させた結果、移動に使う時間が減る一方、見積もりの提出件数が増え、契約獲得につながった。
さらに「営業社員が本来の役割に集中できるよう、チームで支援する体制を整えた」(柴田社長)
例えば、既存顧客の建物に大規模修繕が必要になる時期を、工事部門が調査。近づくと営業部門に伝えることにした。その結果、営業担当者が、顧客に先回りして工事を提案できるようになった。
また、顧客からの依頼事項はすべて、事務スタッフが資料にまとめ、週1回、営業の社員全員と開く「面倒見会議」に提出。対応が遅れているものがないかを確認する。
販売会議に提出する報告書も、事務スタッフが営業担当者の代わりに作成している。
営業のプロセス管理に取りかかってから1年足らずで、成果は上がり始めた。16年2月期、不動産管理業務による売上高は、前期より3000万円増え、14億9000万円になる見込みだ。
日経トップリーダー 構成/尾越まり恵
【あなたへの問い】
■自社の業務で、うまくできる人とできない人の個人差が大きいのは何ですか?
<解説>仕事とは「客観的な存在」だと、ドラッカーは指摘します。個別の仕事は、誰がやるかに関係なく、その機能やプロセスは共通なのです。にもかかわらず成果の個人差が大きいとすれば、担当者の間で、その仕事の機能やプロセスが明確になっていない、あるいは共有されていないからでしょう。どんな段取りで業務を進め、どんな活動を増やすことが成果につながるのか、一度、話し合ってはどうでしょう。社員が持てる力を発揮し、開花させるきっかけとなるはずです。(佐藤 等)
次号:実例で学ぶ!ドラッカーで苦境を跳ね返せ(特別編1)
「イノベーション編 社員との対立を乗り越え経営改革」2017年1月16日公開