現実のプロジェクトが見積もり通りに進んでいくことは、まずありません。そのため、途中のプロセスを注意深く見ていく必要があるのですが、実際、とても面倒です。プロジェクトリーダーは多忙なので、定例の進捗会議がいつのまにかとびとびになり、現状を把握し切れていないという状況になりがちです。
ここで起こるのが「バックドラフト」状態です。バックドラフトとは、密閉された空間で火災が生じたときに起こる爆発現象をいいます。密閉されているので、燃焼するだけの十分な酸素がなく、火の勢いが衰えています。見た目には火は収まっているように見えます。この状況で窓やドアを開くと、酸素を含む空気が急速に吸い込まれて爆発を引き起こすのです。
プロジェクトでも、あたかも火が収まっているかのように見えることがあります。メンバーの状況が閉じられていて見えず、どうなっているのかなとフタを開けてみると「全く進んでいない」「不具合だらけで、やり直す必要がある」という、手の施しようがない状況を初めて知ることになるのです(図1)。
プロジェクトリーダーは、なんとしてもそんな状態に陥るのを回避しなければなりません。しかし、ガチガチに管理すればいいというものでもありません。人はそれぞれに「最もパフォーマンスを発揮できる距離感」を持っているからです。この距離感が近過ぎても、遠過ぎてもいけないのです。
メンバーそれぞれの「最もパフォーマンスを発揮できる距離感」を踏まえて仕事を渡すと、生産性が驚くほど向上します。人はそれぞれ、さまざまな特徴がありますが、筆者がこれまで接してきた1000 人以上の人たちをタイプ分けすると、図2 の7つに分かれます。
もちろん、すべての人が7つのタイプのどれか1つに当てはまるわけではありません。複数のタイプに当てはまる人もいます。大切なのは、タイプに分けることではなく、プロジェクトリーダーが「メンバーはどのような性質を持っているのか」を観察し、各メンバーに「どのように働きかければ、最もパフォーマンスを発揮できるのか」を考える姿勢を持つことです。観察し、力を引き出そうとする姿勢が、人を見る力を養います。では、タイプごとに「パフォーマンスを発揮できる距離感」を見ていきましょう。
(1)任せてバリバリタイプ
このタイプは、能力が高く、任せれば任せるほど能力を発揮します。このタイプの特徴は「干渉を嫌がる」ことです。能力の高いメンバーは、自分なりのプロセスや方法論を持っている場合が多く、自分のやり方にこだわります。このタイプが最もパフォーマンスを発揮する距離感は「目的だけ示して手段は任せる」というものです。
もちろん、進捗状況をモニタリングする必要はありますが、そのとき注意すべきは「よく分からないのにツッコまない」ことです。このタイプは自分流のやり方を持っていますが、それを説明しない人が多いのです。説明しなくても、頭の中ではきちんと組み立てています。
しかし、プロジェクトリーダーから見れば、それはブラックボックスなので不安が残ります。そこで「どうなっているんだ!」とツッコんでしまうと、つむじを曲げてしまいます。
能力を発揮させつつ、状況をモニタリングする方法は、「やり方の詳細を聞いた上で理解を示しながら、仕事の組み立て方を“見える化”すること」です。フローや図を描いたり、聞いた内容を箇条書きでリストアップしたりして、本人の頭の中にあるシナリオやストーリーを見える化するのです。これにより、潜んでいるリスクや改善点を一緒に考えることができます。
(2)寡黙なきっちりタイプ
普段は目立たないけれど、きっちりと結果を残すタイプが、チームには1人か2人いるものです。このタイプは黙々と仕事を進めますが、コミュニケーション量が少なく、“報連相” が苦手です。仕事に集中するあまり、報連相がおろそかになります。
このタイプにとってコミュニケーションは、自分の仕事を妨げるものでしかありません。そのため、報連相を強要することはパフォーマンスの低下につながります。このタイプにパフォーマンスを発揮してもらいながら、状況を把握するには「どんなときに報連相をしてほしいのか」の基準を示します。
例えば、「進捗が遅れそうな見通しのとき」「作業量が想定よりも増えたとき」「品質が想定よりも確保できそうにないとき」「新たなリスクを感じたとき」などです。それ以外のときはある程度任せて、タイミングを見計らってプロジェクトリーダーが自ら聞きにいくようにしましょう。
(3)やりたがり暴走タイプ
自分の好きな仕事にはモチベーションが高く、どんどん1人で進めていく。その一方、気が進まない仕事には全くヤル気を見せず、どちらかというと責任感に欠ける――。これは「やりたがり暴走」タイプです。
このタイプにパフォーマンスを発揮させるために大切なのは「勢いをそがない」ことです。このタイプは自分が納得してやる分には、ものすごい勢いで仕事を進めます。その勢いを生かすのです。
気を付けなければならないのが「相談せずに突っ走ること」です。このタイプは「コンセンサス」や「根回し」に無頓着です。勢いがある故に視野が狭くなりがちで、全体最適の視点からはマイナスの取り組みになっていたり、相談のないまま突っ走るので周りとのあつれきが生じたりします。
適切な距離感を保つには「勢いをそがずに、マイナス要素をカバーすること」です。そのためには、リーダーから働きかけて相談に乗ってあげる必要があります。このタイプは目の前の仕事に夢中になると、報連相はどこかに行ってしまいます。しかし、報連相をやかましく求めれば「何でも報告してからでないと進めちゃだめなんだ」と勢いをそぐことになります。そこで、こちらが状況を知りたいタイミングで「いまの状況は?」「このことは、◯◯さんは知っているの?」とフォローするのです。
(4)1人で抱え込みタイプ
行き詰まったときに周りに相談できず、1人で抱え込んでしまうのが「1人で抱え込み」タイプです。 仕事の仕方や段取りが分かってきた中堅層に多く当てはまりがちです。
経験のある仕事、ルーティン的な仕事であれば、特に問題はないでしょう。注意しなければならないのが、経験のない仕事を任せるときです。このタイプは、行き詰まったりトラブルが発生したりしたときに報告が遅れます。職歴が長く、ある程度能力もあるので、何とかしようとして伝達が遅れるのです。
プロジェクトを進める上で最も注意すべきなのが、実はこのタイプ。プロジェクトリーダーが最も油断しやすく、問題が見えにくいからです。このタイプは問題を隠します。わざと隠すのではなく、ギリギリまで自分で何とかしようとするのです。リーダーもあえてフタを開けないため、問題の発覚が遅れます。
このタイプには「抱え込むな」「トラブったらすぐに相談しろ」と伝える必要があります。そして、どのようなプロセスで仕事を進めようとしているのかを確認しておくことです。プロセスが見えれば、どこでトラブルが起こりやすいかが分かるからです。