日米の為替相場、ドル円の変動に気をもむ経営者は多いだろう。例えば、昨今ドル円は一時歴史的な160円台半ばの円安で推移した。そして、2024年9月中旬においては140円台前半まで戻している。ドル高・円安の主な要因は日本と米国の金利差にある。日銀は長らくゼロ金利で日本の経済活動を支え、今は利上げしたとはいえ低金利のままだ。一方、米国はインフラ対策として高めの政策金利を続けてきたが、FRB(米連邦準備制度理事会)による景気判断と利下げの動きに応じて今後のドル円相場も変動することになる。
日本経済に影響の大きい為替相場の変動
円安は輸出企業に追い風となる一方、輸入企業には痛手となる。原材料の多くを輸入に頼る食品などの物価高が続いている。輸入価格の上昇によるインフレ圧力が高まる結果、個人消費の低下を招くなど、為替相場の変動は日本経済に大きな影響を与えることになる。
円安は中小企業にどんな影響を与えるのか。独立行政法人中小企業基盤整備機構が実施した「中小企業における円安の影響に関する調査」(令和4年12月)がある。調査対象は製造業や卸売業、小売業、サービス業など1000社で、調査前には1ドル150円の円安が記録された時期だ。
円安が与える影響について、「メリットのほうが大きい」(4.5%)、「デメリットのほうが大きい」(50.6%)、「メリットとデメリットは同じ程度ある」(11.2%)、「特段の影響はない」(26.7%)となっている。メリットの内容は、「為替差益による収益の増加」、「取引先の輸出増加による受注増加」、「取引先の国内回帰による受注増加」、「輸入品価格の上昇による価格競争力の向上」、「インバウンド需要の増加」などだ。
デメリットの内容は「原材料・商品仕入価格の上昇」、「燃料価格の上昇」、「コスト増加分の価格転嫁による販売数量・売上の減少」、「物価上昇による消費マインドの悪化」などがある。円安進行の対応策として「取れる対応策がない」(37.1%)、「特に対応策は考えていない」(24%)となっており、約60%の企業が対応できない実態が浮かび上がる。
一方、「既に対応策を取っている」と「今後対応策を取る予定」を合わせると26.4%に上る。その対応策として、「商品・サービス価格への転嫁」が最も多く、「経費の削減」「仕入先・仕入方法・仕入価格の見直し」「製造・サービス体制の見直し」「人材育成・リスキリングによる労働生産性の向上」「IT、DX、設備投資を活用した生産性の向上」などが続く。
原材料の価格高騰や燃料価格の上昇などは急速な円安進行のデメリットとしてメディアなどでも取り上げられてきた。コスト増加分を販売価格に転嫁したいが、取引先や消費者に理解してもらえるかどうか分からず、価格転嫁になかなか踏み切れないという経営者もいるだろう。
円安対策で重要になる業務の見直し…
前述のアンケート調査にあるような仕入先や仕入価格の見直しといっても、相手先の理解を得られるかどうかも分かりにくい。さらに経費の削減といっても、「どの経費を削減すればいいのか、できることは既にやっている」との経営者の声も聞こえそうだ。
円安対策のみならず、人手不足の中で人材を維持・確保するには適正な人件費の確保も必要になる。そのためにも継続的な経費の見直しは必要だが、それ以上に重要になるのが業務の見直しだ。例えば製造業の場合、工場や倉庫などの現場ではITを活用した生産管理や在庫管理、出荷管理などを行っている企業は多いだろう。特に取引先が大手企業のサプライチェーンに加わる企業では、原材料や製品の受発注を含めてIT化が進んでいるはずだ。
しかし、取引先が中小企業の場合はどうだろうか。もちろん、ITを活用した受発注を行っている取引先もあるだろうが、まだ、手書きの伝票をやり取りしている取引先もあるのではないだろうか。取引先から郵送やFAXで送られてくる受発注書や請求書などの伝票を見てパソコンに入力する。伝票の数が多ければ入力する事務担当者の負担は大きくなるだけでなく、入力ミスが起きる可能性もある。また、入力した受発注データなどがそろわなければ経営会議などでの意思決定に遅れが出ることも考えられる。
業務効率化のために「仕入先の見直し」も選択肢になるが、長年付き合いのある中小企業同士の場合、「手書き伝票のやり取りをIT化してくれなければ取引を止める」とは言いにくい。取引先から仕入れる部品などの品質が優れていれば、「手書き伝票」を理由に取引を止めるわけにもいかない。
OCRやRPAを活用し業務を効率化
こうした手書き伝票にかかわる業務の効率化を促進する方法がある。OCRを活用することで伝票のデータ入力に割いていた業務の効率化が可能だ。OCRは以前からあるが、現在はクラウドサービスの利用が一般的だ。企業は手書き伝票や書類をスキャナーで読み取り、PDFファイルをインターネット経由でクラウドにアップロードする。クラウドで電子データ化された文字情報はテキストデータに変換されCSVファイルとして出力されるので、パソコンに保存、加工すればよい。
また、かつてのOCRは手書き文字のくせ字などの判読が難しかったが、現在のOCRはAIを使って高精度の読み取りが可能な「AI OCR」が主流となっており、出力されたデータの確認・修正の業務負荷を軽減できる。
さらに、パソコン上の定型業務をロボットで自動化するRPAツールを用いて業務を効率化する方法もある。AI OCRとRPAを組み合わせることも可能だ。例えば伝票の場合、AI OCRが出力したCSVファイルについてRPAを使って伝票の仕分けを行うこともできる。人手によるデータ入力などの業務を効率化するとともに単純作業はITに任せることで働き方改革につなげられる。そして、RPAなどを使って業務を効率化するには、まず、自社の業務の実態を把握する必要がある。パソコンのログを収集し、繰り返し行う業務の作業時間を把握することにより、作業の見直しやRPAの対象とする業務を洗い出すことも可能だ。
円高・円安の為替変動を先読みするのは難しいが、効率化すべき業務の可視化はITの活用で可能になってきた。円相場に負けない企業体質を作るためにも、業務の見直しからスタートしたい。
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