ここまで「チームの成長を促す」ためのアプローチについて見てきましたが、逆に、「チームの成長を妨げる」振る舞いにはどのようなものがあるのかを知り、それを避けることも重要です。リーダーは常にメンバーから見られています。しかし、見られていることに、本人はなかなか気付くことができません。
同じ仕事をするなら、できれば良いリーダーの下で働きたいし、自分もできれば良いリーダーでいたい。しかし、知らず知らずのうちに、自分がメンバーのやる気をそいだり、成長を阻害したりするような行動をしてしまっているかもしれません。チームの成長を妨げる代表的なアンチパターンは7つあります(図1)。
たたき上げで実績を出してきたリーダーほど、「経験至上主義」に陥りがちです。確かにその経験は貴重なものです。しかし、人が経験できることは限られています。より広い視野を手に入れるためには「知識」が必要です。ところが、経験至上主義のリーダーは、勉強するメンバーを「頭でっかち」だとバカにします。「頭でっかち」でもいいではありませんか。それを実際にやらせてみれば、経験から学ぶことができます。そのとき、知識は経験の価値を高めてくれるのです。
(5)丸投げする
任せるということと「丸投げする」ことは明らかに違います。松下電器(現パナソニック)創業者の松下幸之助氏は「任せて、任せず」と言いましたが、メンバーの力を引き出すリーダーは任せっ放しにはしません。任せながらもプロセスを見守る。必要があればアドバイスする。そうやって、最後までやり切れるように導くことがリーダーの役割です。ましてや、丸投げしておいて、出てきた結果に文句を言うようでは、メンバーは言われたことしかやらなくなります。
(6)発言が変わったことを認めない
言うことがコロコロ変わるリーダーがいます。しかも、変わったということを認めない。「そんなことは言ってない」。言ってただろ!みんな聞いてたわ!(メンバーの心の声)。変わること自体が悪いわけではありません。理由もなくコロコロ変わる、しかも認めないのがいけないのです。「根拠にしていた事実が変わったから方針も変わるんだ」と説明できればメンバーも文句はないのです。
(7)他の部署や上に意見できない
チームや部署内では強気なのに、他の部署には何も言えない。上に対して「はい」としか言わない。メンバーが最も嫌うのがこうした“自分かわいい”の姿勢が透けて見え見えの「事なかれ主義」です。この人は、いざとなったら自分たちのために戦ってくれる。言うべきことを言ってくれる。そう思えるからこそ、メンバーは多少の無理もしようという気になれます。論理立てて言うべきことは言う。結果が変わらなくてもいいのです。言ってくれたという事実をメンバーは重視します。ただしパフォーマンスで言っているのはメンバーに見抜かれますからやめておきましょう。
これら7つを意識して少し気を付けるだけで、メンバーの力を引き出して成果を上げることが可能です。
メンバーをうまく動かす3つのコツ
「言われたことしかしない」「勉強しない」「自分で考えない」――。セミナーやコンサルティングを実施した際に、筆者が現場リーダーからよく聞く、メンバーに対する3大不満です。しかし、経験を重ねるうちに、これらの問題はマネジャーがメンバーにどう接するかによって、かなりの部分を改善できることが分かってきました。メンバーをうまく動かすためのコツは3つあります(図2)。
(1)指示よりも質問をする
多くの場合、マネジャーはメンバーよりも能力があります。だから、メンバーがやっていることを黙って見ていられない。その結果、どうしても「ああしろ」「こうしろ」と指示が多くなります。
ずっと指示をしていると、メンバーは指示を待つようになります。「どうせ指示されるなら、初めから指示通りにすればいい」と考えるのです。メンバーの能力を引き出すには、指示よりも「質問」することです。「どうしたらいいと思う?」「◯◯さんはどう思う?」と聞いてあげれば、メンバーは自分で考え始めます。
(2)問題解決の権限を与える
「感動」を呼ぶサービスで有名なホテルグループ「ザ・リッツ・カールトン」が、世界一クオリティーの高いサービスを提供するために現場の全スタッフに2000ドルまでの決裁権を与えているという話は有名です。実際に使うことは少ないのでしょうが、この「権限」を与えていることに意味があります。
問題がそこにあるとき、解決の権限が与えられていなければ自分の頭で考えるでしょうか。いえ、まずは「お伺い」を立てようとするでしょう。人は権限を与えられると、そうでないときの何倍も自分の頭を使います。メンバーが自分で考えないのは、マネジャーが権限を与えていないからかもしれません。
(3)期待する
「人は期待通りに動く」と言われます。「どうせお前には無理だろう」と言われて、発奮してやる気になる人はわずかです。「君にならできる」と言われれば、「やれるかも」と思うのが人間です。
私がかつて下に付いた上司は、人使いがうまい人でしたが、その人の殺し文句は「お前らしくないな」というものでした。「お前なら、それぐらいできるだろう」ということです。こう言われると、「うまいこと言いやがるな」などと思いながらも、つい頑張ってしまいます。
「人を使うは苦を使う」。こう言われるくらい、なかなかうまくいかないのが現実です。しかし、メンバーもリーダーも同じ人間です。「人として、どう接してもらえるとうれしいのか」を素直に考えることができれば、メンバーとの関係はもっと良いものになるはずです。
まとめ
●立場によって「ふつう」の基準が異なることがある。リーダーはこれを認識し、自分と相手が「ちがう」前提に立ち行動すべき。
●チームは4段階の成長過程を経てまとまる。段階ごとに適切なリーダーシップスタイルが必要。
●メンバーを動かすには「接し方」が重要。頭を使わせる、権限を与えるなどの工夫をする。