実例からドラッカーのマネジメントを学ぶ連載の最終回。山形県の八幡自動車商会の後編は、資源の集中で業績を伸ばしたプロセスと将来の目標を紹介します。父親が創業した自動車整備工場を継いだ2代目は、社員教育の強化で利益率向上をめざします。
1998年、八幡自動車商会の池田等社長は車検事業に集中するため「コバック 庄内八幡店」を出店した。トップ自ら営業に奮闘。当時は、寝ても覚めても頭の中は、車検のことばかり。道を走る車のフロントガラスに貼られたステッカーを見れば、車検が切れる時期が分かる。もうすぐという車を見つけては追いかけ、自宅を訪問して売り込んだ。
こうして3、4年頑張ると、年間1600件を受注するまでになった。「この立地で驚異的な数字」と驚いたチェーン本部の社長や役員が、ほかの加盟店の経営者を連れて視察に来た。
上昇気流を受けて、次の一手を考え始めた池田社長は、ある数字に目を留めた。運輸局のデータによると、山形県内のマイカーのうち、約半数が軽自動車。思いのほか、比率が大きい。そこで軽自動車の車検に集中しようと考えた。車検を確実に受注するため、軽自動車を安く売る。目的は車検だから薄利多売でいい。
2001年、ショッピングセンター内に、実験的に軽自動車専門店を出した。最初は何が売れるのか分からず、オークションなどで20~30台の雑多な軽自動車をかき集めて並べた。その中で売れる車と売れない車が明確に分かれた。
売れ筋は2種類。80~90万円の「高めの中古車」か、30万円以下の「激安の中古車」。100万円以上する新車は高くて売れず、中間価格帯の中古車も不人気だった。「高めの中古車」とは、具体的には、未使用の中古車。実質的には新車と変わらないが、2、3割安く、品質と価格をバランスよく求める層に支持されていた。
一方、30万円以下の中古車は、安さを徹底して求める層が買っていた。だが、商品に目を向けるとあまりに古くて整備に不安が残る。これでは「お客さまの安全をお守りすることを絶対的使命と考えます」というミッションに反する。池田社長は「未使用の中古車に特化しよう」と決めた。
2002年、未使用の軽自動車に特化した「fino(フィノ)」を出店。狙い通り、軽自動車の販売と車検の両輪で、急成長した(右ページグラフ)。18年1月期の売上高は約31億円。入社から20年で約60倍に増え、「地銀並みの給与水準という目標も95%達成した」(池田社長)
一方で、営業利益率が1%前後にとどまることは課題だ。とはいえ、「車の医療に携わる医者」として、利益が薄くても伸ばしたい事業もある。例えば、軽自動車を買った人への無料サービスとして、過疎地でも自宅近くに出向き、オイル交換などをする「巡回整備」。
「高齢者には、自動車のメンテナンスのために十数キロを運転するのも疲れるという人が多い」(池田社長)ことに、課題を感じた。実際、田畑の真ん中でオイル交換をしていると、「うちもやってほしい」という高齢者が次々に現れる。
このようにミッションを貫きながら、いかに利益を上げるか。「カギを握るのは人材育成だ」と、池田社長は考えている。
「異常値」を探し出せ!
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社員教育に動画を活用。特定分野に強い社員のセールストークなどを集めて視聴、学習できるようにしている[/caption]
現在、約130人にまで増えた社員の大半は20~30代。新卒採用に力を入れてきたからだ。目下、そんな若手一人ひとりの強みの開発に取り組んでいる。
キーワードは「異常値を探せ」。例えば「スラッジナイザー(エンジン内部を洗浄するサービス)の受注が全国1位」といった、「ニッチなトップ社員」を発掘し、たたえる。さらに、その社員のセールストークを動画に記録し、社内で共有する。社員たちは隙間時間にスマホを操作するだけで、トップセールスの技を学べる。
「この蓄積が生産性を上げ、利益率を上げるはず。今の若手が中堅に育つ10年後には、利益率10%も決して夢ではないはずだ」と、池田社長は語る。
【あなたへの問い】
■ 自社の商品やサービス、事業のうち、継続して粗利を多く確保しているものはどれですか?
■ その商品やサービス、事業は、お客さまの生活や仕事の、どんな場面で役立っていますか?
■ そこで生きている自社独自の知識やノウハウは何ですか?
物語の冒頭、得意先に投げつけられた心ない言葉は、八幡自動車商会の事業が、全体として顧客に支持されていなかったことを示します。ドラッカー教授の言葉を借りれば、「市場におけるリーダーシップ」がなかったのです。
逆に、継続して高い利益率を確保していた車検事業は、そこだけ切り取れば、顧客から支持されていたはずです。高い利益率を得ながら、リピートが絶えなかったわけですから。このような分野にこそ経営資源を集中すべきです。働く人の誇りにもつながります。
(Dサポート代表※ 清水祥行)
※ Dサポートは、ドラッカーのマネジメント体系を活用した人材開発支援を手掛け、本連載を監修するドラッカー学会理事の佐藤等氏と清水祥行氏の2人が、代表取締役を務める
※ ドラッカーの著作からの引用ページは、ダイヤモンド社刊行の書籍に準拠
日経トップリーダー 構成/尾越まり恵