立場が異なると、相手の「心配事」が見えなくなることがよくあります。例えば、別のプロジェクトからヘルプ人員を一時的に借りる交渉をするケースを考えます。このとき、相手の反応が芳しくなければ「こっちは困っているのに、協力してくれたっていいじゃないか」などと相手を否定的に見てしまいそうになります。しかし、相手は自分が思ってもいない心配をしているのかもしれません。「一時的にヘルプに出すのはいいが、そのまま返ってこなかったらどうしよう」と思っているかもしれないのです。必要なことは、相手には相手の世界があることを理解することです(図5)。その上で「相手の懸念は何か」「相手はどのような状況にあるか」を考えて、最も良い働きかけ方をする必要があります。
法則4:カレンシーを見つける
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相手には相手の世界があり、期待されていることも大切なことも異なるということを理解する[/caption]
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普段の仕事ぶり、時間を守ること、あいさつ、報連相など、カレンシーをためることを常に意識して行動する[/caption]
人を動かすということの本質は、相手が価値を置くものと、自分がしてほしいことを交換することであると説明しました。この「相手が価値を置くもの」をコーエン氏とブラッドフォード氏は「カレンシー(組織通貨)」と呼んでいます。普段の仕事ぶり、時間を守ること、あいさつ、報連相など、さまざまなものや行動がカレンシーとなります。
カレンシーを普段から意識してためる努力をすることで、いざというときに価値の交換をしやすくなります(図6)。例えば、上司がプロジェクトの状況把握を重視しているなら、報連相の頻度を上げたり、チームの朝礼に参加してもらったりすることで、カレンシーをためられます。
法則5:関係に配慮する
価値の交換の前提として人間関係があることを説明しました。これはつまり、いざ何か頼み事をしたくなってから動くのでは間に合わないということです。このため、現場リーダーはただ業務をこなせればいいのではなく、先を見据えて常に周りとの人間関係を構築する努力が必要になります(図7)。筆者の知る限り、できる現場リーダーは飲み会への参加率が高い傾向がありますが、これは関係を構築する場として飲み会が有効であることをよく知っているからでしょう。
また、普段の仕事ぶりから、相手の好むスタイルを知っておくことも重要です。同じ依頼をするのでも、細かい経緯まで知らないと気が済まない人、結論だけ教えてくれという人などさまざまです。
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いざというときに協力を引き出せるように、普段から良好な人間関係を築いておく[/caption]
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「自分のためではなく、プロジェクト成功のため」という一貫した姿勢が協力を引き出すことにつながる[/caption]
法則6:目的を見失わない
ここまでの5つの法則を守れば、価値の交換の準備は整ったことになります。あとは、目的を見失わずに相手に働きかけるだけです(図8)。目的とはもちろん「プロジェクトを成功させること」です。
実際にプロジェクトを進めるに当たっては、思い通りにいかないことのほうが多いでしょう。協力を得ようとしても期待した反応がなかったり、否定的な反応が返ってきたりします。
そんなときこそ現場リーダーとしての器量が試されます。「プロジェクトを成功させるためなら何でもやる」という覚悟を決めて、人間関係を構築し、価値の交換を意識すれば、周囲の協力を引き出しやすくなります。