日本社会の高齢化が問題になって久しいが、この変化は私たちが住む地域社会(コミュニティー)のあり方にも大きな影響を与えている。従来、わが国のコミュニティーは住民が密接なつながりを持ち、冠婚葬祭や田植えなどの季節ごとの行事はもちろん、日常生活でも互いに協力しあうという伝統を保ってきた。
特に地方では住民の強固なつながりが重要な社会基盤として機能していた。ところが戦後の高度成長期以降、大都市圏への人口流出が進み、急速に少子高齢・過疎化が進行したことなどによって地方の生活環境が激変。その結果、長い時間の積み重ねによって築かれてきた地方のコミュニティーが衰退しつつあるのが現状である。
これまで地方では、地域活性化策や農業振興策の予算などを活用して、公民館・集会所・スポーツ施設といった公共施設を充実させてきた。そしてそれらは、地方におけるコミュニティーを形成する場として役立っている。例えば、公民館では定期講座やサークル活動、展示会などの行事が開催され、住民が集い、お互いの交流を深めるためのさまざまな活動が行われている。
せっかくの施設も、コミュニティー形成には力不足
ただ、公民館などの社会教育施設を利用する側の住民からは、「気軽に立ち寄れる雰囲気をつくってほしい」「もっと家に近い場所にあるとよい」といった要望が根強い。多額の予算や補助金を投じて立派な社会教育施設を整備しても、肝心の利用者が少なくては意味がない。実際、公民館の場合、文部科学省が行ったアンケートでは住民の半数以上が「1年以上利用したことがない」と答えており、必ずしも、地域住民の多くを巻き込むコミュニティー形成の場として活用されているとは言い難い。…
公民館よりも身近なコミュニティーの場としては集会所がある。集会所は多目的に利用可能で、自治会や町内会などが運営するケースも多い。ただ、そのほとんどは定期的に行われる地域の自治会や町内会の会議などだ。
自治体では多くの高齢者にも公民館や集会所を利用するように努めているが、ネックになるのが「移動」の問題だ。中でも、地方に住む高齢者が置かれた状況は厳しい。地方は都市部に比べ、電車やバスなどの公共交通機関が少ないため、外出がおっくうになり、どうしても家に閉じこもりがちになる。
こうした地域コミュニティーの衰退とせっかく用意した公民館や集会所の遊休化を打破するポイントが、新しい動機づけだ。以前は、共同で農作業や水路整備をすることなど明確な目的のもと、地域の住民が集まることによって地域のコミュニティーが強固になっていた。しかし、近年、農作業は機械化が進み、水路整備などは自治体が行い、住民が集まる意味が薄れたこともコミュニティーの衰退の一因となっている。
「健康」「買い物」の動機で高齢者が集う場所に
そうした中で、地域住民が集まる目的の1つとして新たに活用されつつあるのが「健康」だ。高齢化が進む中、健康問題は住民の関心が深い。健康増進という動機を用いれば、公民館や集会所に地域住民が集い、コミュニティーの活性化も期待できる。
例えば、埼玉県宮代町では、集会所を介護予防・健康づくりのための健康体操や、地域の人々が気軽に集える地域交流サロンといった活動の拠点に位置付け、指導者の育成講座の開催や運営費の補助などを行っている。また、公民館や集会所でもダンスやカラオケなど住民が楽しめる要素を積極的に取り入れ、初めて訪れた人が「また来たい」と感じるような、魅力ある施設にするための工夫が続いている。
「健康」以外の動機としては「買い物」がある。過疎化が進み、集落が分散している地域で、自家用車を持たない高齢者だけの世帯や一人暮らしの世帯では日用品の買い物にも不自由するという、いわゆる“買い物弱者”状態に陥ってしまうケースも出ている。その解決策として、食品や日用品などをWebサイトからパソコンなどの情報端末を使って注文すれば配達してもらえる、ネットスーパーの活用がある。しかし、高齢者は情報端末を使いこなすのは難しいのが問題だ。そこでヤマト運輸では、高齢者にも利用しやすいタッチパネル式の情報端末を、地域の集会所などに配置することで利用者側のハードルを下げる試みを始めている。このような取り組みにより、集会所に買い物に訪れる習慣が高齢者に生まれ、コミュニケーションの増加が期待できる。
過疎化と少子高齢化の同時進行は、地方自治体にとって死活問題になりつつある。それによって衰退しているコミュニティーの再生は緊急の課題だ。その対策として、せっかく作った公民館や集会所を有効に活用できるのであれば、一石二鳥である。公民館や集会所は、地震・台風などの自然災害から住民を守るための拠点でもあるが、有事のときでなくても身近な施設として住民の利用を活性化することが重要といえる。