日本を紹介する海外のテレビ番組で、定番となっていたのが満員電車の通勤風景。これまで、ほとんどのワーカーが、何の疑問も持たずに決まった職場に毎日当然のように通って働いてきた。
そんな働き方に変化の芽が出てきたのが1990年代。地価の高騰により、遠距離通勤を余儀なくされるワーカーが増え、都心のオフィス賃料も上昇したことが要因だ。「ホームオフィス」「サテライトオフィス」などの言葉が生まれ、在宅勤務や分散勤務を取り入れる企業が見られ始めた。
近年、インターネットの普及とパソコンやスマートフォン、タブレットなどの情報端末の普及により、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方が無理なく、導入できるようになりつつある。ICTを活用して場所や時間にとらわれずに働く「テレワーク」が生産性を高め、コストを削減する手段として、拡大している。
サテライトオフィスなどへの分散勤務や在宅勤務だけでなく、もっと自由に働くノマドワークすらも珍しいものではなくなった。カフェでノートパソコンを開き、業務情報を確認して、ドキュメント作成などを行うといったビジネスパーソンの姿は、もはや日常的になっている。外回りの営業担当者や保守担当者は、移動中にスマートフォンやタブレットなどで会社のサーバーにアクセスし、顧客情報を確認することで、時間を効率的に使うようになっている。
もちろんそのほかにも、海外へ行った社員が普通に本社とやり取りする、物理的には離れているのにテレビ会議ならフェース・トゥ・フェースで話せる、実況さながらにチャットや画像アプリで状況を共有するなど、「社員とは自分の机で仕事をするもの」という常識は変革しつつある。モバイル機器の高度化とともに、社員自体がさまざまな拠点から仕事を遂行する“社員のモバイル化”が着実に進行している。
企業にメリットがある上、社会的な要請も…
企業がテレワークなどを推し進めている大きな目的は、業務の効率化・顧客満足度の向上と、コスト削減を両立化することにある。外出先や移動中などにも業務を進め、その情報をクラウドサービスなどで共有すれば、時間の無駄が省け、業務効率を高められる。また、外出していても顧客からの問い合わせに迅速に対応できるため、顧客満足度の向上にも貢献する。しかも、オフィスの面積減も可能になるのでコストを削減できる。
こうした企業側の狙いに加え、社会的な要請も“社員のモバイル化”を後押ししている。高齢化が進む日本では、介護が大きな問題だ。40代・50代といった企業の中枢を担うビジネスパーソンが、親の介護のために休退職する「介護離職」は、企業にとっても重大な関心事になっている。在宅勤務で、介護をしながら仕事を進められる体制を整えることが社会からも求められている。
女性活用の面でもテレワークが果たす役割は大きい。子育てしながら家で仕事ができる仕組みが整えば、育児を理由に女性が仕事を辞めるケースを減らせる。少子化対策の一環としても、テレワークに期待が寄せられているのだ。
こうした流れから、政府もテレワークの推進に取り組んでいる。2013年には、「テレワーク導入企業数3倍(2012年度比)」「雇用型在宅型テレワーカー数10%以上」などの政府目標を設定。総務省は「テレワーク試行・体験プロジェクト」を行うとともに、全国各地で普及セミナーやテレワーク導入コンサルティングなどを実施している。また、厚生労働省がテレワーク実施費用の一部を助成するなど、テレワークの推進は国の重点課題の1つになっている。
情報システムの安定運用が企業の命運を握る
企業にもメリットがあり、社会的な要請がある以上、今後テレワークが拡大していく可能性は非常に強くなっている。そうした中で、現在急がれているのは、企業のマネジメント体制の見直しだ。
例えば出退勤管理。在宅勤務には、出勤・退社という概念がない。あるのは、業務を始める時間と業務を終わらせる時間のみ。そこで、従来のものとは異なる出退勤管理が必要になる。外で仕事をしてオフィスには顔を出さずにそのまま退社というようなワークスタイルも増える。こうした多様なテレワークの形に適用できる勤務管理体制が必要になる。
評価体制の見直しも求められることになる。思い思いの場所で働いている場合、どのように働いているのかを上司が把握するのは難しい。従来の勤務評価体制とは異なる、離れた場所で仕事をする社員を評価するための仕組みも必要だ。
これらの仕組みを実現させるためには、新たな情報システムが欠かせない。システムの安定的な運用も大きなポイントだ。インターネットと情報機器の発達でどこでも働けるようになったからこそ、それが命綱にもなっている。より使いやすい情報システムを構築することが、生産性に直結する。しかも、それがダウンしたら業務が完全にストップしてしまうことになりかねない。近年ではBCP対策を考慮してクラウドを導入する企業も増えている。企業のシステム担当者はさまざまな選択肢から自社にあった最適な対応を検討しなければならない。システムトラブルへの対処、情報漏えいの防止といった安定運用の実現が非常に重要な業務になるはずだ。