実例で学ぶ!ドラッカーで苦境を跳ね返せ(第21回)自社が得意とするもの編 バーベキューで利益率倍増

経営全般 増収施策

公開日:2017.08.02

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 実例からドラッカーのマネジメントを学ぶ連載。今回は、受注件数が年間1件から30件に急成長を遂げた都田建設の取り組みの続編です。自社の強みを知り、育てるためのケーススタディーとなります。同社は、顧客に聞いた自社の強みを社風として定着させるために「真剣バーベキュー」を始めました。

「経済的な業績は、差別化の結果である。差別化の源泉、および事業の存続と成長の源泉は、企業の中の人たちが保有する独自の知識である。成功している企業には、常に、少なくとも一つは際立った知識がある。そしてまったく同じ知識をもつ企業は存在しない」
(『創造する経営者』145ページ)

<解説>組織の強みとは何か。ドラッカー教授は、組織を構成する個々のメンバーが持つ「独自の知識」だと考えた。その知識は、1人ひとりが無意識に繰り返す活動や行動に表れる。

 例えば、トヨタ自動車には「トヨタ式」という言葉に象徴される独自の知識がある。その蓄積が、他社との間に顧客価値の差を生む。実際にはトヨタに限らず、大抵の企業が独自の知識と強みを持つ。しかし、自覚するのが難しい。得意なことは当たり前にでき過ぎて、自分では気付きにくい。

 ドラッカー教授は、自社の強みを知る手がかりとなるいくつかの問いを残した。都田建設の蓬台(ほうだい)社長は、これらを使って、自社の強みを認識した。何気ない顧客の言葉に大きなヒントがあった。いったん強みが分かれば、強化が可能になる。都田建設では、社員の魅力を磨くため、週1回のバーベキューを始めた。組織の強みを伸ばす活動を日々積み重ねることが、業績に大きな差を生む。
(ドラッカー学会理事=佐藤 等)

ドラッカーに学んだ先輩企業(14)「都田建設」(後編)

楽しく歓談した後、後片付けまで1時間で終える。参加者全員に時間管理能力やコミュニケーション力が求められる。視察者も多い

 「そうだ、バーベキューをしよう!」――。2008年の正月、天啓のようにひらめいた。

 同年8月から、都田建設(静岡県浜松市)では週1回、昼休みに全社員が本社の裏庭に集まり、バーベキューをしている。社員は今では約50人。正午に全員が集合してスタートし、午後1時には、後片付けまできっちり終える。開催回数は、累計400回を超えた。

雰囲気がお金になる

 バーベキューを始める前年、蓬台浩明社長は、悶々(もんもん)としていた。

 大手ハウスメーカーから都田建設に転職して10年目のこの年、創業者から社長を任された。

 確かに実績は上げてきた。大工出身の創業者と事務員1人の小さな会社に飛び込み、「攻めの営業」で奮闘。年間1件ほどだった戸建て住宅の受注を、わずか2年で30件に伸ばした。

 その後、方針を大転換。商圏をぐっと絞る代わりに、自社が建てた住宅にトラブルがあったら、1時間19分以内に社員が駆けつける「宝の声119番」対応を導入。顧客のライフスタイルを重視したきめ細かい営業にかじを切り、一定の手応えを感じていた。

 しかし、何か物足りない。

 何度も読み返したドラッカーの書籍の一節が、脳裏に響いた。

 「何をもって憶えられたいか」(『非営利組織の経営』)。

 ただ業績を上げて、「ちょっと変わった建設会社が浜松にある」と覚えられてもつまらない。組織としての魅力で「面白い会社が日本にある」と世界に知られたい。では、都田建設の面白さとは何か。魅力とは何か。なかなか答えは出てこなかった。

 ドラッカーは「自社が得意とするもの」を把握する方法について、『創造する経営者』に記す。

「他社はうまくできなかったが、わが社はさしたる苦労もなしにできたものは何かを問わなければならない」
「上得意の顧客に対し、わが社は他社にできないどのようなよい仕事をしているかを聞かなければならない」

 そこで顧客を訪問し、「なぜうちを選んだのか」と直接尋ねた。だが、明瞭な答えが返ってこない。「うーん、何となく……」と、首をかしげる。「えっ、理由がない?」と、驚いた。「そんなことで、うちの会社は大丈夫か」と思いながら、食らいついた。「もうちょっと何かないですか。小さなことでいいですから」。すると、こう言われた。

 「雰囲気かなあ。あえて言うなら人っていうか……」

 また驚かされた。雰囲気だけで、数千万円もする買い物を決めたのか。にわかに信じられなかった。しかし、よく考えると、それが本当ならば大変な強みだ。顧客が指摘した「雰囲気」について、改めて考えた。商品や販促物のデザイン、社員の服装や表情、人柄――。それらが全体として醸し出す社風を指すのだろう。

仕事中にサーフィン?…

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佐藤 等佐藤等公認会計士事務所

佐藤等公認会計士事務所所長、公認会計士・税理士、ドラッカー学会理事。1961年函館生まれ。主催するナレッジプラザの研究会としてドラッカーの「読書会」を北海道と東京で開催中。著作に『実践するドラッカー[事業編]』(ダイヤモンド社)をはじめとする実践するドラッカーシリーズがある。

【T】

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